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7話【リモデル視点】草むらの中には……

 直感に従って警戒心を最大にしつつ、私は先程まで自分が身を隠していた草むらの方まで戻る。


 そこで再び悪寒を感じたので、草むらの中をゴソゴソと手を入れて探ってみるが、誰も潜んでいない。



「……うーん?」



 何か、違和感のようなものを覚える。


 さっきまでこんな草むらだったっけ。さっきまでこんな景色だったっけ。


 何か……漠然としているが、違和感が……



「ぐっ」



 そう思った辺りで俺の腕に何かが打ち込まれる。


 ……結界を突き破るとはとんでもないな。


 フラっとして膝をつきながらも、俺はその腕に打ち込まれたもののことを見る。


 そして、それが針であったことに気づくと……


 やはり、この近くに誰かが潜んでいた。俺の勘は間違いではなかったようだ……と確信する。


 草むらの方に格好つけのウインクをしながら。



 「……ちっ」



 針を放ったと思われる草むらを見やる前に、俺は既にそこに向かって風の刃を放っていた。


 もちろん、それは魔法の刃だ。


 当たったのか、何者かの舌打ちが聞こえたような気が……しないでもない。


 あまりに小さかったから、幻聴の可能性もあるんだ。



「よくよく考えれば、相手は俺にドルの幻とかを見せていたっぽいしな。今のも幻聴か……?」



 だとしたら、混乱するな。


 早めに気絶ぐらいはさせておいた方がいいな。


 草むらに火を放つのが炙り出しには最適だと思うが、環境破壊する極悪人にはなりたくない。


 なので、草むらへの被害が少なくて済むと思われる風属性の魔力か魔法によって応戦する。



「って……うわっと」



 マジか。こちらがやる前にやってきやがった。


 しかも、風属性の魔力だ。こちらの思いはある程度読まれているってことだな。


 俺はなるべく速く動くことでそれらを回避しようとするが、今度は多方向から風刃が飛ぶ。


 その風刃はまるで魔物のように飛び、俺の服や皮膚に傷をつけた後……後方で消滅する。



「……ははっ……ちっ」



 腹が立ったから、舌打ち返しだよ。


 俺に何の恨みがあるんだ……? それとも、不審人物がいたと思うから、正義感でやったとか?


 だとしたら、ご立派だが……腹が立ったから、ただでは済まさないと決めたわ。待ってろ。


 風刃はまたまた飛んでくるが、それは全て避けることに成功したよ。


 これでも、走りの速さには自信があるからな。一度食らった攻撃はそう簡単に食らってやらない。


 すぐに結界を展開しながら、そう思う。



「……」



 微かだが、奴の悔しい気持ちがこちらに伝わった気がする。


 ただ、今回はあちらは何も音を発していないので、俺の気のせいかもしれないな。


 草むらを飛び越えた辺りで、俺の足の下に刃が……



「うっ……」



 それを跳ねて交わした瞬間に針を足に当てられた。


 くっ……やられたな。またまたやられた。


 この針はなんで結界をこんなにも容易く貫けるんだよ。強度はそれなりにあるはずなんだがな。


 相手は相当なやり手だな。


 今度の針は麻痺針のようだ。


 しかも、今回もさっきのと同じくらい強力で……麻痺が全身に行き届くのがかなり早い。


 ものの数秒で身動きが全く取れなくなってしまった。小指一つ動かすのも困難だよ。


 どうしよう……今の俺は……絶体絶命だ。



「ははっ……はァ……」



 明確な笑い声が聞こえてきた。


 やはり、近くにいたか。


 確かに跳ねた瞬間に隙は出来るよな。よくそこを狙ったと思うよ。そこは賞賛してやりたい。


 そこだけだがな。攻撃したことは許さない。ドルの幻を見せたのもこいつなら、それも許さない。


 麻痺で完全に動けないと思っているよな。実際にそうなんだが……結界の効果なのか……和らぐまでが早い。


 奴がこちらに完全に姿を見せる一分までの間に小指ぐらいなら少し動かせるようになったので……


 ……そこから、全力で糸を放って拘束を狙った。


 避けられて失敗してしまうが……



「なるほど。よくやるようだなァ。感心したよォ」


「ぁ……ぇ……ぁ」


「指だけじゃなく、口も少しは動かせるようになったかァ……とんでもない回復速度だな」


「……」


「……いや、違うか。これは結界のおかげだなァ……?」



 気づくの早いな。そこもさすがだ。


 体に残る魔力の残滓からの判断だったり、するのか?


 現れたのは長身の黒い男だ。黒いと表現したのは、羽織っている外套が足に届くほどの長い外套で……


 俺の視界が届く範囲では、黒以外の色を見つけることが困難だったからだ。


 ドルが羽織ってたあの外套より大きいよ。



「よくやった。よくやった方だよォ」


「……ぅ」


「だが……貴様のような不審人物は生かしておくわけにはいかなくてなァ。悪いが、死んでもらうぜェ」



 やはり、不審人物だから狙っていたのか。


 そりゃ、そうだよな。


 暗殺技術に長けているように感じたが、やはり暗殺者なのかもしれないな。


 それも確かめたいが、俺はそれより……


 ……さっき街で見たドルは本当に幻で、そしてそれを生み出したのはこいつなのか誰なのか……


 それを知りたいんだ。


 俺は口がさっきより動かせるようになってきたので、何とかそれを聞けるだけの言葉を……紡ぐ。



「ふぅ……質問をしたい。簡単な質問だ……いいか?」


「名前は教えんぞ」



 そりゃ、そうだわな。暗殺者なら、名前は教えないのが普通だ。教えても損しかない。


 やるとするなら、馬鹿なのか……暗殺者ではないのか……そのどちらかだと思う。



「もちろん、聞く気はないさ。別のことだ」


「そうかよォ。じゃ、とっとと言いな?」


「言わせてもらうよ。さっき、そこにこの国の第二王女様が歩いていてね。あれは幻か? そして、幻だとするなら、それは君が見せたものか?」


「あ、そういう質問をするわけねェ……」



 意外だったという顔だ……職業や具体的な目的でも聞き出そうとしてると思ったとか?


 それも知りたいことではあるが……聞いたところで名前と同じく話そうとしないだろ。


 聞かないさ。そこまで気になることでもないし。



「……どうだ? 答えろ」


「さァ……知らんなァ……」



 男はどこからか取り出した短剣を振り回しながらそう言い……


 俺の足の痺れが取れ始めていたことに気づいたようで……立とうとしていたその足に突き刺した。



「甘いんだよォ……初心者」


「っつぅ……」


「まるで、飴のように甘ェよ……」



 甘さを指摘しながら、舌なめずりをする。


 『貴様のことが食べたい』ということを暗に示してんのか? 気持ち悪いんだよ。


 俺は短剣が突き刺さった自身の足に視線を落としながら、男のことを心で嘲笑った。

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