18. 血華覚醒
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
教会の司祭(アンフォリーの妹)
アン・レゾン
四代厄災
悲狂のアン・フォリー
神速のレーヴ
絶対死者アブソリュート
グラフの想い人
ルミナス・エフェメール
初代マリア
リーン・ホーク・マリア
クロードは目を閉じ、出雲の国での出来事を思い出していた。
フィセルに向けて放った、あの一閃。
追い詰められ、喰われると悟ったあの瞬間。
それでも振るった、最後の抵抗。
その時に掴みかけた感覚を、もう一度引き寄せようとしていた。
(あの時の俺……もうダメだと思った。このまま喰われるくらいな!せめてもの抵抗!!)
出雲刀を握る右腕に、自然と力がこもる。
「──思いだせ俺。あの時の気持ちを」
空は雲に覆われているが、空気は澄んでいる。
頬を撫でる風と街の匂いが、現実を確かに感じさせる。
その中で、意識をさらに深く沈めていく。
「ブラッディローズ」
その言葉と同時に、内側で“何か”が目を覚ました。
【くっくっ、貴様の意識にも我の欠片が入ったか】
【奴の血をもらった眷属ならそれもありえるか】
「はっ!」
反射的に目を開け、周囲を見渡す。
だが見えるのは、いつもの訓練場と遠くにいるグラフの姿だけだ。
「……今の声は……誰」
一瞬、背筋に冷たいものが走る。
振り返るが、何もいない。
息を整え、もう一度だけ試す。
「ブラッディローズ」
次の瞬間、視界が暗転した。
「え……!? な、なにこれ」
足元の感覚が消える。
空間そのものが、失われる。
その中で、ただ一人だけ──
白い髪と真紅の瞳の女が、立っていた。
【くっく……貴様、名はクロードだったかな】
声は確かにそこにある。
だが耳ではない。意識に直接響く。
クロードはゴクリと唾を飲み込み、慌てて視線を逸らした。
「う、うわー! ま、待ってくれ! 服!服きてくれ!」
両手で目を覆う。
女は肩を震わせ、笑う。
【くっくっ、我を見てそんな態度とはな、おもしろい】
【さすがジェシカに見初められるただけのある男よ】
「え? 今はジェシカって……」
思わず視線を戻す。
「まさか、マリアなのか?」
【……そう言う事だ。我が名はリーン・ホーク・マリア】
名を聞いた瞬間、空気が重くなる。
ここが現実ではないと、否応なく理解させられる。
「何で……マリアが話しかけてくるんだ……」
周囲は暗闇。
見えるのは、目の前の存在だけ。
「はあっ……はっ……! お、お前は俺に……何を」
【──別に何もしてはおらぬ。これは貴様が選んだ選択だ】
意味は分からない。
だが、その言葉だけが妙に重く残る。
──グラフ。
意識の奥で、かすかに声が響く。
「はっ……! はっ……!」
呼吸が乱れ、目が泳ぐ。
そしてマリアが一歩、近づく。
【良い。今のお前には何一つとて理解できないだろう──だが。】
顎を掴まれ視線を強制的に合わせられる。
逃げられない。
そのまま——
右手が——
クロードの腹へと沈んだ。
「──ぐはっ! な、何……やって」
内側を直接触られるような不快感が、全身を駆け抜ける。
【くっく……これで良い。貴様もジェシカ同様、争いの中へと身を投じるのだ】
────スカーレットローズは使えずとも、我の力を与えてやろうぞ─────。
視界がぼやけ意識が崩れていく。
それでも——最後に、マリアの口元だけがはっきりと見えた。
そして言葉が刻まれる。
“アブゾ・ブラッディローズ”
─────────────────
「─────おい! ──おい! しっかりしろ」
声に引き戻される。
「──っ。 あ、あれ……僕」
ゆっくりと目を開けるとグラフに支えられていた。
「いきなり全力解放などするからだ。気をつけろ」
「……え? 全力解放……?」
「──周りを見てみろ」
視線を動かす。
自分を中心に、砂や小石が遠くへ弾け飛んでいる。
「これを僕が……」
「ああそうだ。いきなりまだ教えていない身体解放をお前は全力でやったんだ」
喉が鳴る。
だが同時に、あの感覚がまだ残っていることに気づく。
支えを離れ、立つ。
「……グラフさ──いや、グラフ」
一瞬だけ目を閉じる。
「今から俺、訳分からない事をすると思う」
静かに言い切る。
「危ないと思ったら、止めてくれ」
その目に迷いはない。
「何をするのか分からんが……任せろ」
グラフは短く答える。
「止めるべき時は、俺が止める」
「ふふ、頼むよ」
呼吸を整える。
足を踏みしめる。
刀を握る手に、迷いはない。
「──行く」
構える。
そして——
一歩、踏み抜く。
“アブゾ・ブラッディローズ”
──ドクン。
──ドクン。
鼓動が響き、変化が始まる。あの"時のように"
黒い瞳が——紅へ。
髪が——白へと変わる。
「お、おい」
グラフの声が揺れる。
その瞬間、クロードの中心から風が生まれる。
それは一気に膨れ上がり、暴風となって周囲を包み込んだ。
姿が、消える。
「し、心音が……クロードお前……」
「大丈夫。俺はここにいるよ」
風の中から声が響く。
雲の隙間から光が差し、紅い閃きが走る。
クロードは一閃を放つ。
嵐が裂ける。
その中心に——姿が現れる。
紅に染まった出雲刀。
意識を保ったまま立つクロード。
「ク、クロードお前、遂に」
「はい、これですよね。俺やったよグラフ」
「ああ、よくやったクロード」
風が止み静寂が戻る。
こうしてクロードは、ブラッディローズを取り込みながらも——
全力解放状態で戦えることを証明した。




