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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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13. 選ばされた選択

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


教会の司祭(アンフォリーの妹)

アン・レゾン


四代厄災

悲狂のアン・フォリー

神速のレーヴ

絶対死者アブソリュート


グラフの想い人

ルミナス・エフェメール



──導かれている。

そんな感覚が、ずっと消えないままだった。


創りつくりだされた空間で、ジェシカはつばをごくりと飲み込み、話を待った。


「──それでは、フォリーをどのようにして瀕死ひんしの状態に持っていくのか、お話しさせてもらいます」

「うん、分かった」


ルミナスは左手をパチンと鳴らすと、テーブルに紅茶の茶器とポットが現れた。

カップに紅茶を注ぎ、ジェシカにもスーッと渡し、一口含ふくんだ。

ジェシカも紅茶に口をつけて飲んだ。


悲狂ひきょうアン・フォリー。

その名の通り、彼女は声を武器に聴覚異常ちょうかくいじょうを起こし、命を奪うことに長けています。

そんな強い力をどうすればいいのか──」


「やっぱりフォリーは声が武器なんだね」

「はい、現在確認されているのはそうです」


互いの探り合いの中、ルミナスの方が上手(うわて)となり、ジェシカは誘導されていた。


一見いっけんすると、どうすることもできないように思えますが、実際は意外と簡単に解決することができます」

「え……」


そう言うとルミナスは、見たこともない物を空間から出してきた。


初めて見る形にジェシカは戸惑とまどっている。


「それは何なの」

「はい、これが今回、アン・フォリーを瀕死の状態に追い込むための武器となります」


「意味が分からない。それに、そんな武器初めて見た」

「──これは“ライフル銃”と言って、遠くから小さい弾をいきおいよく飛ばし、ねらった獲物を確実にとらえる武器です」


ルミナスはゆっくりとライフル銃を構えた。


次の瞬間。


──轟音ごうおん


遅れて空間がふるえ、音が壁に反響はんきょうする。

耳が遅れて追いつくような感覚が、身体に残る。


気づけば、ある一点にぽっかりと穴が空いていた。


「すごい……」

「はい、これは二日後の大戦でリベリオンが用意した、独自に開発された武器になります。

よければ一つお渡ししますが、いかがしますか」


「あ、いやいいよ。目立つし」

「確かにそうですね。それでしたら──こちらの小さい方ならどうでしょう」


するとルミナスは、ライフル銃よりも小さい拳銃けんじゅうタイプを二つ、ジェシカに渡した。


「いいの?」

「はい、どうぞ」


優しく微笑ほほえんでいるが、目は笑っていなかった。

その視線だけが、どこか温度を失っている。


「話を戻しますが、このライフル銃と私のブラッディローズを使えば、遠くから声を聞くことなく、絶命ぜつめいは難しいですが、瀕死の状態にすることは可能かと思います」


「待って待って! なんで覚醒者かくせいしゃなのに、上位の厄災やくさいを倒す必要があるの、それになぜ私を助けるの!? 意味わかんないよ!」


「──確かにそう思われても仕方ないと思います。ですが、我があるじたのしむためなら、これくらい私は力を貸しましょう」


「……我が主……それって……」


ルミナスは遠くを見るように視線を向け、椅子から立ち上がり、膝を床につけ、祈るようにその名を口にする。


絶対死者ぜったいししゃアブソリュートに御座ございます」


その瞬間。


空気が、わずかにゆがんだ気がした。


ルミナスの言葉にジェシカは全てが繋がった。

そして怒りを覚えた。


「ふざけるな!! 全部、やつてのひらの上で踊らされている!?」


怒りをあらわにしているジェシカ。

その様子をただ黙っているルミナス。


しかし、怒りが収まらないジェシカは椅子を思いっきりり、破片はへんがルミナスの方へと飛んでいく。


「あ……」


思わず声を漏らすジェシカ。


「もう──いい加減にしなよ」


声。

軽い。

あまりにも、場違いなほどに軽い。


次の瞬間。


飛んでいった破片が、空中で止まり──

触れられたかのように、静かに砕けて落ちた。


空間が歪む。


そこに、“最初から居たかのように”

一人の少年の姿が現れた。


「やぁ、四日ぶりかな?」

「お前!」


「ははっ! いきなり喧嘩腰けんかごしとか怖いなぁ〜」

「何なんだお前は!」


アブソリュートが目の前に来ても、おくすることなく喋るジェシカ。


「いいから話聞きなよ」


刹那せつな


笑みが消える。


「それに今さら怒ったってどうすることもできないよ?」


視線だけが、まっすぐ突き刺さる。


「戦争、止められるの?」


静寂せいじゃくが落ちる。


「くっ! 卑怯ひきょうだぞ!」

「あはは! 狡猾こうかつって言ってほしいかなー」


笑ってはいるが、紅いひとみは一切笑っていない。


「それでさ、さらにもう一人ゲストを紹介したからさ! とりあえず、俺にドロドロな黒い部分を見せてよ!」

「ゲストだって!? お前、一体どれだけ困らせれば気が済むんだ!」


「あはは! 別にいいだろ。暇なんだからさー」

「くっ! ふざけてる……」


全てがアブソリュートの“暇つぶし”によって、この争いが行われている事に怒りしかないジェシカ。

だが、すでに動き出した戦争を止めることができないところまで来ているのも事実。


怒りを抑え、冷静を取り戻すために、ジェシカは自分の両頬をパン!とたたいた。


「……それで、次は私に何をやらせようとしているわけ」

「お! いいねぇ〜素直な子は好きだよ、俺」


「いいから言ってよ」

「はいはい」


軽い返事。

その直後、空気が沈む。


「な!? こ、こいつ……やはり尋常(じんじょう)じゃない!」


ただの威圧いあつだけで、押し潰されそうな空気になる。


「ルミナスに案内させるからさ──」


呼吸を一つ置き。


「今すぐ神速しんそくちゃんを殺して」

「は……?」


「だってさ、俺の目的はアン・フォリーなんだよね。ぶっちゃけると、レーヴだっけ?

あいつは今回の遊びには必要ないのよ。だから、サクッと殺してほしいってわけ」


アブソリュートの話にジェシカは理解が追いつかず、その場に立ちくしていたが、はっとしてルミナスを見る。


「ジェシカさん、案内します」

「ちょ、ちょっと待って! 急すぎるって!」


「あれー? いいのかなー。遅くなると、それだけジェシカちゃんの仲間を殺しに行くの、早くするよー?

アンディちゃん、アリスちゃん、クロードちゃん、アルスちゃん、グラフちゃんだっけ」


最後の「グラフ」という言葉に、ルミナスの身体がわずかに反応した。


アブソリュートの紅い目はジェシカを見ている。

“いつでもお前の仲間は殺せるぞ”と言わんばかりに。


「わ、分かったよ。だけど一つだけ教えて」

「なにー? 早くしてー」


「ここの国の人たちはどうするの?」


言葉が途切れる。


「……へ? そんな事知るわけないでしょ」


笑いながら言うアブソリュート。


「そこはジェシカちゃんたちに任せるよ。別にコイツらに用はないしー。

それより早く行ってきなってー」


軽い口調。

だが、底にある苛立いらだちは隠しきれていなかった。


「ジェシカさん、行きましょう」

「わ、分かった……それじゃ、レーヴ倒しに行くけど、その後はどうするのよ」


「あー、その後は好きにしていいよ。俺、そこまで考えてなかったわ。あはは!」

「ったく……」


あきれながらもジェシカは、ルミナスと共に神速のレーヴを殺しに向かうのだった。


──その選択が、何を壊すのかも知らないまま。

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