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紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

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9. 崩れ始めた境界

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 


四代厄災

神速のレーヴ

──アルカナン側。国境付近。

ジェシカは人目につかない距離までブラッディローズで高速移動し、国境付近まで来ていた。


リベリオン軍とアルカナン軍の人々が争い、血を流し、命を落としている。


「人の命が軽すぎる……」


思わずジェシカは、その光景から目を背ける。


「ここが……三日後──血の海に」


ジェシカは地図を開き、バツ印をつけてマーキングした。

地図をしまい、周囲を見渡して人目がないことを確認すると、リベリオンへ向けて高速移動を開始した。


──その時。


「え!? これって……」


人間の心音とは違う、しかし聞き覚えのある何かがジェシカの耳に届いた。


リベリオンへ向かっていた方角とは逆に、争いのある国境から少し離れた場所へ向かい、足を止める。


「……いない。いや──」


ジェシカは近くの木へ視線を向け、言葉にした。


「なぜ隠れる。お前、ホーリーエンブレムだよね」

「……ふふ、さすが。私の心音に気づくなんて……」


女の声が響き、赤黒い法衣をまとった人物が木陰から姿を現し、ジェシカと対峙した。


「これは失礼いたしました、マリア」


ジェシカの眉がピクリと動く。


「聖人様の寵愛により生を受けた一人。

マトリゼ・ラ・メテオと申します。メテオとでもお呼びください」


深く被っていたフードに手をかけ、顔を露わにする。


黒い瞳。

黒いロングの髪。

そして、歪んだ笑みを浮かべた口元。


「それで──なんでこんな所にいるのさ」

「そうですね……それって、答えないといけませんか?」


「え……だってこんな場所にいるなんて、絶対何か企んでるでしょ!?」

「はい、何か企んでいますよ? それが何かいけませんか?」


ジェシカに向け、歪んだ口元に手を添え、肩を揺らしながら笑う。


(どちらにしろホーリーエンブレム……殺して問題ないよね)


そう思い、ジェシカはメテオに向けて身構えた。


「あはは! 嫌ですよー。次に会う時には、何を企んでいたか分かるでしょう」

「逃がすわけないだろ!!──ブラッディローズ!」


ジェシカの右手に血が集まり、ロングソードの形を成す。

そのままメテオとの距離を詰め、一閃。


だが斬れたのは法衣だけで、メテオは霧のように消え、ジェシカの視界から姿を消していた。


「もう! 姿消すとかズルいでしょ!!」


森にジェシカの声だけが響く。


「……次に会う時って、まさか──」


最悪の状況を想定しつつ、紅いロングソードは霧となって消えた。

ジェシカはメテオが消えた曇り空を見上げる。


そして、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。


──────────────


ジェシカは雨に濡れながら、リベリオンへ向けて移動を再開していた。

やがて遠くに城壁が見え、走る速度を徐々に落としながら門の近くへと向かう。


「……!? な、なんでいきなり……や、やめてよ、マリア……」


リベリオン近くに来た瞬間だった。


ズン、と。

心臓が一度、大きく脈打ち、視界の端が赤く滲む。


(なに……これ……)


次の瞬間、耳鳴りのような“声”が直接頭の内側に響いた。


【よこせ】

「っ……!」


膝から力が抜け、ジェシカはその場に崩れ落ちる。


【よこせ よこせ ヨコセ よこせ】

「やめて……!」


心音が重なり、自分のものではない“鼓動”が胸の奥で暴れている。


【奴は我の獲物だ】

「違う……今じゃない……!」


視界が一瞬、切り替わる。


──血。

──倒れた誰か。

──握り潰した喉。


「……っ、あ……!」

【殺したのだ】


「やめて……!」

【覚えているだろう】


声はもう一つではない。

無数に重なり、囁き、叫び、嗤っている。


【レーヴは我が殺したはずだ】


その言葉と同時に、右手が勝手に動きかける。


「だめっ!!」


ジェシカは左手で自分の右腕を強く掴む。

爪が食い込み、血が滲む。


【よこせ】


【よこせ】


【ヨコセ】


「待って……! こんな所で暴れたら……!」


呼吸が乱れ、視界が揺れる。


遠くで誰かが何かを言っている。

だが、もう聞こえない。


【我によこせ】


【我ニよコせ】


【我ニヨコセ】


「……っ、来てる……だから……ダメ……!」


必死に声を絞り出す。




【……ちっ】


その一音だけが、はっきりと“意思”を持って響いた。


【いいだろう】


一瞬、静寂。

だが次の瞬間、低く、深く、突き刺さる声。


【レーヴは我が殺す】

【それだけは譲らぬ】


「……分かった……だから……お願い……引いて……!」


ジェシカは歯を食いしばり、必死に耐える。


数秒。

永遠のように長い沈黙。


やがて──スッ、と何かが引いていく感覚。

重なっていた心音が消える。


「はっ……はぁ、はぁ……っ……」


肺に空気が流れ込み、現実に引き戻され指先が震える。


「い、いきなりなんなのよ……」


だがその声は、わずかに掠れていた。

まるで、まだ“何か”が奥に残っているかのように。


「お、おい。そこの女! 大丈夫か?」

「え、あ、はい……もう大丈夫です」


ジェシカはリベリオン兵の方を向く。

雨に濡れた服は透け、肌がわずかに露わになっていた。


「そのままじゃ風邪をひくぞ。とりあえずこっちに来て服を乾かせ」

「う、うん……分かった」


ジェシカは二人のリベリオン兵の後を追い、門をくぐり、兵士たちが休憩する場所へと案内された。


「ここを使っていい。服を乾かせ。

それと、何の用で聖王国リベリオンに来たのか話してもらう。

こんな時期に来る旅人は、どう考えてもおかしいからな」

「おかしいって……何?」


兵士は一瞬ジェシカを見て、タオルを投げてよこした。


「とりあえず拭け」

「……ありがとう」


ジェシカは濡れた髪をタオルで拭き、服は着たまま生乾きの状態で先ほどの兵士のもとへ戻る。


「タオルありがとう。助かった」

「もういいのか?」

「うん。着替えたいけど、宿に行くまではこのままでいい」


兵士はジェシカを見て、ため息をつく。


「あーもう、いいから行け。早く宿を探して着替えろ。

──だがな、この国はもうダメだ。早く見切りをつけて出て行け」

「え……?」


兵士の言葉に疑問を抱きながらも、ジェシカは着替えを優先し、宿を探すことにした。

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