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5話【ドルイディ視点】『トキメキメッキ』

 中庭を私は今まできちんと見ることがなかった。


 だだっ広いだけの庭だという認識があったんだよ。


 でも、そんなことはなかった。こうしてよく見てみると、広い以外にも魅力的な点はある。


 花や草はもちろん、その上で踊るようにヒラヒラと飛ぶ蝶や小精霊もかなり綺麗で……魅力的。


 ディエルドも同じことを言っていたが、だからといって……ゆっくりしていいわけはないので、私は庭に目をつけつつも早足で再び城へと戻っているのだ。



「速いなぁ、ドルちゃん」


「……」


「……誰かに走り方教わったとか? 練習してもらったとか?」


「気のせいだ。速くなってなどいない」



 実際はそんなことなどないんだろうね。多分彼が言う通り、私は速くなっている。


 そして、速くなっているのだとして、そうなった原因の心当たりも私にはある。


 だが、彼にそのことを教えるつもりはない。


 これは相手がディエルドだからというわけではなく、ファルやペルチェなどといった私と(リモデル)の関係を知っている者以外にも教える気はない。


 だって、私がもしも本当に速くなっているのだとしたら、それはいつかリモデルと並走できるように走る練習を始めたおかげだと思うからさ。


 リモデルが王族じゃないから関係を秘密にしたいというより、明かすことで茶化されるのが私は嫌なんだ。他の王族はともかく、この男なら茶化してくる姿が容易に脳に浮かぶからね。一番明かしたくない。


 『たはー』と能天気に笑いながら、ディエルドは私と共に城の中に入っていく。



「……ディエルド、足の土は払っておこう」


「ああ、そだな」



 一応、中庭に出ていたわけだからね。土はほぼ確実に靴の裏に付着しているだろうから……


 払っておかないといけないと思ったんだ。


 ……ちなみにラプゥペを取り返すために城にリモデルと侵入した時は……払ってない。


 あの時は切羽詰まっていたから、忘れていたんだよね。指摘をするのを。


 でも、言い訳をする気はないよ。あの時は私が悪かった。ちゃんと反省しているとも。


 反省しているからこそ、私は現在靴の土を払おうとしているんだからね。


 今度、リモデルとまた城に入ることがあったら、土は払っておいた方がいいと言っておこう。


 もしくは足を結界で包むとか、ね。



「水で洗っとかない?」


「なるほど。王城を水浸しにして、お父様や執事、メイドの心労を増やしたいと……そう言うのだな?」


「えぇえ〜……いやいやちゃうよぉ。てか、心労は主に執事やメイドにかかるだろうに」



 心労が増えることは認めるんだね……



「じゃあ、何?」


「いやいや、普通に靴の裏を洗い流そうって言ってるだけだっての。わからない?」


「二回目だが、それだと城の廊下が水浸しになって、城の皆の心労が増えるわけだけども……」


「わーってる、わーってるって。水分なんざ風魔法でちょちょいっと吹き飛ばせばいいじゃんよ」



 まあ、確かにそれはそうだ。


 でもね、ディエルド……



「それは魔力の無駄だ」


「へへ、バレちった?」


「いや、わかっていたのかい」


「無駄でもいい。どんどん使っちゃえ!!」



 ……わかった上で提案したということはこれも嫌がらせか? 私への嫌がらせならいいが……


 執事やメイド、お父様に対する嫌がらせなら、私はそれを看過することが出来ないな。


 私が眉をしかめると、ディエルドは「勘違いしちゃってるぽーいね」と言った。ふざけるな。


 おちゃらけるディエルドを見て、中庭を見て楽しくなってきていた気持ちが再び降下する。


 喜びから、怒りへの感情の変化を楽しみたいということか。いい性格しているじゃないか。


 私が彼の胸ぐらを掴もうとしたところで、彼は「待って待って」と私を制止して……


 その後に意図を話し出した。



「……はいはい。そうやって無駄に魔力を使わせていき、魔力欠乏によってフラフラになった私のことを部屋に着く前に騎士のように優しく抱き上げたかったと……」



 ちなみに水で洗うぐらいでは魔力欠乏にならないことは彼もわかっていて、入った後に……


 ……「暖かくするために火魔法でも使ったらどう?」とか「早く行くために風魔法で歩く速度をあげたらどう?」とか色々と提案するつもりだったらしい。


 ……はぁ……とため息をただ吐きたくなる。



「唐突に起こった魔力欠乏症の恐怖から助けられたことでオレへの好感度の上昇が見込めるかなっと!! そういうわけだったりするんだが……」



 魔力欠乏ぐらいなったことあるから、恐怖なんて別に感じないって。


 それに私は間抜けじゃないから、欠乏症を避けるために魔力使用を最小限にしている。


 だから、そう簡単に魔力欠乏に陥ったりすることはないんだ。そこはわかってないみたいだな。



「黙ろうか、馬鹿兄」



 くだらないよ。くだらなすぎる。


 あまりにくだらなすぎるために、そのことを口に出そうとしたのだが、ディエルドは……



「いやいや、聞いてってよ。ねっ」


「だから……」


「ねっねっ」


「聞かな」


「いーやっ、聞こうっ!!」



 と私の言葉を鮮やかなまでに遮りまくった後……


 私の肩を叩きながら、その行動の情報とそれを試したことによる好感度上昇の例を紹介してきた。


 ちなみに私はそれを拒絶しようとしたが、彼はどうしても聞かせたいらしく、無理やりに話してきた。



「……ふむ」


「なっ、効果はあるんだって」


「絶対にあるとは言い切れないだろ。個人差……」


「そういうのいい、いい! やってみなきゃ、こういうのはわからないもんなんだからさっ」



 ……話の内容はこう。


 恐怖により、人間や人間に程近い私のような自律人形は心拍数を上昇させるだろう。


 その心拍数が上昇している状態でときめくような行動を取ることにより、その心拍数の上昇を恋心によるものだと誤認させる……それが『トキメキメッキ』。


 ディエルドは広く知られていると言っていたが、本当か? あったとして、そんなふざけた名称なのか?


 例に関してはこの国ではないが、遠く離れた場所にある今は亡き国の公爵令嬢がその国の王子にそれを試したことで告白され、結ばれたのだという。


 胡散臭かったが、まあいいや。後で調べる。


 ディエルドに聞くと、この城にはそれに関する本があるというからね。おとぎ話ではなく。



「……それより、本当に広く知られているのか?」


「ああ、そだよ。何回も言わせんなって」


「私は初めて聞いたからさ」


「そりゃ、恋愛初心者で世間知らずのドルちゃんが知らないのは当たり前でしょ」



 ムカッ。


 ……リモデルのことも先日会ったことも話してないからわかってないのかもしれないが……


 私はこれでもリモデルと付き合い始めてから、本を読んで真剣に恋愛について勉強している。


 たまたま知らなかっただけでこの言いよう。もう、殴りたくなってきているよ。この男を。



「怒らないでって。恋愛のことぐらい、恋愛教師のオレがドルちゃんに手取り足取り教えてやるから」


「結構だ」



 リモデルとの関係のこととか話したくなってきているよ。


 思わずそうしてしまわないように、早くプララたちのもとに着いてしまいたいと思ったが……


 どうやら、まだまだ先っぽい。


 ……私の部屋の近くとか言ってたけど、もうとっくに過ぎている。さっきのはデタラメだったわけだな。


 ため息を吐きながら、私は言う。



「というか、恋愛教師ってなんだい? そんなふうに他人に恋愛を教えられるほど、貴方は恋愛してきたのかい?」



 お父様から、ディエルドが特定の女性と親しくしているなどという話は耳にしていない。


 第一王女のルドフィアお姉様はおモテになるから、聞いたことがあるが、ディエルドはこの通り、面倒くさい性格をしているから顔が良くてもモテないんだ。


 それを彼自身も意外と知っていると思っていたが、そんなことないのかもな。


 ……もしも、付き合っていたとしても……彼のような人形はその関係がすぐに切れると思う。



「もちもちのーろんって感じ。何でも聞いてよ」


「じゃ、じゃあ……接吻の味は……」



 恥ずかしいが、言い切った。


 私は知っているよ。リモデルと済ませたから!


 接吻の味などはしなかったが、彼は一体どのようなことを答えるのだろうか……



「それこそ、さっきのキミの言葉で言うけど、個人差じゃない? どんな物を直前に食べてたとか……そういうのにもよってくるから、わからないよ」


「そ、そういうものか……」


「やーっぱり、恋愛初心者じゃないの」



 イライラするが、確かにこの男の言う通りかもしれないと思ってしまったので言い返さなかった。


 顔を伏せる私の手を引いてディエルドは言う。



「ごめん、人形部屋に行こうと思ったけど、その前にちょっとオレとそのことについて話そうよ」


「えっ……嫌だが」



 逃げようとしたんだけど、問答無用といった感じでディエルドは私の手を引いていき……


 近くにあったメイドの部屋と思われるところにノックもせず、無断で入っていくのだった。


 ……感情で動くところあるよね。この男。


 まあ、私もそういうところがないわけじゃないから、それを言葉には出さないが。


 出たくとも、その思いを抱いた時には部屋の扉に鍵をかけられたので不可能だった。

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