41話【リモデル視点】誰かの足音
ラプゥペを置いたのは俺の魔力製ベッド。即席な上に魔力を最小限に抑えたため、出来はお粗末。
だが、十二歳の少年ぐらいの見た目をしながらそういった少年の体重の半分もないラプゥペなら問題ない。
彼はまるで、おもちゃの人形の如き軽さだから。
……いや、それは嘘。
でも、軽いのは本当だから……壊れないと思う。
ちなみにお粗末とは言ったが、それは強度のことであり見た目は悪いものではないと考えている。
ペルチェにも聞いたが、悪くないと言っていた。もちろん、言わせたわけではないよ。
「……だよね?」
「何がですか?」
「……いや、何も」
ファルの方がこういった魔力で物を作るのは上手い。俺が得意なのは人形作りばかりだからね。
まあ、人形師だからそれはおかしなことじゃないよね? 人形作り専門の仕事なんだから。
「……ドルの複製人形はラプゥペに、具体的に何をしようとしていたと思う?」
「……わかりません」
「わ、わからないか……」
調子狂う……まあ、良いけど。
体にあった部品なんだが、あれは今こうしてちゃんと見てみたら、洗脳を強固にするものでもなければ、内臓に何かしらの影響を与えるものでもなかった。
いくつかあって……具体的には三つなんだが……一つは魔力変換器。これは一見何も悪くないように見えるが、魔力に変換されるのは彼の体力。
これがあるせいで、ラプゥペは少し歩こうとしただけで疲れるようになってしまう。
明らかに問題があるんだが、そこがこれを付けた奴らはわかっていなかったらしい。
ただし、悪いものではないので……取り除いた後に俺はこれを自身の懐へと仕舞った。
「後で何かに使うんですか?」
「ああ、人形製作もそうだが、それ以外にも使えないことはないからな、これは」
残り二つも使い道がないわけじゃない……が、腹が立ったので処分することにする。
なんかやけに大きな物が二つあったと思っていたが、片方は盗聴器と思われるもの、もう片方は位置情報をわかるようにするためのものだった。
……こんな物を俺の大事な人形に仕込むな!! と怒鳴りたくなった。臓器とかがこんなもののせいで圧迫されるとか、ラプゥペが可哀想と思わないか?
大きかったのは多分魔力式だから、かな。それとも、盗聴器や位置情報の機械だと思わせないために大きくした? いや、後者はないな。
意外に単なる嫌がらせのために大きくした可能性もあるんじゃないか? ありそうだ。
「脳の部品は……」
「ああ、それはもう壊していいよ」
脳のところには実は記憶伝達装置が仕込まれていた。伝達装置自体は悪いものではないと思うが、これは粗悪品だし、入れておいていいとは思えない。
作ったことないけど、多分俺の方がいい物を作れるから、後で俺が作ったものを入れるとしよう。
「……大きすぎ」
ちなみに入っていたその伝達装置の大きさは俺の親指くらいだったんだ。
多分、小さすぎると見えないから敢えて大きくしたとかなんだろうけどさ。脳を圧迫してしまうわけだからもう少し小さくしてほしかったよ。本当に。
ラプゥペのことをまるで考えてくれてない。腹立たしいにも程があるっての。
俺だったら、裸眼じゃ見えないほど小さくできるから。いや、多分なんだけどさ。
「……もう問題はないといいが」
問題の部品は全て取り除いたし、さっき改造された脳も元に戻しているから、普通なら戻ってるはず。
だが……断定はできないから……
「再び起動してみないと……いけませんね」
「ああ、さすがだ。わかってるな」
これで起動した時に何かしらの問題が浮上したら、今度はその解決のために動いていく。
起動には専用のボタンを押せばいい。押すだけ……押すだけで起動は完了する。
だが……ちょっと緊張してしまっていて、その簡単なことが俺は今できていなかった。
「すー、はー」と息を吐いている俺。
そして、そんな俺を見てペルチェもため息をつくのだった。きっと、また情けない状態に戻ったと思ったのかもしれないな。大丈夫、だいじ……
「ってなんで触ろうとしてんだ!?」
「あまりに時間がかかりすぎているので、私が代わりにやろうかと」
「大丈夫だって。もういけるから!!」
「そう言うなら、わかりました。やめておきましょう」
ペルチェはボタンから手を離す。
危なかった。やっぱり、起動は俺がやりたい。俺の人形だし、この子が目覚めた時に目の前にいるのは俺で在りたい。そんな考えがあるんだよね。
ボタンに俺は素早く手を伸ば……そうとしたところで、何か音がして俺は動きを止めた。
「……えっ、と」
「今の……足音ですね」
誰かの足音だ。まさか、複製人形のことを誰かが助けに来たというのか?
……それなら、困るな。
俺はラプゥペのことをそそくさと抱えると、ペルチェに足音が聞こえた道の方向を警戒してもらいながら、部屋の右端……に寄っていった。
少し離れた位置に蓑虫状態の複製人形がいるが、瞼を閉じていて無反応だった。
自発的にスイッチを切ったように見えないこともないが、それはないだろうな。
あの複製人形はまだ操られた状態のはず。こちらに対して、きっと友好的ではない。
仲間が来て助けられた時のことを考えて、省エネモードにはしていても、スイッチを切ることはしないと思うんだ。少なくとも、俺が彼女なら切らない。
「……」
黙って足音の主がこちらに近づいてくるのを待つ。
あちらもきっと盗聴器などが壊されたことで警戒心を強めているだろう。もう抜き身の剣を持っていつでも切りかかれる状態にあるかもしれない。
そう考えた俺は自分とペルチェに結界を張る。
ちなみにラプゥペに結界を張ったのはペルチェだ。役割分担は大事。ペルチェの方が魔力が今はあるので、彼の結界の方が多分硬いと思われる。
「……?」
準備は万端だというのに、いつまで経っても足音が再び聞こえてくることがない。
足音が出ないような靴に履き替えた、とか? そんなのがもしもあるのなら、なんで履かなかった?
相手はうっかり屋なのか?
何でもいいが、このまま冷や汗を滲ませながらずっと立ち尽くすのは肉体にも精神にもキツい。
『人操糸』を試しに飛ばしてみるとしよう。いるなら、捕まえられる。いないなら、それでいい。
「糸を飛ばして探るから、ペルチェは下がっていてくれ」
「……別にいいですが、危険なのでは? あちらには私の目を奪った剛力の持ち主がいます。もし、そいつなら、糸を引っ張られてしまうかもしれませんよ」
「……あっ、そうか……」
糸を引っ張られて、あちら側に連れていかれたら危ないな。捕えられる可能性が高い。
うーん、それならどうするか。
俺が顎に右手を当て思案していると、何故か空いていた左手の方が掴まれた……ペルチェに。
どういうことかと困惑して頬を赤くしていると、ペルチェは笑った後に理由を話し出した。
「魔力で人形を作らせ、それに探らせませんか?」
「……はあ」
「貴方はもう魔力があまり多くないでしょう。だから、私が魔力を手を通して分けようとしているのです」
「……そういうわけね」
無言で手を差し出してきたから何事かと思った。手が寂しいからという理由でなくてよかった。
……なんか、それにしてはペルチェの手が紅潮しているんだけどね。
その上、体温もこちらに伝わってくる。
「勘違いしているかもしれませんから、言っておきます。私の手が熱いのは少しずつ魔力を移動しているからです」
「えっ……あ、ああ、うん」
ペルチェの視線が刺さり、俺は横を向いた。
悪いね、勘違いして。
恥ずかしい俺は思考を取り敢えず、どんな魔力式人形を作るかにシフトしていった。
暗い空間だし、能力を最大限に発揮できそうな闇属性の物がいいかと思う。
常用魔力だから、他の属性の魔力より作成難易度が俺にとっては高くなさそうだしね。
魔力を無事に全部受け取ることができた俺は……
「……では」
ペルチェのことを一瞥した後に、その手に魔力を込め、作る人形の姿を脳裏に浮かべていった。
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