4. 最後の、取引
オペレーションが、最終段階に、入った頃。
北京の、政治状況は、最終的な、局面を、迎えようとしていた。
習近平の、次期、最高指導者としての、地位が、確実なものとなり、党内の、権力闘争は、その、最後の、血の粛清へと、突入していた。
胡錦濤派の、残党と、そして、彼らに、連なる、上海閥の、古い、利権は、習近平の、掲げる「反腐敗」キャンペーンの、格好の、標的となっていた。
張書記は、その、新しい、時代の、波に、巧みに、乗り、自らの、地位を、不動のものとしていた。
そして、彼が、新しい、皇帝への、忠誠を、示すための、最大の「生贄」として、狙いを定めたのが、彼の、盟友であり、同時に、最大の、懸念材料でもあった、青木義成だった。
張書記は、恐れていたのだ。
義成の、その、悪魔的な、頭脳と、自分たちの、すべての、汚い、秘密を、知り尽くした、その、存在を。
彼は、義成を「処理」することで、自らの、過去を、清算し、新しい、時代に、生まれ変わろうと、していた。
その、動きを、義成は、読んでいた。
彼は、張書記が、動く前に、動いた。
彼は、李霃帘を、密かに、呼び出した。
場所は、天津の、あの、アスターホテルの、スイートルーム。
二人が、初めて、本当の意味で、共犯者となった、思い出の、場所。
李霃帘は、何も知らずに、やってきた。彼女は、今回の、オペレーションの、成功に、酔いしれていた。
「…どうしたの、義成。こんな、場所に、呼び出して。祝杯なら、いつでも、付き合うわよ」
「…ディアオリェン。ゲームは、終わりだ」
義成の声は、静かだった。「張書記は、君と、僕を、消すつもりだ。彼は、新しい時代の神に、なるために、我々という、古い悪魔の血を、生贄として、捧げるだろう」
「…何を、言っているの…?そんな、はず…」
李霃帘の、顔から、血の気が、引いた。
「これが、証拠だ」
義成は、テーブルの上に、一つの、USBメモリを、置いた。
そこには、張書記が、義成と、李霃帘を「処理」するために、党中央と、交わした、極秘の、通信記録が、収められていた。
李霃帘は、その、冷徹な、裏切りに、わなわなと、震えた。
彼女は、すべてを、捧げた、つもりの、この新しい主人に、あっさりと、捨てられたのだ。
「…どうすれば、いいの…?」
その声は、か細く、絶望に、満ちていた。
「逃げるんだ、ディアオリェン」
義成は、言った。「俺が、道を作る。君を、この国から、脱出させる。だが、二度と、この国の土を、踏むことはできない。君が、築き上げてきた、すべての、権力と、富を、捨てるんだ」
「…嫌よ…そんなの…」
「君には、選択肢はない」
義成は、彼女を、抱きしめた。
それは、恋人の、抱擁ではなかった。ただ、一人の、人間として、その、哀れな、運命を憐れむ最後の情けだった。




