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6話【ドルイディ視点】ディエルド先生による実際に使える恋愛技術講座

 ディエルドが私のことを無理やりに連れ込んだ部屋は幸いなことに誰もいなかった。


 だが、普通に不法侵入である。部屋の内装や置いてある物の可愛らしい感じから察するに……メイドの誰かの部屋なんだろうな。勝手に入られ可哀想だ。


 私が心の中でこの部屋の主に謝罪していると、ディエルドは部屋の端にあったメイドの机と思しき物をえっさほいさと持ってきた。何をする気だ?


 ディエルドはその用意した机を教壇に見立てて、意味もなく叩きながらこう言った。



「さあ、ディエルド先生による! 実際に使える恋愛技術講座の始まりだよっ! 聴いてって!!」


「嫌だね」



 もちろん、即答である。聞くに値しないとこの部屋に入った時点から思っていた。



「そう言わずにさー……ここまで来たら、受けないって選択肢はないに等しいと思わなーい?」


「貴方が私のことを無理やりにここに連れ込んだんだろ。その上、ここはメイドの誰かの部屋だと思う。勝手に侵入して使うのは普通におかしいぞ」


「……ちょっと講座を開くだけだから、大丈夫だっての。後でちゃんとメイドのコには謝るよ」



 ちょっと講座って……貴方のちょっとは一体どれくらいなんだろうね。


 夢中になって何分も話し続けるのも普通に想像できる。さっきのお父様に手を振っているのも私が止めなかったら何分か続いていただろうからね。


 ディエルドはメイドの私物と思われる物を机から丁寧に床へと移していくと……話を始めた。


 止めても話そうとしたから、諦める。



「また『トキメキメッキ』の話に戻るんだけどさ……」


「さっき話した内容じゃ、まだ足りなかったというのか……」


「あれは何故かよくわからないけど、吊り橋の上で試している人や人形が多かったみたいだよ」


「……」


「それで……今度、吊り橋がある場所に行かな……」


「待て待て。講義になってないぞ。なんで、私のことを唐突に吊り橋のある場所に誘ってきた?」



 こいつ、講義の意味は理解してるよね?



「まあまあ。これからがいいんだ。さっきは『トキメキメッキ』と言ったが、助けてくれた者のことを好意的に感じるようになるのは『ベンジー・フランキー効果』とも言うとか。なんか色々とあってややこしいよね」


「それ、長くなりそうだね。他行こうか」


「いや……ああ、うん。まあ、『トキメキメッキ』の話は他より話したい度低いからいいわ」



 話したい度……そんなものを設けているとは……


 多分、この感じだと相当たくさん話したいことがあるのだろうな。終わるのは何時になるやら。


 なんで、プララとラッシュの部屋に行こうとしてただけなのに、こんなことになるんだよ……



「……終わらせたいという思いがビシバシ伝わってくるから、話したい度高いやつから話してくよ」


「そうしてくれ……」



 私が早く終わらせたいと思っていることはちゃんと伝わっていた……


 ……その上でこれだというのだから、呆れてしまうよ。



「……あ、もちろん簡潔にね?」


「……えっ」


「簡潔に言えなかったら、さっきみたいに強制的に止めるから。最大で三分までならいい」


「さっきの話、実は三分以内に終わらせられたよ?」


「もう、終わった話のことはいいよ。早く次!」



 私は怒鳴る。


 この男の調子に合わせていたら、日が暮れてしまう。


 最悪、夜になってしまうだろうし、そうなると確実にこの部屋のメイドも部屋に戻ってくる。


 迷惑もかかるし、お姉様の捜索も遅れるわでいいことがなさすぎるんだよね。



「まずは人も人形も接触接触接触……接触をしまくるべきだということ……」


「それは何故?」


「単純に人も人形も接触の回数が多くなればなるほど、その相手のことが気になるものだからさ」


「へーえ、それも本に載ってるようなこと?」



 ディエルドは頷く。


 まあ、なんかこれは本当っぽいような気もする。覚えておけたら、これについても後で本を読めたらいいな。忙しいから無理かもしれないけど。



「一年間に一回とか二回ぐらいしか会わない人より、一年間に何度も会う人の方が気になるでしょ?」


「うん」


「そういうものなんだ。試してみてねっ」


「うん」


「淡白だねっ、ドルちゃん。それでは次行こっ」



 うん、次に行ってくれて助かるよ。


 私は用意された机に肘をつきながら傾聴する。



「それじゃっ、次は『いい印象を相手に定着させるべき』ということ」


「そりゃ、当たり前でしょ。というか、それでモテるのがわかってるなら、なんで貴方は私に対してこんなに悪い印象を与えるようなことばかりしているのかな?」


「あ……」


「もしかして、嫌われたいの?」


「グサリとくる言葉をありがとう」



 もう既に嫌われているということがわかってない。確定。わかってるなら落ち込まない気と思う。



「これに関しては、もうこれ以上言わなくてもいいよ」



 こんなの当たり前だ。誰だっていい印象を持った相手のことを好きになるに決まってるのだから。


 説明されるまでもない。説明など、時間の無駄でしかない。絶対に話させないよ、私は。


 私が睨むと、どうしても話したかったようだが、ディエルドは諦めたのか嘆息してきた。



「……じゃあ、後は」


「これで最後にしてよ」


「……わかったよ。最後にするよ」



 ……これで本当に最後にしてくれるといいがな。


 まだ時間はあるが、それでもあまりに遠回りしすぎているからな。


 お姉様を捜すためにプララとラッシュの部屋を訪ねようとしていたこと、ちゃんと覚えているのか? ほぼ確実に覚えてないと言っていいよね。



「最後はギャップが大事ということだ」


「ギャップ?」


「普段は情けない人間がいざという時には格好よく助けてくれる……惚れないか?」



 情けない人間ね。まあ、確かに……



「でも……少なくとも、貴方なら惚れないな」


「えぇー……」



 ……でも、確かにこれはかなりいいな。


 名前は……いや、聞くのはやめておこう。こいつの場合、それに関しても熱弁しそうだから。


 どれだけ恋愛について調べているんだ。



「……ディエルド、質問いいかな?」


「おっおっ、どうした? まだ講義続ける?」


「続けなくてよろしい。私の質問に答えてくれたら、終わりにして早く部屋から出ようね」


「わかった……じゃあ、それだけ答えるね」



 ディエルドはニコニコしながら、教壇に私と同じように肘をつく動作を行った。


 真似するのやめてくれないかな。恥ずかしい。



「……質問は、貴方はどんな人と付き合ったのかだ」



 この感じだと、多分私がたまたま知らなかっただけで本当にこの男は女性との恋愛経験がありそうだからね。


 一応、聞いておこうかと思ったんだ。



「……ふーむ」



 顔つきが変わる。それまでのふざけた様子から、一気に爽やかさを感じる顔でそう言う……


 なるほど。これがギャップね。確かに元の顔がいいこともあって、ミジンコほどの格好よさを感じないこともない。リモデルには全然及ばないが。


 前髪をかきあげながら、ディエルドは……



「付き合った数は三人だけど……名前は教えられない。どんな人かで言うと……どの人も清楚な感じだよねっ」


「清楚……印象が、か。他に何か共通した特徴は?」


「いや、共通した特徴は……あー、あったあった。そういえば、優しいところとかあったね。あと、ちゃんとオレの話を聞いてくれたよ。どの女のコも」



 なるほどね。本当なら随分と器が大きい女性がいたものだ。世界はやはり、広いのだね。


 今度、その女性たちに会えたのなら彼に対する印象や何故付き合ったのかなどの質問をしたい……


 そう思いながら、私は席を立った。


 もう、早くプララたちの所に行きたいからね。


 ディエルドはそんな私を見てため息をついたが、すぐに「たはー」と笑った後に部屋の扉を開ける。


 いや、メイドの私物を元に戻しておけよ……



「……ま、いいわ。色々と楽しく話せたしね」


「私は全然楽しくなかったんだけどね……」



 あと、私物直せよ……



「それでも、知識は増えたでしょ?」



 私の視線で気づいたのか、大分遅くなってディエルドはメイドの私物を机に戻してきた。


 これ、絶対に私が言わなかったら私物を床に置いたまま部屋を出ていたよね。この男は。



「……それは確かにね。そこは感謝するよ」



 ただ、情報の信憑性がそれほど高くないんだよね。


 どの情報も誤情報であったということが、後でわかったのならこのミジンコほどの感謝はきっと撤回すると思う。


 彼の意外な恋愛知識披露に疲労しながら、私はディエルドが開けた扉から出るのだった。


 なんか「どうぞ」とか言って優しげに扉から出してくれたけど、ここに閉じ込めたのも貴方だからね?


 これでときめいたりはさすがに私でなくともないから。



「……むしろ、ドン引きだ」


「ん?」


「……」


「ん? なに? 今、なんて?」



 私は彼の言葉を無視すると、彼など最初からいなかったかのように早歩きを開始した。


 もう、一人でプララたちのもとへ行く。


 ……そう思ってね。

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