【フラッシュバック:激光と暗黒の饗宴】
「さあ、始めようか、青木君」
董苅の、粘つくような声だ。
パッ!!!!!!!!
世界が、真っ白になった。軍事用のストロボライトが、彼の目の前で炸裂した。網膜が焼き切れるかと思うほどの、強烈な閃光。視界が回復しないうちに、今度は耳を劈くような爆音が鼓膜を襲った。不協和音のヘビーメタルと、赤ん坊の甲高い泣き声がミキシングされた悪魔のサウンド。
光、音、光、音、光、音、光、音!!!!
不規則なリズムで繰り返される感覚への暴力。脳が情報処理能力の限界を超えて、ショートしていく。
「どうした、青木君。お前のその優秀な頭脳も、この単純な物理攻撃には耐えられないか?」
董苅の嘲笑う声が爆音の隙間から聞こえる。
背中に、激しい熱と痛みが走った。「ジュッ」という肉の焼ける音と匂い。電気ショックガンだ。
「眠らせはせんぞ、青木君!我々の『おもてなし』は、まだ始まったばかりだ!」
意識が強制的に引き戻される。光と音と熱と痛み。その無限地獄のループ。
いつまで続くのか。もう、いっそ、殺してくれ。そう思った瞬間、すべての光と音が、ぴたり、と止んだ。そして、再び、完全な暗黒と静寂が訪れる。その落差が、逆に彼の精神を蝕んでいく。次はいつ来るのか。その恐怖に全身の神経が張り詰め、硬直する。人間は暴力そのものよりも、暴力への「予感」によって、より深く壊れていくのだ。董苅はそれを知り尽くしていた。
「…青木様、力を、抜いて…」
麗紅の声が、彼を地獄から引き戻した。彼女の指は、彼のこわばりきった肩甲骨の筋肉を、深く、しかし優しく圧迫していた。「もう、あの光も、音も、ここにはありません。ここにあるのは、この静かな香りと、私の指の温もりだけ…」
義成の荒い呼吸が、少しずつ穏やかになっていく。
体を清めた後、麗紅は義成をマッサージベッドへと横たわらせた。部屋にはフランキンセンスとミルラが焚かれ、死と再生を司る神聖な香りが満ちている。彼女の手元には、いくつもの小さな陶器の壺が並んでいた。彼女が自ら世界中から取り寄せ、調合した秘伝のオイルだ。
彼女はまず、一番酷い火傷の痕に、アロエとラベンダーを主成分とした冷却作用のある、淡い緑色のジェル状オイルを、羽毛で触れるかのように優しく塗り込んでいく。
「ここは、魂が、一番驚いた場所。まずは、その熱を、鎮めてあげましょう」
次に、打撲によるどす黒い痣には、アルニカとヘリクリサムの血行を促進する、黄金色のオイルを、指の腹で、ゆっくりと染み込ませていく。
「ここは、肉体が、悲鳴を上げた場所。その、滞った叫びを、流してあげましょう」
彼女は、オイルを塗ったその傷跡の上に、自らの温かい唇を、そっと押し当てた。
「…!」
義成の体が再び小さく震える。それは驚きと、そして生まれて初めて感じる種類の、深い慰めだった。
彼女は、彼のすべての傷跡に、その浄化のキスを捧げていった。まるで我が子の痛みを和らげようとする母親のように。
その献身的な行為の中で、義成の心の奥底に氷のように固まっていた何かが、少しずつ溶け始めていくのを感じた。
(ああ…俺は、まだ、人として、扱ってもらえるのか…)
(この、汚れた体でも…この、壊れてしまった、魂でも…)
彼の目から、一筋の涙がこぼれ落ち、シルクのシーツに小さな染みを作った。彼が奈落の底に堕ちてから初めて流した、涙だった。
麗紅は、その涙に気づかないふりをしながら、黙々と施術を続けていた。彼女は自分に言い聞かせていた。
(私は、この方のための器。この方のための聖杯)
(私のこの唇も、指も、乳房も…この体すべてが、この尊い魂を癒すために神から与えられた道具なのだ)
(ここに、個人的な感情などあってはならない。これは恋ではない。愛でもない。もっと大きく、そして神聖な使命なのだ)
(だが…ああ、神様。なぜ、私の心は、これほどまでに、この方を、愛おしいと感じてしまうのでしょう。この、傷だらけの背中が、壊れてしまいそうなほど、抱きしめたいと、願ってしまうのでしょう)
彼女の内なる葛藤は、彼女の指先に、より深い祈りを込めていた。




