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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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118/124

17. 五秒の敗北

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


教会の司祭(アンフォリーの妹)

アン・レゾン


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

神速のレーヴ

絶対死者アブソリュート


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール


──魔法国家アルカナン。城門前。


ジェシカはレゾンのもとへ報告するためアルカナンへ戻り、その足で教会へと向かっていた。

やはり、この国の民は皆、グリモアを信じ、顔を伏せたまま歩いている。


(何度見ても、この光景は異常だよ……前向いて歩かないと危ないじゃない)


そう思いながらも、足は止めない。

そのまま教会へ入り、大きなフォリー像の前で周囲を見渡した。


──ドクン。


耳の奥で、心臓が鳴る。


いや、違う。

これは──自分のものじゃない。


一拍、遅れて理解する。

心音が、直接“頭の中で”鳴っている。


「え!? これって……」


一度聞けば間違えない。レゾンの心音だった。


ただ事ではないと判断したジェシカは、すぐに走り出す。

向かう先は──以前、レゾンと話した塔の最上階。


”身体解放”


瞳が紅に染まる。


レンガ造りの螺旋階段を一気に駆け上がり、呼吸を整える余裕すらない。

そして、最上階へと辿り着いた。


そこで目にしたのは──。


「何で……何でお前たちが私より先にいるんだ!」

「あは! あははー!」


軽い声が響く。

場に似つかわしくないほど軽いその笑い声が、レンガの壁に反響する。


そこには、固まった血で両手足を拘束され、口を押さえられたまま持ち上げられているレゾン。


そして、それを片手で持つルミナスと──笑っているアブソリュートがいた。


「いやーなんて言うかさ? いい感じに踊ってくれたからさぁ?」


無邪気な子供が欲しい物を買ってもらったような様子で、肩を大きく揺らし笑っている。


「今の俺、すっげー気分良いわけよ」


そう言いながら、レゾンの首元の紐を引きちぎり、そこについていた鍵を取り──ジェシカへと差し出した。


「だからさ──ほら、これ欲しかったやつでしょ。持って行きなって」


あまりにも軽い口調だった。


「レゾンは──その人はどうするつもりなんだ!!」


声が荒くなる。


「おーおー、あはは!怒ってるねー」


笑っていたアブソリュートの表情が、すっと消える。


「……お前には関係ない事だ」


空気が、わずかに沈む。


「これ以上干渉してくるなら殺すよ」

「──!?」


その声に、ジェシカの中で何かが弾け考えるよりも先に、言葉が出る。


───────────


「スカーレット・ローズ」


───────────


紅が舞う。


両手から溢れた血が花びらのように散り、右手へと集まり、軋む。


そして──金色に輝く大鎌が握られていた。


「あはは!いやーやっぱジェシカちゃんはマリアなんだね!」

「うるさい! まずはお前のそのイラつく笑いを消してやる!」


迷いはなかった。

踏み込み、そのままアブソリュートに向け大鎌を振り下ろす。


──!!


止まる。

アブソリュートの腕一本で、完全に受け止められていた。


しかし。


ポタ……


ポタ……


スカーレットローズの大鎌の刃を伝い、血が落ちる。


だがその色は──赤ではなかった。


黒い。


「……お前まさか……」


違和感が、確信に変わる。


「死者と人間の間に産まれた……」


その言葉に、アブソリュートの表情が変わる。


「……さすがだよ」


低く、抑えた声。


「せっかく気分が良かったのに。 全く、本当に……俺をイラつかせてくれる」


空気が一瞬で歪む。

いや──震えている。


大気そのものが、わずかに揺れ始める。


黒いオーラが、ゆっくりとアブソリュートを覆っていく。


「な、何だ……この嫌な雰囲気は……」


本能が警告していた。


危険だと。


「我が主人さま、どうか気をおさめて下さい」


ルミナスが声をかける。


だが。


「……俺様の血を……」


声が重なる。


「血を……血を!!許さん!!」


その瞬間。

そこにいたのは、もう“少年”ではなかった。


黒いオーラが膨れ上がり、床に落ちた血がわずかに逆流する。

空気が重く、肺に空気が入らない。


そこに立っているだけで、“近づいてはいけない”と身体が理解する。


「これが……絶対死者アブソリュート……」


ジェシカの膝が崩れる。


抗えない。

ただ立っていることすら困難だった。


ルミナスが前に出る。


「我が主人。今は気を納め下さい」


必死に言葉を続ける。


「ここで動いてしまうと全てが水の泡に──」

 

ルミナスが言葉を続けようとした、その時。


違和感が走る。


視界の端で、何かがずれた。


次の瞬間。


床に、右手が落ちていた。


遅れて、血が噴き出す。


切られた“感覚”が存在しない。


ただ、結果だけがそこにある。


「あ、主人……なぜ」

「調子に乗るな」


冷たい声。


「雑魚のクセに」


感情は、ほとんど乗っていない。


「だがこれで少しは俺様の気は済んだ」


何事もなかったかのように、視線がジェシカへ向く。


「早くそれと箱を持って姿を消せ」

「なっ!? レゾンはどうする気だ!!」

「この先の事はお前に関係ない事だ。去れ」


その視線だけで、理解させられる。


逆らえば終わる、と。


そして。


「五」


唐突に始まる。


「四」


思考が止まる。


「三」


動けない。


「二」


助けたい。


だが、身体が動かない。


(くそ……っ……!)


「一」


限界だった。


ジェシカはルミナスの右手と共に鍵を掴み取り、同時に箱へ手を伸ばす。


振り返る余裕はなかった。


「──身体解放。」


血の足場を作る。


空へ跳ぶ。


遠ざかる。


(ごめん、レゾン!)


歯を食いしばる。


(必ず助けに来るから!)


涙が滲む。


それでも止まらない。


ジェシカはアルカナンを離れミネルバへと向かった。


─────────────


そんな事態になっているとは、まだ誰も知らないディヴァインリーパーの面々は、目の前の訓練に集中していた。


──三日前。


拠点裏にある開けた訓練場。

地面は踏み固められ、ところどころに剣の傷が残っている。


その中央で、クロードは刀を握っていた。


肩で息をしている。

喉が鳴るほど荒い呼吸。


「よし、いいぞクロード」


少し離れた位置から、グラフが声をかける。


「はぁ……っ、はぁ……はい……これで僕もようやく……」


言葉が続かない。

肺が限界まで使われている。


それでもクロードは、刀を握る手を緩めなかった。

グラフは一歩近づき、クロードの腰にある刀へ視線を落とす。


「次は、そのブラッディローズを使って──その出雲刀の刃を紅く染めてみろ」


静かな声だが、指示は明確だった。


クロードの喉が鳴る。


危険な工程だと、理解しているからだ。


「……はい」


短く返す。


一度、深く息を吐く。

胸の奥に溜まった空気を無理やり押し出すように。


次に、ゆっくり吸う。


肺を満たし、意識を一点に集める。


周囲の音が遠ざかる。


風の音も、グラフの気配も、すべて薄れる。


残るのは、自分の鼓動だけ。


ドクン。


ドクン。


クロードは刀を抜いた。


刃が光を反射する。


両手で握る。


手のひらは汗で湿っている。


「──ブラッディ・ローズ」


その瞬間だった。


身体の内側から、強引に何かが引き抜かれる。


「っ……!」


胸の奥が引きつる。


──血だ。


自分の血が、勝手に動いている。


腕を通って、手へ。


そこから、刃へと流れ込んでいく。


視界の端で、自分の腕の血管がわずかに浮き上がるのが見えた。

刃が、じわじわと赤く染まり始める。


だが同時に──力が抜ける。


膝が震える。


身体の内側が、空になっていく感覚。


「うがっ!!」


耐えきれず、声が漏れ呼吸が乱れる。

吸っても、酸素が足りない。


視界が白く滲みむがそれでも、握る。

ここで離せば終わる。


だが──限界だった。


血の流れが途切れる。

刃の色は、半分ほどで止まり完全な紅にはならなかった。


「くっ……ダメだ……」


膝から崩れるように、地面に落ちる。

片膝をつき、もう片方の手で地面を支え汗が顎を伝い、ぽたぽたと落ちていく。


その様子を、グラフは無言で見ていた。


少しして、口を開く。


「……今の感覚、覚えておけ」


クロードは顔を上げ息が整わないまま、必死に頷く。


「お前ができなければ、俺たちは先に進めない」


言葉は重い。

だが、責める響きではない。

事実だけを置いている。


「だが、無理に引き出すものでもない」


グラフは視線を外し、少し離れた場所を見る。


「……対策を考えろ」


クロードは小さく答える。


「……はい」


グラフは背を向けた。


「少し休め」


そう言い残し、歩き出す。

向かった先には、一振りの黒い片手剣があった。


地面に刺さるように立てられている。

普通の剣ではなく近づくだけで、肌がざわつく。


フィセルのマナが埋め込まれた剣。


それは、触れられることを拒んでいるようだった。


だが、グラフはそれを握る。

その瞬間、わずかに腕に抵抗が走る。


「……いい加減認めろ」


力で剣を押さえ込むが微かに、反発が返る。


「お前は、もう負けてる」


小さく呟く。

まるで相手と向き合うように、構え視線は遠くを見ていた。


一方その頃。

アンディはすでにこの場を離れていた。


アリスの診断を受け、自分に合う武器を求めてグレンの元へ向かっている。


それぞれが、それぞれの戦いをしている。


だがまだ誰も知らない。


この先に待つものの重さを。

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