8. 静かな国、来たる戦火
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
教会の司祭(アンフォリーの妹)
アン・レゾン
四代厄災
悲狂のアン・フォリー
神速のレーヴ
アルカナンの親衛隊
隊長 アッシュ
副隊長 クリス
──翌朝。アルカナン宿屋。
アブソリュートの宣告まであと五日。
ジェシカはアルカナンから聖王国リベリオンへ向かうため、朝早くから準備をしていた。
「これでよし! と。いきますかー」
ドアに手を掛けて廊下を歩き、下の階にある受付へ向かうと、宿の店主がグリモアを片手に声をかけてきた。
「昨日は何かとすまなかったな」
「え? うんうん、大丈夫だったよ」
ジェシカは特に気にしていなかったが、店主は申し訳なさそうにしていた。
「あのさ、その本ずっと持ってるけど……理由聞いてもいい?」
「ああ、これか? これはグリモアと言ってな。これを読み解くと、誰でも魔法の力が芽吹くと言われているんだ」
「魔法?」
「ああ。誰しも一度くらいは憧れるだろう? 使ってみたいってさ」
店主の言葉を聞いたジェシカは、なぜそこまで集中するのか、そしてそんな理由で人々を縛りつけているクレアに怒りを覚えた。
「……ねぇ、おじさん。すごくいい人じゃない。なのに、なんで魔法なんて必要なの?」
「え……?」
「だってそうでしょ? さっき、私に対して申し訳ないと思ってたよね。それで分かったんだよ」
ジェシカの言葉に嘘はなく、真剣な目で店主を見つめる。
「あ、ああ……確かにそうだな……」
「うん! 私、この宿気に入ったよ!」
ジェシカの言葉が店主に刺さる。
そして、曇っていた瞳に光が戻るのが見えた。
「あ、あれ……何だ? あはは……やけに晴れやかな気持ちになったよ!」
「あはは、それはよかった。それじゃ私は行くね! ありがとう!」
「ああ! こちらこそありがとう。また来てくれ!」
ジェシカは店主に手を振られながら宿を出た。
店主の手に、グリモアは握られていなかった。
──────────
宿を出たジェシカはアルカナンを出るため、桟橋の方へと歩き、門番のところを通過しようとした。
「おい、昨日の姉ちゃん」
「……?」
声のする方を向くと、そこには昨日の二人のうちの一人、クリスが鋭い目つきでジェシカを見ていた。
そして、そのままこちらへ歩いてくる。
「昨日は悪かったな」
「……別に」
「あはは! そんな怒るなよ! 今日は別に、あんたをどうこうするつもりはねーしな」
「あっそ。それで、私に何か用でもあるの?」
ジェシカはクリスに対して冷たい態度を取っていた。
「おう! そうなんだよ。ぶっちゃけるとよ、あんたがクロスリーパーだろうが違おうが、俺にはどうでもいいんだ」
「……そう」
早々に話を切り上げ、歩き出そうとするジェシカ。
だがクリスは、その前に立って話を続けた。
「おい、少しだけ俺の話を聞けって!」
「……何」
クリスの口元が笑っている。
「お前、この国で武功上げたくないか?」
「武功? なんで私が」
「あはは! 俺には分かるんだよ。お前……普通じゃないよな。
だからよ、滅多にないチャンスをあんたにも分けてやろうと思ってな」
「何を言ってるのか分からないよ」
するとクリスは顎と目線で場所を示し、人目につかない場所へ移動した。
「それで?」
「おう! 驚くなよ! 今日から三日後、リベリオンとの争いが激化してな。今この時も国境付近で戦ってるんだが、とんでもねぇ大戦になるらしい。
そこで活躍すれば、一気に名を馳せることができるって話だ!」
「……え、三日後……」
「おう、どうだよ! お前、俺たちと一緒にやらねーか?」
クリスの話を聞いたジェシカは、ふと昨日のレゾンの話と照らし合わせた。
「三日後……」
「おう、どうよ」
「……私はいい。武功とか活躍とか興味ない。私は行かなきゃいけない場所があるから」
そう言うとジェシカは踵を返し、桟橋の方へと向かっていく。
「んだよ、せっかくいい話教えてやったのによ!」
歩いていた足を止め、ジェシカはクリスの方を振り向く。
その表情はどこか儚げだった。
「死んじゃダメだよ。それじゃ……」
その一言を残し、ジェシカは歩き、アルカナンを後にした。
───────────
魔法国家アルカナンを出たジェシカは、しばらく人気のない場所まで歩き、地図を広げた。
「リベリオンはここだから……アルカナンと争っている場所は……国境付近だよね」
ジェシカはブラッディローズを使い、国境付近へと向かうのだった。




