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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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14. 救済は、血に濡れて

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


教会の司祭(アンフォリーの妹)

アン・レゾン


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

神速のレーヴ

絶対死者アブソリュート


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール


ジェシカはルミナスに同行どうこうし、今や聖王国せいおうこくリベリオンの王にして四代厄災よんだいやくさい神速しんそく”の異名いみょうを持つレーヴを殺しに向かっている。

だがその実態じったいは、利権りけんの欲にまみれた皇位こうい司祭しさいによって作られた虚像きょぞうでしかなかった。


名を利用りようされたレーヴ。


ジェシカとルミナスの二人は、リベリオン城へと足をはこぶのだった。


───────────────

──リベリオン城内じょうない


「ねえ、なんか警備薄くない?」

「二日後の大戦たいせんに向けて、兵士は最小限さいしょうげんなんだと思います」


ルミナスの言葉はまとていた。


城のかなめとなる城門には二人の兵士のみ、場内じょうない巡回じゅんかいする兵士すら見当みあたらない。


心音しんおんさぐ必要ひつようすらないね」

「そうですね。それでは一気いっきに向かいますね」

「分かった」


ルミナスはジェシカに無言むごんうなずき、早足はやあしでレーヴの心音がある場所へと、他のことなど目をくばることなく進んだ。


──────────


二人は大きなとびらの前に立っていた。


「ここです」

「うん、確かにここから違う心音が聞こえるね」


「それでは行きます」

「うん」


ジェシカはゆっくりと片方かたほうの扉を開け、中に入った。


そこには、王とは思えないほどざつあつかいをされている一匹の死者ししゃくさりつながれ、赤いひとみだけが暗い部屋で一際ひときわ光っていた。


「……あれが神速のレーヴ」

「はい、あれがです」


倒す、倒さない。そんな話ではなく、ただくさった死者がそこにいるだけの存在そんざいにしか思えないジェシカ。


だが、その瞬間しゅんかん

胸のおくで──何かが“った”。


「──っ!!」


頭をさえ、床に両膝りょうひざをつけるジェシカ。


心音が、ずれる。


ドクン。

ドクン。

ドクドクドクドク──


マリアの鼓動こどうが、内側うちがわからかさなってくる。


視界しかいはしが、じわりと赤くにじむ。

耳鳴みみなりが、おくれて追いつく。


「マリア……」


意識いしきけずられていく。


われがこの手で殺してやる】


声ではない。

思考しこう直接ちょくせつざる”異物いぶつ


【死してなお、死ぬことすらかなわぬあわれな奴よ】


怒りではない。


それは──しずかすぎる感情かんじょう


(……違う……これ……怒ってない……)


あわれみ。


その奥に、底の見えない“孤独こどく”がしずんでいる。


視界がれる。

輪郭りんかくける。


立っている感覚かんかくが消え、膝の感触かんしょくすらとおのいていく。


(……持っていかれる……)


ジェシカの意識は、音もなくしずんでいった。


────────

──次の瞬間。


空気が変わる。

音が、ちる。


部屋一帯いったいいな──リベリオン国内こくないにまで、目に見えない“あつ”が広がる。


重い。

ただ、重い。


呼吸をするだけで、はいきしむような感覚。

心臓の鼓動こどうすら、おそくなる。


「……これが、マリア様……」


近くにいたルミナスの声が、わずかにふるえた。


──ゆっくりと。

──本当にゆっくりと。


ジェシカだったものが、顔を上げる。


紅い瞳。

先ほどまでの色とは、明らかに“深さ”が違う。


底がない。

のぞいた者が落ちていくような、そんな色。


貴様きさま──】


それだけで、空気がけたような錯覚さっかく


【何をたくらんでいるのか知らぬが】


視線しせんが、ルミナスに向けられる。

逃げ場がない。

ただ見られているだけなのに、やいばきつけられているような圧迫感あっぱくかん


【我の目的の邪魔じゃまをするなら──】


ほんのわずか、殺意さついにじむ。


るぞ】


その言葉が落ちた瞬間、空間くうかんがわずかにしずんだ。


マリアの脅威的きょういてきな圧に、ルミナスは即座そくざ片膝かたひざをつき、あたまれた。


「……失礼しつれいいたしました、マリア様」


その姿を確認かくにんすることすらなく、マリアはゆっくりと視線を外す。


そして。

鎖に繋がれた“それ”を見る。


あわれよの】


「……こ、ころし……楽に、して……くれ」


【ほう】


わずかに、興味きょうみじる。


【このような状態でも、まだ意識があるか】


一歩、近づく。


足音はしない。

ただ、距離だけが消える。


【さすが厄災やくさいと呼ばれるだけはある】


その目は、冷たい。


だが同時に──どこか、優しい。


わずかな静止せいし


憐れみの目で見ていたマリアは一度目を閉じ、を置いて、ゆっくりと紅い目でレーヴをにらむ。


─────────────


【スカーレット・ローズ】


─────────────


マリアの言葉と同時に、右手に紅い血が集まり、形を作り、きしむ。

脈打つように、うごめく。


そして──マリアの右手には金色きんいろかがや大鎌おおがまにぎられていた。


その刹那せつな


床が軋むよりも早く、マリアは距離を消す。


死者へとてたレーヴは何一つあらがうことなく、マリアの一閃いっせんを受け入れ──全てから解放かいほうされた。


ぐしゃり。


と。

音を立てて倒れ、繋がれていた鎖には腕だけがぶら下がり、それをマリアは大鎌でくだいた。


【憐れよな】


その一言だけが、静かに残る。


やがて。


リベリオンをつつんでいた狂気きょうきが、しおが引くように消えていく。



ジェシカの意識いしき浮上ふじょうする。


「マリア!?」

自分の声におどろくジェシカ。


だが同時どうじに、マリアの狂気きょうきせられるように、少なかった兵士へいしたちがあつまってくるのがかった。


「くっ! とりあえずこのげないと!」


ジェシカはおくにあるまどけ、身体からだ解放かいほうして一気いっきにリベリオン城から姿すがたしたのだった。


自分のことでいっぱいだったジェシカをよそに、もう一人の存在そんざいのことをすっかりわすれていた。


─────────────


レーヴがんでいる部屋へやとびらいきおいよくく。


バンッ!!


城内じょうないにいたリベリオンへいあつまり、部屋の中に視線しせんけた。


部屋はくらく、存在を確認かくにんすることすら困難こんなん

そんな部屋のん中に一つのかげっていた。


「き、貴様きさま! ここで何をしている! ここは司祭様しさいさま指示しじがないかぎり入ってはいけない場所だぞ!」


「……へぇ、そうなのですねぇ……」


部屋に続々(ぞくぞく)と入るリベリオン兵──さらに白い法衣ほういまとった数人すうにん司祭しさいも、その影の視界しかいに入っている。


「ふふ、ふはは! あはははっ!!」


部屋に女のくるったような笑い声がひびく。

そして、静寂せいじゃく


───────────


「ブラッディ・ローズ」


───────────


その言葉がちた瞬間しゅんかん、空気がわずかにしずんだような感覚かんかくひろがる。


右手みぎてからながしたは、ゆかちることなく空中くうちゅうとどまり、まるで意思いしつかのようにからいながらあつまりはじめる。

どろり、とねばつくそれは、ただの液体えきたいではなく、何か別の“生きもの”のようにもえた。


やがて血はいびつふくがり、内側うちがわからひろげられるようにきしみ、じれ、かたちしていく。


ほねがきしむような音。

にくけるような音。


それらがざりい、耳にまとわりつく。


兵士へいしの一人が、おもわずかおをしかめた。


「な、なんだ……あれ……」


理解りかいいつかない。

だが、目だけはらせない。


完成かんせいしたそれは、赤黒あかぐろにごった光をはな巨大きょだい両手斧りょうておのだった。


その質量しつりょう、その存在感そんざいかん、その“禍々(まがまが)しさ”が、ただそこにあるだけで、の空気を支配しはいしている。


誰もうごけない。


逃げなければならないと理解しているのに、足が言うことを聞かない。


──その時にはもう、おそかった。


ルミナスのうでが、わずかに動く。


ただそれだけの動作どうさ


だが次の瞬間、視界しかいゆがんだ。


何がきたのかからない。


づいた時には、最前列さいぜんれつにいた兵士の頭部とうぶが、原形げんけいとどめずにつぶれていた。


遅れて、血がす。


あたたかい飛沫ひまつが、周囲しゅういの顔やよろいりかかる。


「──っ、あ……」


声にならない声がれる。


ルミナスは、それを見ていた。


たのしそうに。


「あは……あははははっ!!」


のどおくからしぼすような笑い。


それは喜びでも狂気でもなく、もっと純粋じゅんすいな“愉悦ゆえつ”だった。


「アブソリュート様!! これでよろしいのですね!!」


返事へんじなどない。


それでもかまわない。


ルミナスは、ふたたおのるう。


今度は横に。


重いはずのそれが、まるで紙でも裂くかのように軽々(かるがる)と振り抜かれる。


数人すうにんの兵士の首が、同時どうじちゅうう。


その光景こうけいはどこか現実味げんじつみがなく、まるで時間が一瞬だけずれたようにかんじられた。


首がち、ころがる。


その後で、ようやく血が噴き上がる。


遅れておとずれる“結果けっか”。


「なんで……」


兵士の一人がつぶやく。


「なんで、こんな……」


理解しようとした瞬間に、また一人、身体からだられる。


抵抗ていこうするという行為自体じたいが、意味いみたない。


剣をかまえた兵が一人、ふるえる手で前に出る。


「な、何者なにもの貴様きさまは!!」


声は裏返うらがえり、威厳いげんなど微塵みじんもない。


ルミナスはゆっくりと顔を向ける。


血でれた白い髪が頬にり付き、その隙間から覗く瞳は異様いようなまでにんでいる。


その口元だけが、大きくゆがんでいた。


「我は──絶対死者ぜったいししゃなるアブソリュート様のお膝元おひざもと


一歩、近づく。


その足取あしどりはおだやかで、どこかやさしさすらかんじさせる。


「ルミナス・エフェメール」


名乗り終えるよりも早く。


斧が振られていた。


兵士の身体が上下じょうげに分かれ、遅れて崩れ落ちる。


司祭たちが後退あとずさる。


祈りの言葉を口にしようとする。


だが、その言葉が最後までつむがれることはない。


一人、また一人と、何の意味も持たずに倒れていく。


やがて、動く者はいなくなり静寂が訪れる。


ぴちゃ。

ぴちゃ。


血を踏む音だけが、ゆっくりと響く。


ルミナスは歩く。


迷いなく。


まるで最初からそこにしか目的がないかのように。


レーヴの亡骸なきがらの前で、足を止める。


「……可哀想に」


その言葉には、ほんのわずかな温度があった。

だがその手は、何の躊躇ためらいもなく胸へとしずみ込む。


肉を裂く感触。

骨に触れるにぶい抵抗。

それらすべてを無視して、心臓しんぞうつかみ、引き抜く。


ずるり、と。


まだぬくもりの残るそれを手に持ち、振り返る。


「これで良かったでしょうか。我が主人様しゅじんさま


するとルミナスの後ろに一人の少年しょうねんの姿がいつの間にか現れていた。


「うん、良かったよルミナス。

あとはフォリーを瀕死ひんしにして”それ”をんでレゾンちゃんを生贄いけにえ媒体ばいたいとして新たなオモチャを作ろう」


ルミナスは無言で頷き、優しく微笑ほほえんだ。


ジェシカの知らぬまま、アブソリュートの遊びは、次の“生贄いけにえ”を求めて動き出していた。

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