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龍の傳人続―奈落の龍(青木家サーガ第4作)完結  作者: 光闇居士-Twilight Master


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【フラッシュバック:鉄椅子と爪】

それは、冷たい鉄の塊だった。人間工学を完全に無視して作られた拷問のためだけの椅子。彼は、そこに丸三日間、縛り付けられていた。手足の血流が滞り、痺れが全身を支配する。関節が悲鳴を上げ、腰が砕け散ってしまいそうだ。だが、肉体的な苦痛よりも辛かったのは、人間としての尊厳を奪われることだった。排泄もこの椅子の上で垂れ流すしかない。その汚物と汗の匂いが、彼のプライドをずたずたに引き裂いていった。

四日目の朝、董苅が現れた。

「どうだね、青木君。少しは人間らしい謙虚さを取り戻したかね?」

彼は義成の目の前に座ると、懐から小さなペンチと数本の竹串を取り出した。

「君のその美しい指。それで数々の契約書にサインをし、数々の女たちを喜ばせてきたのだろうな」

彼はペンチで義成の左手の人差し指の爪を掴み、ゆっくりと力を込めていく。ミシミシ、という嫌な音。

「あああああああああっ!!!!」

激痛。爪が根元から剥がれていく。

董苅は次に竹串を手に取り、その鋭く尖った先端を、剥がれた爪の生々しい肉の上に突き立てた。

「ひっ…!」

声にならない悲鳴。

「さあ、話してもらおうか。君が上海で接触した法輪功の残党の名を。君が彼らの海外への送金を手助けしたという証拠は上がっているのだ」

それは鎌をかけるための嘘だった。だが、義成の心は激しく揺さぶられた。母の顔が浮かぶ。「紅」を助けて、というあの悲痛な願い。

俺は、裏切れない。絶対に。

「…何も、知らない…」

義成は血反吐を吐くように言った。

「そうか。残念だ」

董苅はため息をつくと、竹串をさらに深く、指の奥へとねじ込んでいった。神経を直接焼かれるような痛み。義成の意識はそこで完全に途切れた。

「…この指が、一番、辛かったでしょう…」

麗紅の声が、彼を現実へと引き戻す。

彼女は、彼の指先を、自分の唇で温めるように包み込んでいた。その柔らかな唇の感触が、彼の指先に残る幻の痛みを、ゆっくりと和らげていく。

彼女は彼の体をマッサージし終えると、今度は彼を支えるようにしてベッドルームへと連れて行った。

そしてその夜、彼女は彼に究極の「養生法」を施した。

彼女は自らの衣服を静かに解き、現れたその完璧な裸体を、惜しげもなく彼の目に晒す。彼女は彼のそっと上に跨ると、究極のリラクゼーション・オイルであるサンダルウッドとローズ・オットーを自らの胸の谷間に垂らし、手のひらで温め、義成の胸にその手を置いた。

「青木様、深く、息を吸って…そして、ゆっくりと、お吐きなさい」

彼女の声に導かれるように義成は呼吸を繰り返す。彼女の手は彼の心臓の真上でゆっくりと円を描き始めた。その温かく滑らかな感触と天上的な香りに包まれて、義成の意識は心地よい微睡みの中へと沈んでいった。

彼女は彼の精神が完全にリラックスしたのを見計らうと、そっと彼の上半身を起こさせ、自らの膝の上に彼の頭を乗せた。

「さあ、お眠りなさいませ、私の、傷ついた龍…」

彼女は子守唄を歌うように囁きながら、彼の髪を優しく梳き始めた。彼女の太腿の柔らかな感触。彼女の体から立ち上る甘く清らかな匂い。義成は完全にその身を委ねていた。

そして、彼が完全に眠りの淵に堕ちようとしたその瞬間、彼女はそっと彼の耳元に唇を寄せた。

そして、彼の魂の龍を再び天へと昇らせるための、禁断の呪文を唱え始めた。

彼女のその神の指と、そして唇は、彼が男として失いかけていた自信と生命力そのものを、根源から呼び覚ますための特別な施術を開始したのだ。彼女の指は、彼の気の流れを読み取り、淀んだエネルギーの結節点を的確に解きほぐしていく。そして彼女の唇は、彼の最も敏感な部分に、熱い吐息と、祈りのような口づけを落としていった。

それはもはや言葉では表現できない、魂と魂の交合。快感という次元を超えた、生命エネルギーの交換だった。

彼の昂ぶった龍を、彼女はその柔らかな太腿の間に挟み、ゆっくりと腰を動かし始めた。

「青木様、感じるままに…すべてを、解き放ちなさい…」

彼女の声が彼の意識を支配する。彼はその声に導かれるままに、自らのすべてを彼女に委ねた。

絶頂の瞬間。彼の体から解放されたのは、精液ではなかった。それは彼の魂の奥底に溜まっていた、二ヶ月分の絶望と苦痛と、そして孤独の叫びだった。

彼は、赤子のように、声を上げて、泣いた。

麗紅は、そのすべてを受け止めた。彼女は彼の涙と汗でぐっしょりと濡れた体を、ただ黙って抱きしめ続けた。

その夜、義成は初めて麗紅にすべてを語った。ぽつり、ぽつりと、途切れ途切れに。黒監獄での出来事。そして自分がなぜ最後まで沈黙を守り通したのかを。

「…守らなければ、ならなかった。僕が話せば、多くの人間が不幸になる。僕を信じてくれた、人たちが…」

麗紅は何も言わずに、ただ彼の髪を優しく撫で続けた。彼女にはわかっていた。彼を支えていたのは憎しみでも復讐心でもない。彼がその心の奥底で必死に守ろうとしていた、誰かへの愛と、そして憐憫の情だったのだ、と。

この男は怪物ではない。あまりにも人間らしすぎて、そしてあまりにも優しすぎて、この世界のすべての悪と痛みを一人で背負い込んでしまった、愚かで、そして気高い魂なのだ。

「…おやすみないませ、私の、傷ついた龍…」

麗紅は、彼の額に、そっと母のようなキスを落とした。

その夜、義成は生まれて初めて、何の夢も見ずに、深く、そして穏やかな眠りに落ちることができた。麗紅の温かい腕の中で。

龍は、奈落の底から生還した。

その魂に刻まれた無数の傷跡は、決して消えることはないだろう。

だが、その傷跡こそが、彼を、新たな、そして真の怪物へと変貌させる、聖痕となることを、まだ誰も、知らなかった。

彼の本当の聖戦は、この静かな夜から、始まろうとしていた。

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