8話【リモデル視点】加虐趣味の謎の男
短剣の痛みが足を襲っても、手の麻痺が続く俺にはそれを引き抜くことは出来なかった。
痛みに喘いでも、それは変わらず……
「涙ぐらい出そうなもんだが……意外と我慢強いモンだなァ……そこは褒めてやるよォ……」
「褒めていただかなくても結構だね……」
息を荒くしながらも、強がりを言う。
こんな強がりで苛立つような気もしなかったからな。
それは的中。男は俺のその言葉を聞いても、まるでどうでもいいと言うように表情を変えない。
そして、俺に詰め寄りながら話しかけてきた。
「貴様……何をシにここまで来たんだァ……?」
何をするため……ねぇ。
絶対に……話せないな……
ドルイディというこの国の王女が出てくることをこんなふうに待ち伏せしている……そんなことは言えない。
……それはつまり『俺は不審人物です』と認めているのと同義だから。
単純に女性のことをこんなところで待ち伏せする行為も冷静に考えるとおかしいから、恥ずかしくて言えないというのもあるし……とにかく……とにかく。
……言わないと決めたので言わない。
口を強く引き締める。魔力で塞ぐ想像をして。
「なるほどね……意思は固いと……固いなら固いで柔らかくしたくなっちゃうのがオレなんだなァ……」
「全然上手くねぇよ……」
あー……ダメだな。引き締めると決めたのに、思わず答えてしまった。
まあ、でも、目的に関してはちゃんと言わないつもりだ。問題ない。本当に。
「減らず口だなァ……まあ、いいんだけどよ」
男は俺の口に短剣を突っ込んだ。先程、足に突き刺した短剣とは種類が同じでも別の物だ。
一体いくつ武器を所持しているんだか……
「うごぉ……」
「二度と口を聞けなくする……なんてことを言うつもりはねェけどよォ……それでも口内を切るぐらいはしようと思ってるぜ……早く言えよォ、目的を」
短剣が捻られて、口内から少量の血が出てくる。
これぐらいならまだ耐えられるが、こいつのことだ。それだけでは済まさないんだろうな。
口の中……舌の上にじんわりと染み込む血……
その味は……絶妙に不味い。吐き出そうとしたところで、男によってその口を俺が先程飛ばした糸と魔力を駆使して閉じてきた。器用なもんだな。
なんでも……「血の味をちゃんと味わってみろ」だってさ。
男は短剣から手を離したが、男が得意と思われる闇属性の魔力を使って短剣を押し込んでいるため……
絶え間なく出血は続いている。
押し込みが弱いから出血量も少ないし、一分ほどで十秒間だけ口に付けられた糸を剥がされて、口内を治療専用と思われる魔道具で治療されるから、口内の血によって窒息まで至ることはないだろうが……
ここまでされたら、きっとあと数分で気絶する……
もう既に十分だから、俺は自分で言うけど、中々に頑張っていると思うよ……
あまりの吐き気で耐えられなくて口が膨らむ。
顔面も……蒼白になっているんだろうな。
「……ぅ……ぐっ」
というか、ここまでされたら話そうにも話せないだろう。
もう、ただ痛めつけたいだけなんじゃないのか? このイカれた加虐趣味野郎が……
ここまでする暗殺者がいるとも思えないし……ただのイカれた野郎というだけなのか……?
「あー……時間経って冷静になって気づいたけど、これじゃァ……話したくても話せねェよなァ……悪かった。完全に話せるようにしてやるから、待ってなァ……」
やっぱりだったか……確定だ。
こいつは加虐趣味を持っている。それも感情が昂ると周りが見えなくなるという点も含め、最悪。
口が自由になった瞬間に糸混じりの唾を吐き、視界を奪い、動揺するこいつに……
再び自由になりつつある手と口の両方から最短動作で少なめの硬糸を射出し、吹き飛ばす。
硬糸は力を込めて硬くすれば、吹き飛ばすぐらいの威力はあるんだ。糸だって鍛えられるんだよ。
二つなのは一つだと心許ないと思ったから。
こいつの気は今に関しては完全に緩んでいるし、いける可能性はかなり高いと思ってる。
「……ッ!?」
……ほらな。
糸を外した瞬間に俺は心の中で言ったように糸混じりの唾をこいつの顔面に吐き捨てた。
それは上手く命中。
狼狽えるこいつに対して、手と口の両方から硬さを意識した硬糸を二つ射出……
そして、それも見事に命中させることに成功するのだった。糸が飛ぶのも速かったよな。
「はぁ……俺の糸も中々速かったろ? 君の風刃の速さにも決して、劣ってないと思うんだが……どうだ?」
男は命中によって吹っ飛んでいき……大木に激突した。
その大木は倒れたよ。如何に俺が強く糸で吹き飛ばしたか、伝わるだろう。
「うゥ……やるな。すっごいじゃあねェかよ」
大木に激突しながらも痛みを感じている様子はない。
それどころか、悦びに震えながら歯を剥き出しにして「くくく……」と笑ってやがる。
視界を奪うつもりだったから小さくしたんだが、口も閉じさせられるほど大きくすべきだったな。
剥き出しになる歯は、こいつの快楽が剥き出しになっているということでもあるんだろうよ。
その快楽の波は……伝わるから。
「……油断はしないぞ」
こいつはただ吹き飛ばしただけじゃダメだと思うから。
動けない状態になるように骨ぐらいは折っておき、その後に拘束する。
傷つけることに抵抗があった時期もあったが、ドルを守ると決めた今、他者を傷つけることに抵抗することなどしない。ただ、邪魔なだけだ。
こいつが立ち上がろうとした瞬間に足元に風属性の上級魔法の『強風刃』を飛ばす。
ウインクをしながらね。
「なるほどォ……オレの真似をしたとォ……」
「……そういうことさ」
俺はその後にその両足を右手の糸で拘束した後に引っ張ることでこちらまで寄せ……
左手の手刀で骨を折る。
「……?」
違和感があった。骨の音がしなかった。
何か足の部品が壊れるような……
え、待て……えっ……
いや、まあ……確かにここは人形の国……オトノマース人形国だ。決しておかしくはないが……
何故か俺の頭は完全に目の前のこいつを……人間であると認識していたのだ。
その認識が撤回されてしまうのは彼が笑って……口パクで『そうだよ。オレは人形だ』と肯定したから。
戸惑いながらも、俺はこいつの手の拘束も狙うのだが……隙が生まれてしまったことで失敗。
男は自力で俺の手から逃れると……足が動けないということで頭をこちらに向けて突進してくるのだった。
突進により、奴の頭がぶつかり吹き飛んだ俺……
俺の体が地面に叩きつけられる瞬間に男は……俺に馬乗りになってきた。
いつの間にか……片手に短剣を持って……いや、違うな。両手に短剣を持っている。
取り出す速度が早すぎるだろ……
「さァ……もう少し頑張ろっかァ……」
俺は……生まれて初めてここまで恐怖したよ。
死の、恐怖……ここまでのものか。
軽い震えを自制しながら、俺はそう思う。
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