12. 覚醒者ルミナス
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
教会の司祭(アンフォリーの妹)
アン・レゾン
四代厄災
悲狂のアン・フォリー
神速のレーヴ
グラフの想い人
ルミナス・エフェメール
──次の日の早朝。
雨は上がり、朝日が窓から差し込む。
ジェシカは目を覚まし、大きなあくびをしながらベッドから立ち上がると、洗面所で身支度を整えた。
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着替えを済ませて部屋を出ると、店主が声をかけてきた。
「おや、おはよう。朝食できてるが、もう食べるかい?」
「おはようございます。うん、食べる!」
「はは! 用意するから、そこに座って待ってな」
そう言って、昨日話していたテーブルを指さす。
ジェシカは椅子に腰をかけ、朝食を待った。
「お待たせ。これが朝食だよ」
テーブルに並べられた料理を見て、ジェシカの目が輝く。
そこには、さまざまな具材を使った豪華なサンドイッチが並んでいた。
「これいいの!?」
「ああ、当然だ」
「うわー、ありがとう!」
「おう! 喜んでくれてこっちも嬉しいよ」
無邪気に喜ぶジェシカを見て、店主も目を細める。
その場には、穏やかな空気が流れていた。
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食事を終え、店主が淹れてくれたコーヒーを前に、ジェシカの向かいへ腰を下ろす。
「今日はこれからどこか行くのかい?」
「うん、ちょっと酒場に用事があって」
「ほー、酒場ね。何か情報でも集めるのかい?」
「まあ……そんな感じかな」
ジェシカは曖昧に笑い、話を濁す。
「ふぅ……ごちそうさま。このまま出てくるね」
「そうかい。なら、人目の少ないところには行かないようにな」
「うん、ありがとう」
そう言って宿を出ると、手紙に書かれていた酒場へと向かった。
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宿から少し歩く。
重装備の兵士や、フードを被った人物たちが、すれ違いざまにジェシカへ視線を向けてくる。
(……なんだろう。やけに見られてる気がする)
だが、誰も声はかけてこない。
やがて、視界に酒場の看板が入る。
ジェシカは扉を開け、中へと入った。
一歩踏み入れた瞬間、空気が重くなる。
鋭い視線が、いくつも突き刺さる。
それでもジェシカは臆することなく、奥のカウンターへ向かい、椅子に腰を下ろした。
その時。
「“マリア様”」
「──!!」
小さな声。
だが確かに、自分に向けられていた。
思わず立ち上がり、声の主へ身構える。
そこには、一人の女性がただ静かに微笑んでいた。
「驚かせてしまい、申し訳ありません。ですが、足を運んでいただきありがとうございます」
「……あなた、一体」
「はい。すでにお気づきかと思いますが、私は“覚醒者”です」
その言葉に、ジェシカの警戒は解けない。
それでも女性は、穏やかなまま続ける。
「私はルミナス。ルミナス・エフェメールと申します」
「ルミナス……!? え……うそ……」
その名に、ジェシカは驚きを隠せなかった。
「大変申し訳ありませんが……お話ししたいことがあります。場所を移してもよろしいでしょうか」
ジェシカは一瞬だけ考え──無言で頷く。
「ありがとうございます。それでは、こちらへ」
ルミナスは酒場の奥へと進む。
ジェシカも後を追い、部屋へと入った。
ギィ、と扉が軋む音を立てて閉まる。
その瞬間──空気が変わった。
ルミナスが指を鳴らす。
それだけで、この部屋だけが“切り離された”ような感覚に包まれる。
「これって……!」
「ご安心ください。ここは私の魔術で作った空間です」
ジェシカの身体に、緊張が走る。
「さあ、こちらへ」
「…………」
促されるまま椅子に座り、ルミナスも向かいに腰を下ろした。
わずかな間。
沈黙が流れる。
やがて──
「改めまして、ありがとうございます。
早速ですが、お話ししてもよろしいでしょうか」
「……うん、聞くよ」
ルミナスは柔らかく微笑む。
だがその目は、どこか冷静だった。
「まず、マリア様は──」
「ねえ。その呼び方やめて。私の名前はジェシカ」
「……失礼しました。ジェシカさん」
「うん、それでいい」
「では改めて──」
ルミナスは姿勢を正す。
「ジェシカさんは、ミネルバ王国を出てから現在に至るまで、様々な出来事を見聞きしてきたと思います。それをどう感じましたか?」
「そんな急に言われても……」
ジェシカは少し考える。
「ただ……あと二日後に、アルカナンとリベリオンは大きな戦争になる。
そこに四代厄災の二人も関わる……そう思ってる」
「……そうですか」
ルミナスの表情が、わずかに引き締まる。
「では──これからお話しするのは、この国を治める“神速”のレーヴについてです」
一度、息を整える。
「現在のレーヴは、もはや人では何もできません。
司祭たちの操る“道具”──ただの傀儡です」
「……え」
「力は失われ、ただの死者と成り果てている。
ジェシカさんや私たちと戦えるような存在ではありません」
「嘘だ! そんなはずない! だって四代厄災なんだよ!?」
「ええ、表向きはそうです」
ルミナスは静かに続ける。
「ですが、それは司祭たちが作り上げた“虚像”です」
言葉が、静かに刺さる。
「もし信じられないのであれば……同行し、ご自身の目で確かめることもできます」
ジェシカは何も言えず、視線を落とした。
「──ここからが本題です」
ルミナスの声が、わずかに低くなる。
「アルカナンの王妃クレアと、四代厄災アン・フォリーの戦い。
そしてレゾンの作戦──」
一度、言葉を切り。
「現段階では、成功する可能性は極めて低いと考えています」
「……」
ジェシカは顔を上げる。
「……もし、それが本当なら……無理だね」
「はい。正直に言えば、ほぼ不可能です」
だが──
「フォリーを瀕死に追い込むことは、可能です」
「……どういうこと?」
ジェシカは思わず身を乗り出す。
その瞬間。
ルミナスの口元が、ほんの一瞬だけ歪んだ。
だがすぐに元に戻る。
「そのための方法を、これからお話しします」
咳払いを一つ。
静かに語り始める。
その声は、どこまでも穏やかで──どこか、逃げ場を奪うようだった。




