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龍の傳人続―奈落の龍(青木家サーガ第4作)完結  作者: 光闇居士-Twilight Master


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9. 龍と女王の、二重奏(デュエット)

その日から、二人の、壮大な、チェスゲームが、始まった。

それは、もはや、知恵比べではなかった。互いの、知性を、共鳴させ、一つの、目的のために、昇華させていく、「知恵共創」の、プロセスだった。

彼らの、戦略は、二つの、盤上で、同時に、進められた。

一つは、「卓上」の、ゲーム。

蝶々は、義成から、提供された、情報を、元に、環境保護の、論理を、さらに、精緻なものへと、進化させた。

彼女は、新たな、記者会見を開き、こう、発表した。

「我々の、調査の結果、渤海湾の、汚染の、真の、原因は、河北省の、精錬工場だけでなく、その、背後にある、欧米資本の、市場操作にも、一因があることが、判明しました。これは、もはや、一企業の、問題では、ありません。中国と、アメリカの、両政府が、協力して、解決すべき、地球規模の、課題です」

彼女は、矛先を、巧みに、ずらし、この問題を、単なる、中国批判から、米中間の、経済摩擦へと、すり替えてみせたのだ。

そして、その、解決策として、彼女は、完璧な、折衷案を、提示した。

「河北省の、工場は、生産量を、一時的に、削減し、その間に、日本の、最新の、環境浄化技術を、導入し、クリーンな、生産体制を、構築する。そのための、資金は、我が、NGOが、責任を持って、国際社会から、集める。そして、アメリカ政府は、その、背後で、市場を、不当に、操作した、ヘッジファンドを、調査し、厳正な、処罰を、下すべきだ」

それは、誰一人として、正面から、反対することのできない、完璧な、正論だった。

中国政府は、環境問題に、真摯に、取り組む、姿勢を、世界に、アピールでき、面子を、保つことができる。

アメリカ政府も、自国の、ならず者ファンドを、取り締まる、という、大義名分が、立つ。

そして、李霃帘と、張書記は、生産量の一時削減という、わずかな、痛手と引き換えに、国際社会からの、お墨付きと、日本の、最新技術という、新たな「蜜」を、手に、入れることができる。

誰もが、損をしない、落とし所。

その、あまりにも、見事な、シナリオに、米中、両政府の、水面下は、大きく、揺れた。

そして、その、裏側で。

二人は、「卓下」の、ゲームを、冷徹に、そして、容赦なく、進めていた。

義成は、林祖苑と、蝶々の、国際的な、ネットワークを、使い、デヴィッド・カーン将軍、ヘッジファンドCEOのパーカー、そして、財団理事長のロスチャイルドの、個人的な、スキャンダルと、犯罪の、証拠を、徹底的に、洗い出した。金の、流れ、愛人関係、そして、彼らが、最も、知られたくない、過去の、汚点。それは、単なるゴシップではなかった。法廷で、彼らの、社会生命を、完全に、終わらせることのできる、鋭利な、刃だった。

復讐の、第一の矢は、ヘッジファンドCEO、ジェームズ・パーカーに、放たれた。

義成のハッカーチームが、彼の、タックスヘイブンにある、秘密口座の、全記録を、暴露した。そこには、インサイダー取引、市場操作、そして、何よりも、児童買春組織への、巨額の、送金記録が、生々しく、記されていた。

ウォール街は、震撼した。

昨日までの、金融界の、寵児は、一瞬にして、人間の、屑へと、転落した。SEC(証券取引委員会)の、強制捜査が、入り、彼の、築き上げた、金の帝国は、砂上の楼閣のように、崩れ去った。裁判で、彼は、反社会的勢力との、共謀罪も、加わり、ほぼ、終身刑に、等しい、判決を、言い渡された。ニューヨークの、摩天楼の、頂点から、奈落の、独房へ。彼の、転落劇は、金融史に、醜悪な、一ページとして、刻まれることになった。

第二の矢は、財団理事長、マイケル・ロスチャイルドを、襲った。

蝶々が、自らの、人脈を、使い、彼が、長年にわたって、環境保護という、聖なる、仮面の下で、行ってきた、背任行為と、女性職員への、悪質な、セクシャルハラスメントの、数々を、内部告発という形で、ニューヨーク・タイムズの一面に、すっぱ抜かせたのだ。

リベラルな、文化人として、尊敬を集めていた、彼の、偽りの、仮面は、剥がれ落ちた。家族は、彼を、見捨て、友人たちは、手のひらを返した。彼は、すべてを失い、社会的な、信用を、完全に、失墜した。今は、マンハッタンの、高級アパートメントで、誰にも、会うことなく、アルコールに、溺れる、孤独な、余生を、送っているという。生きながらにして、社会的に、死んだのだ。

そして、最後の、そして、最も、残酷な、一撃が、このゲームの、キング、デヴィッド・カーン将軍を、待っていた。

義成は、彼が、国防次官補時代に、主導した、中東での、秘密作戦に関する、最高機密文書を、リークした。それは、民間人を、巻き添えにした、違法な、ドローン攻撃の、命令書だった。紛れもない、戦争犯罪の、証拠。

ワシントンの、政界は、大スキャンダルに、揺れた。

愛国者の、英雄として、尊敬を集めていた、将軍は、一転して、国家の、恥へと、転落した。議会の、公聴会に、呼び出され、かつての、部下たちからも、次々と、不利な、証言が、飛び出した。

その、屈辱に、彼の、軍人としての、鋼鉄の、プライドは、耐えられなかった。

判決が、下される、前夜。

彼は、バージニア州の、広大な、自宅の、書斎で、かつて、戦場で、幾多の、敵を、屠ってきた、愛用の、コルト・ガバメントの、銃口を、自らの、こめかみに、当てた。

一発の、乾いた、銃声が、アメリカの、夜の、静寂を、破った。

偽りの、正義の、巨頭たちは、こうして、自らが、蒔いた、悪の、種によって、自滅していった。

その、復讐劇は、あまりにも、鮮やかで、そして、爽快な、幕切れだった。

天津の、アスターホテルの、スイートルーム。

カーン将軍の、自殺を、報じる、CNNの、ニュースが、大型モニターに、無音で、流れている。

義成と、蝶々は、勝利の、祝杯を、挙げていた。

グラスの中の、シャンパンの泡が、まるで、彼らの、勝利を、祝福する、星屑のように、輝いていた。

「…乾杯。新しい、世界の、始まりに」

蝶々の、声は、静かだったが、その、氷の瞳には、かつてないほどの、情熱の炎が、燃え盛っていた。

「ああ。乾杯」

義成は、グラスを合わせた。

二人の、間に、もはや、言葉は、必要なかった。ただ、互いの、知性への、絶対的な、信頼と、そして、共に、巨大な、悪を、打ち破った、戦友としての、深い、絆だけが、そこには、あった。

やがて、蝶々は、グラスを、置くと、静かに、立ち上がった。

彼女は、義成の前に、立つと、自らの、アルマーニの、ジャケットを、脱ぎ捨てた。

そして、彼が、シンポジウムで、初めて、出会った時のように、何の、躊躇もなく、彼の、手を、取ると、その、手のひらを、自らの、シルクのブラウスの、下の、柔らかな、胸の、膨らみに、導いた。

彼女の、心臓が、激しく、しかし、力強く、鼓動している。それは、もはや、恐怖や、不安の、鼓動ではなかった。

それは、一人の、男への、抑えきれない、恋情の、高鳴りだった。

「…義成…」

彼女は、初めて、彼の、名を、呼んだ。その声は、甘く、そして、潤んでいた。

「…これで、終わりじゃ、ないわよね…?私たちの、戦いは、まだ、始まったばかり。私は、あなたの、剣となり、盾となる。だから…」

彼女は、彼の、手に、自らの、頬を、寄せた。

「私を、あなたの、女にも、して…」

それは、彼女が、生まれて初めて、発した、魂からの、愛の、告白だった。

彼女の、その、すべてを、投げ出すような、純粋な、想いに、義成の、心は、激しく、揺さぶられた。

だが、彼は、首を、横に、振った。

彼は、彼女の、手を、優しく、離すと、そっと、その、華奢な、肩を、抱き寄せた。

「蝶々」

彼もまた、初めて、彼女の、名を、呼んだ。「君は、僕の、女になるには、あまりにも、気高すぎる。君は、僕の、対等な、パートナーだ。それ以上でも、それ以下でもない」

彼の言葉に、蝶々の瞳が、失望と、そして、それ以上の、深い、感動に、揺らめいた。

義成は、彼女の、その、美しい、顔を、両手で、包み込むように、支えると、自らの、顔を、ゆっくりと、近づけた。

そして、二人の、唇が、触れ合うか、触れ合わないか、その、寸前で、動きを、止めた。

数ミリの、隙間。そこを、世界で、最も、濃密で、そして、神聖な、空気が、流れていく。

彼の、吐息が、彼女の、唇を、撫でる。彼女の、潤んだ、瞳が、彼の、魂の、奥底を、見つめている。

時間は、永遠に、引き伸ばされたかのようだった。

やがて、彼は、そっと、その唇を、彼女の、額に、押し当てた。

それは、恋人の、口づけではなかった。

戦友への、敬意と、同志への、信頼、そして、妹を、慈しむかのような、深い、愛情が、込められた、誓いの、キスだった。

「…また、会おう。蝶々」

彼は、囁いた。「次は、ワシントンで、だ。我々の、戦いの、本当の、クライマックスは、いずれはそこへ向かうのだ」

彼は、彼女から、体を離すと、床に、落ちていた、彼女の、ジャケットを、拾い上げ、その肩に、優しく、かけた。

そして、一言も、振り返らずに、スイートルームを、後にした。

後に、残された、蝶々は、その場に、立ち尽くしていた。

彼の、唇の、感触が、まだ、額に、残っている。

彼の、残り香が、まだ、部屋の中に、満ちている。

彼女の、頬を、一筋の、涙が、伝った。

それは、悲しみの、涙ではなかった。

生まれて初めて、知った、恋という名の、甘く、そして、切ない、痛みに、打ち震える、喜びの、涙だった。

龍と、女王の、絆は、結ばれた。

それは、肉体で、交わるよりも、遥かに、深く、そして、揺るぎない、魂の、盟約だった。

二人の、知恵比べは、終わった。

そして、今、二人の、知恵共創の、壮大な、物語が、静かに、幕を開けたのだ。

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