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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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10. 温もりのあとに、王の名を

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 


四代厄災

神速のレーヴ


聖王国リベリオン

前国王 ポータル・リベリオン

──雨の降るリベリオン城下じょうか


ジェシカは着替えと、冷え切った身体を温めるため、宿を探していた。

周囲を見渡みわたすと、遠くに宿屋の看板が目に入る。


「あった……うぅ、寒い」


身体をふるわせながら、宿屋へと歩き、扉に手をかける。

その時、背後はいごに気配を感じた。


(……誰かいる)


だが振り返らない。今は、それどころではなかった。


ジェシカはそのまま扉を開け、宿の中へ入る。


「いらっしゃ──って、おい、大丈夫かいお嬢さん!」

「宿を借りたいんだけど、空いてますか?」


「ああ、空いてる! 受付は後でいい、先に風呂だ。早く身体を温めな!」

「あ、ありがとう」


店主に急かされるように、すぐ近くの部屋へと案内される。


「落ち着いたら受付してくれ。それと支払いは前金だ、それだけ頼む」

「分かった。ありがとう」


軽く一礼いちれいし、ジェシカは部屋へ入る。


ドアを閉めた瞬間、外の冷たさが切り離された。


「……お風呂」


小さくつぶやき、震える手で服を脱ぐ。

シャワーを浴びると、冷え切った身体にじんわりと熱が戻っていく。


「……あったかい」


その一言だけで、張り詰めていた何かがほどけた気がした。


─────────────────


しばらくして、ジェシカは風呂場から出る。

身体をき、髪を乾かし、着替えを済ませた。


「はー……さっぱりした」


ベッドに腰を下ろし、静かに息を吐いた。


(助かった……)


その実感が、遅れて胸に広がった。

そして、カバンからお金を取り出し受付へ向かうため部屋を出る。


「お、さっきの嬢ちゃん。大丈夫そうだな」

「あ、うん。ありがとう」


カウンターへ歩み寄り、札束を置く。


「これで足りる?」

「おいおい、何日泊まるつもりだ? それ次第だな」


「あ、そっか……二日くらいかな」

「なら、これで十分だ」


店主は札束から数枚だけ抜き取る。


「ついでに朝と夜の飯もつけてやるよ」

「本当? 助かる」

「これだけもらっといて何もなしじゃ、ぼったくりって言われちまうからな」


豪快ごうかいに笑う店主に、ジェシカも少しだけほおを緩めた。


その空気に、自然と口が開く。


「ねえ、この国って思ったより小さいんだね」

「リベリオンは初めてか?」


「うん。それで、三日後にアルカナンと大戦たいせんがあるって聞いたんだけど」

「……なるほどな」


店主の表情が、わずかに引きまる。


「話、聞く気があるなら教えてやるが……聞くか?」

「いいの?」

「ああ、じゃあそっち座って少し待ってな」


店主が指した先には、丸いテーブルと椅子が並んでいた。


ジェシカはそこへ向かい、腰を下ろす。


(アルカナンの宿の人も優しかったな)

(……なのに、なんで争ってるんだろ)


考えていると、背後から声がかかる。


「待たせたな」

「ううん、大丈夫」


目の前に置かれたのは、大きなマグカップ。

ふわりと立ち上る湯気。

優しい香りが、鼻をくすぐる。


「これを飲めば身体のしんから温まる。よかったらどうだ」

「……ありがとう」


両手で包むように持つ。

その温もりが、じんわりと指先に広がる。


一口、口にふくむ。


「……美味しい」

「はは、そうか。ならよかった」


その言葉に、胸の奥が少しだけ緩む。


だからこそ──

ジェシカは、聞いてしまった。


「ねえ……なんでリベリオンはアルカナンと戦ってるの?」

「……」


短い静寂せいじゃくが流れる。


「戦争って、そんな簡単な理由じゃないよね」


店主の笑みが、静かに消えた。


「……そうだな」


視線を少し落とし、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「この国はな──一度、崩壊ほうかいしてるんだ」

「……え?」


「当時の王、ポータル・リベリオンはその事件で命を落とした。

血も絶えた。今、この国に王の血を引く者はいない」


「……王が、いない?」

「そうだ」


店主はわずかに息を吐き、続ける。


「そしてもう一人。王の側近そっきん──親衛隊長、“神速しんそく”と呼ばれた男も死んだ」


「……」

「だがな、その死体は“死者ししゃ”になった」


ジェシカの指先が、わずかに震える。


「司祭の魔術、そして“奇跡きせき輝石きせき”と呼ばれる光鉱石で作られた魔法陣。

そこに、その男の息子が──生贄いけにえとして捧げられた」


「……そんなの」


言葉が、続かない。


「ひどい、か」


店主は静かに呟く。


「……だが、国が壊れるってのはな。人をそこまで追い詰める」


重たい現実だけが、そこにあった。


「それで……その人は?」


恐る恐る問いかける。

店主はジェシカを見て、わずかに目を細めた。


「今、この国を治めてるのは──」


呼吸一つ分の間をはさみ、


「“神速”の異名を持つ男。四代厄災よんだいやくさいの一人レーヴだ」


その名が落ちた瞬間──


ドクン、と。


ジェシカの心臓が、大きく脈打った。


(……今の……)


胸の奥で、何かが“反応した”。


言葉が出ない。

ただ静かに、その名だけが残っていた。

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