表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅月のクロスリーパー   作者: ルーツ
第五章 悪戯の終末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/124

4.魔法国家アルカナン。〜 前を向いて歩こう 〜

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

──魔法国家アルカナン城、桟橋前。

ジェシカは桟橋付近で入国手続きをするため、列に並んでいた。


「へー、ここがアルカナンかー。アリスの話とは全然違うや」


視線の先では、男の兵士が五人並び、一人ひとりに何かを手渡しながら説明している。

そのせいで列はなかなか進まない。


何より──サキュバスの姿が見えない。

アリスと同じ心音も、遠くにある城からわずかに感じるだけだった。

それとは別の多くの心音が聞こえる


「この心音は──」

グラフと出会った時の会話を思い出した。


死者と人間の間に産まれた……スレイヴ。


「間違いない……すでに大国にまで……」


胸の奥に引っかかるものを感じながらも、やがて順番が回ってくる。


鎧を着た兵士が、無言で一冊の本を差し出した。


「いいか。この本はルーク様のお心遣いによって、無料で渡している」

「え、何この本……」


軽く言ったその一言に、兵士の眉がぴくりと動く。


「この本はな、普通に読んでも何が書いてあるのか分からん。だが読み解けば、新たなアルカナを“授かる”ことができる、ありがたいグリモアだ。


それをお前ごときのために、外から来る者にも分け与えてくださっているのだぞ」


(新しいアルカナ……そんなこと、本当に……?)


「それと──この国では、日が沈んだ後の外出は禁止されている」


兵士の声が一段低くなる。


「外に出た者は例外なく処罰される。いいな?」

「う、うん……分かった」

「理解したなら余計なことは考えるな。さっさと行け」


背中を強く叩かれ、ジェシカは思わず前に押し出された。


「痛っ……もう……」


そのまま、アルカナンの地へ足を踏み入れる。


街並みはミネルバと大きくは変わらない。

露天商、ギルド、武具屋、宿屋──活気ある光景が広がっている。


「へー、すごい……」


そう思い、前を向いた瞬間。

違和感の正体が、はっきりと目に映った。


人々が──誰一人として、前を見ていない。

全員が下を向き、手に持ったグリモアに視線を落としたまま歩いている。


「え……何、この異様な感じ……」


よく見ると、ページをめくる手が妙に一定だった。

まるで同じ速度で、同じタイミングで動いているような──そんな不自然さ。


「なんで……下向いて歩いてるの……馬鹿なのかな……」


そう呟いた直後、背後から人の気配。

反射的に避けるが、別の方向から来た人とぶつかってしまった。


「あ、ごめんなさい……」

「……」


返事はない。

舌打ちすらせず、ただ無言でグリモアに視線を落としたまま歩き去っていく。


「え……」


一瞬だけ、その人物の目が見えた。


(……焦点が、合っていない?)


「……なに、これ……」


ジェシカの背筋に、ぞくりとした寒気が走る。


だが──


(……でも、みんな普通に生活してる)


露店は賑わい、商人は声を張り上げ、街は“機能している”。


(争いもなさそうだし……こういうのも、ありなのかな……)


ふと、そんな考えがよぎる。


「……今はこのことはどうでもいいや。それより夜だよな」


自分に言い聞かせるように呟き、宿を探し、人を避けながら進み、ようやく一軒の宿を見つけた。


「いらっしゃいませ」


椅子に座った店主は、グリモアを開いたまま顔を上げない。

それでも、声だけは正確にジェシカへ向けられていた。


「しばらく宿を借りたいんだけど」

「はい、前金になりますがよろしいですか」

「うん、それじゃ……これで」


札束をカウンターに置いた瞬間。


「………は?」


店主の手が止まり、視線が定まる。

そして、ゆっくりと顔が上がり、初めてジェシカを見る。


「え……?」

「……失礼しました。お部屋へご案内致します」


(今の、何……?)


三階の奥の部屋へ通される。


「こちらのお部屋をお使い下さい。何かございましたら、お声がけを」


それだけ言うと、店主はすぐに視線をグリモアへ戻し、部屋を出ていった。


「…………何なんだろう、一体」


静まり返った部屋。


「……まあいいか。とりあえず夜になるまではゆっくりして、教会に──」


そこで、はっとする。


(場所……知らない)


慌てて外に出て、店主に教会の位置を紙に書いてもらった。


「あ、危なかった……今のうちに夜のルートを下見しておくか」


再び街へ出るジェシカ。

書いてもらった地図を見ながら歩いていると、ふと気づく。


周囲の人々と、自分が同じ姿勢になっていることに。


「……あ」


ジェシカは足を止め、道の端へ寄る。

そして深く息を吐き、顔を上げる。


「……危ない、馬鹿になるところだった」


書いてもらった地図を畳み、改めて前を向き、教会へ向かって歩き出したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ