40話【リモデル視点】またな……
目の前のドルイディは……偽物、なんだろうと思うよ。
でも、俺は……偽物だとわかっていても、それが彼女とそっくりとなるとダメなのかもな。
「……」
彼女……ドルイディと同じ顔……
それで怒られると落ち込み……微笑まれると頬が紅潮する。そして同時に戦意が削がれる。
俺が好きになったのは……恋をしたのは……彼女の、ドルイディの、顔面なのか? どうなんだろうな。
「……どう……なんだよ」
「ボソボソと独り言ね……あのさ、別に言うことないのなら、部品に触らせてもらうからね」
舐めてくれるな、君は。
「……なっ!?」
闇属性結界魔法……『強闇結界』の展開……
気を抜いているように見えたから、やってるのは予想外だったろうな。
……それぐらい、やるさ。やれるさ。
これでも、俺は天才だからな。
結界を叩こうとする偽物に対して、俺は……
「……なん、だ……?」
「『人操糸』だよ、君も見ていただろ? 本物なら」
右手の『人操糸』によって、彼女の体を引き寄せた。もちろん、脱出が困難になるようにグルグルと蓑虫状態にさせてからだ。そこら辺、抜かりはない。
彼女の力じゃ、出られないはずだ。本物ドルイディの力を思い出して、強度を変えたからな。
「『人操糸』……ああ、あの技か。そういえば、使えたね。地下に行く前の廊下で使ったんだろう?」
廊下で使ったというのは合っているな。
それだけじゃ、ダメだったな。まだまだ質問を重ねていく必要があったということか。
ペルチェとの一戦であの技を使った時に俺は本物とその技に関する話を少ししている。
見ていただけじゃなく、ちゃんとそれについての話を俺たちはしていたんだ。
だから……覚えていない可能性は低い。
「何をする時に?」
「……モグラに襲われた時に……上手く逃げるために……だろう……?」
「はっはっ……っふぅー……はっ」
つまらない嘘だな。
「……違ったか? ごめん、忘れてた」
「忘れてた?」
「精神干渉の弊害により、忘れていたってことさ」
精神干渉、ねぇ……
……うん、いいよ。もっと、質問をしていくからさ。まだまだ用意はしていたし。
「一つ目。俺と一緒にここに来ていた男の名前は? あ、ペルチェじゃないからな?」
「あっ、知ってるよ。ファルネーム・テイラーだろ」
……あまりに間抜けな答えに俺は思わず、頬が引き攣ったのだが、その答えに対して言及はせず、もう一つ用意していた質問の方を投げかけてみる。
「……二つ目。君を助けた後……すぐにあげた食べ物があるだろう? あれの名前を覚えているか?」
「は? そんなの覚えているわけ……」
……よかった。これで……これで、確定した。
「……やっぱり、君は偽物だよ」
「……? なんで……? だから、精神干渉によって記憶を忘れているんだって。話聞いてた?」
「都合のいい脳みそだな。もういいよ。嘘なのはわかってるんだよ、偽物が」
ドルから移した『一部の記憶』について俺は聞いている。その記憶はラプゥペを探し始めてからのドルの記憶。朝に渡したモッチのことを覚えていないのは……その記憶は移されていないから……だと思う。
虚偽の記憶も本物ドルイディは念の為に移したと聞いた。それが一つ目。ファルの本名。
まんまドルが言っていた通りの虚偽の名前を言ったから、ビックリしてしまったよ。
ファルネーム・テイラーじゃなくて、ファルナーメ・デッラ・ドミニカだ。全然違う。
「ああ……ドルイディ……」
「……?」
「……もう一度……会いたい……」
一日しか……いや、厳密には一日も経ってない。
であるのにも関わらず、こんなにも会いたいと思えるなんておかしいのだろうか。
「私は目の前にいるじゃないか。私だよ。私がドルイディ・ペンデンス・オトノマースだ」
本物は自分が本物だと主張しない。どっかの名も知らない奴が昔から言ってきたことだ。
信じたことなどなかったが、まさか本当だったとは。
「……なぁ」
「……」
「もう、止めよう。違うんだろ」
言葉の尻に疑問符がついていない。独り言のような話し方だったと思う。今の俺の言い方は。
その上、言葉が進む度にどんどん小さくなっていく……そんな声を彼女は聞き取れたらしい。
返答が……俺の耳に向けられる。
「目の前にある私の体……それはドルイディ・ペンデンス・オトノマースのもの。疑う余地などないだろう? 複製人形……さっき部屋で見たアレだと思ってるんだろうが、それなら特徴が一致しないはず」
俺はその言葉が耳に届いた瞬間に『人操糸』を出している方とは別の……左の手に力を込めた。
実は俺は左手に十秒ほど前から糸を生成していた。
そうしたのはもう目の前の偽物の言葉をこれ以上は聞きたくないと思ったから……その偽物の口を塞ぐため。
「……っ……あっ」
……糸を放つ前……脳裏に浮かび上がる彼女と過ごした短くも濃密な時間……それのおかげで思い出す。
俺は……彼女のどこを好きになったのか……
顔じゃなく、その精神を好きになったのだということを……きちんと、思い出せたんだ。
「……またな、偽物」
俺は右手で軽く口を塞いだ後、壁に向かって左手を使って蜘蛛の巣を真似した巨大な網を生成すると、完全な蓑虫となった偽物の体をそこに放る。
少し難しかったし、疲れもしたが……この技を使えるようになってから一度はやってみたかったこと(蜘蛛の巣生成)をできたわけだから、別にいいや。
「……ッ!!」
向けられる俺に対する殺意の視線……
俺はそれを逸らしたいという衝動に駆られながらも、見つめ返した。もう、逃げないよ。
偽物の視線なんかで傷つくことはない。見惚れることもない。その笑顔に本物を想起することもない。
だって、目の前の彼女は……俺が好きな本物の彼女と見た目が似ているだけの別人なんだから。
「ふぅー……疲れたな」
あれだけ色々あったのに、まだ一日も経ってないんだぜ? 濃密すぎるだろ?
「……もう何も言わなくていいんですか?」
……ペルチェか。横にいたの気づかなかった。
「……ああ」
俺はラプゥペを助けたい。そして、彼女の……本物のドルイディのところに行って謝りたい。
だから、暇じゃないんだ。偽物と交わすのは……今は、視線だけでいい。会話する気はない。
俺は偽物の視線だけを受け止めると……ペルチェを横に伴い、ラプゥペを抱いて彼女の視界外へ行く。
「……壊さないなんて優しいんですね」
「……別に壊さなくてもいいさ。あの複製人形は……どうせ、改造されただけだろうし」
目的を達成して、まだこの場所が残っていたなら……彼女も助けてやりたい。
助けようという相手を壊すなんて、そんなことを俺はするわけないよ。
……もう全く会うつもりのない相手に『またな』などと言うことだってないさ。俺は。
「……」
動かなくなった後ろの偽物……いや、複製人形の背中を俺は軽く見ると……そこにウインクした。
意味ないだろうけど、やりたくなったんだ。
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