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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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112/124

11.人が生きる場所

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 


四代厄災

神速のレーヴ

「そんな……それじゃ、今この国の王は神速しんそくのレーヴ……」

「まあ、そういうことだな。だがな──」


「え? 何。何か言おうとしたよね」

「ああ、どこまで話せばいいか……そう思ってな」


店主は視線を落とし、ジェシカの握るカップへ目をやる。

その手には力が入り、指先が白くなっていた。


「ふっ……そうだよな」


どこか吹っ切れたように、店主は小さく笑う。


「もうこの国は終わるし……どうでもいいか」

「……それ、さっき門番の兵士にも言われた。どういう意味なの?」

「そうなか……もう兵士ですら士気が下がっているのか」


店主は一度息を吐く。


「いいことを聞いたよ。どうせ隠したところで意味はない」


一度だけ周囲に視線をめぐらせてから、続けた。


「“利権りけん”って言葉、分かるか?」

「りけん?」

「自分が得をするためなら、他人のことなんかどうでもよくなる。

金と発言力を独占できる仕組み……それが利権だ」


まつりごとが分からないジェシカには、完全には理解できなかった。

それでも、嫌なものだということだけは分かる。


「高位の司祭たちが、王になったレーヴを“道具”として利用している。

重税、物価の上昇、止まる物流……」


店主の声が、少しだけ低くなる。


「挙げあげくの果てには、大国アルカナンへ侵攻して、物資を奪おうとしている」


「そんな……そんな理由で戦争するなんて……」

「だよな。お前さんの言う通り──」


店主の言葉が、不意に途切れた。


「どうしたの?」

「……静かに」


空気が変わる。


ジェシカもすぐに気づいた。


(この気配……さっきも)


会話を止め、息を潜める。


──やがて。



「……よし、大丈夫だ」


店主が小さく息を吐いた。


「ねえ……今の、何?」

人攫ひとさらいだよ」

「え? 人攫い?」


あまりにもあっさりとした言葉に、現実感が追いつかない。


「この国じゃ珍しくもない。若い奴は、気づいたらいなくなってる」


「いなく……なる?」

「ああ、戻ってきた奴はいない」


その一言が、静かに落ちた。


「戦争で人手が足りないからな。若いって理由だけで、男も女も連れて行かれる」


ジェシカは言葉を失う。


「女は、兵士の“奉仕”だ」

「……っ」


思わず、カップを握る手に力がこもる。


「だから言ってる。早くこの国を出ろと。

ここはもう……人が生きる場所じゃない」


その言葉は厳しくもあり、どこか優しかった。


「……おじさんはどうするの?」


店主は少しだけ驚いた顔をして、ふっと笑う。


「あはは……心配してくれるのかい。ありがとうな」


ほんの一瞬だけ、表情が柔らぐ。


「でもな……ここが、俺の場所なんだよ」


それだけだった。


「……そっか」


それ以上、言葉は出なかった。


「今日はもう戻りな。鍵はちゃんとかけるんだぞ」

「うん……色々話してくれてありがとう」


軽く頭を下げ、ジェシカは部屋へと向かった。


────────────────


ジェシカはベッドに倒れ込み天井を見つめる。


(アルカナンは二日後に動く)

(リベリオンは……内側から壊れてる)


頭の中で見てきた情報が整理されていく。


「……あと二日」


ぽつりと呟く。


その時──窓の近くに、さっきまでとは違う気配を感じた。

もっと静かで、気づけばそこにあるような気配。


「だれ!?」


ベッドから跳ね起き、その場で身構えるジェシカ。

だが、既に気配はかんじられなかった。


窓を鋭い視線で睨んでいると、わずかに揺れていた。


「……え、紙?」


思わず窓に近づき、挟まれている紙を手に取った。

ジェシカは二つ折りされた紙をそっと開いた。


     ── マリア様 ──


明日の朝、ここから歩いてすぐの場所に酒場があります。

そこへ来てください。


すべてお話しします。


              同志


────────────────────


「……何これ」


胸の奥が、ざわつく。


「同志って……」


その言葉に引っかかるものがあった。


「この国にクロスリーパーがいるの……?」


期待と不安が、同時に浮かぶ。

思わず窓を開けるジェシカ。


外は、雨が上がっり夕日が街をやさしく照らしている。


「……行くしかないか」


小さく呟く。


怖くないわけじゃない。

それでも、目を逸らすわけにはいかなかった。

こうしてジェシカは翌朝、リベリオンの酒場へ向かうことを決めた。


“同志”と名乗る人物に会うために。

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