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龍の傳人続―奈落の龍(青木家サーガ第4作)完結  作者: 光闇居士-Twilight Master


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第四章:世界の工場と氷の女史 第一部:世界の工場、欲望のるつぼ ― 義烏編 1. 龍、南へ飛ぶ

" The world as we have created it is a process of our thinking. It cannot be changed without changing our thinking."

(我々が作り出したこの世界は、我々の思考のプロセスである。我々の思考を変えることなしに、この世界を変えることはできない)

– Albert Einstein/アルベルト・アインシュタイン


1. 龍、南へ飛ぶ

2008年、秋。世界は、リーマン・ショックという名の、巨大な金融津波に、飲み込まれていた。ニューヨークの、摩天楼の頂点から、崩れ落ちた、貪欲な資本主義の、瓦礫が、地球上の、あらゆる市場を、埋め尽くしていく。昨日までの、常識が、通用しない、新しい、混沌の時代が、始まろうとしていた。

その中で、ただ一つの国だけが、不気味なほどの、静けさと、そして、底知れぬ、自信を、保っていた。

中国。

北京オリンピックという、空前絶後の、国家的、ショーを、成功させたばかりの、この、巨龍は、四兆元という、天文学的な、財政出動を、いとも、簡単に行い、世界の、経済危機を、まるで、他人事のように、対岸の火事として、眺めていた。

そして、この、新しい、時代の、パワーバランスの、変化を、最も、敏感に、感じ取っていたのが、北京の、闇の、中枢に座る、男たちだった。

「…青木君。時代は、変わった」

北京郊外、軍の施設をカモフラージュした、あのクラブハウスで、張書記は、葉巻の紫煙をくゆらせながら、言った。その、元軍人らしい、鋭い眼光は、世界の、新しい、地図を、見据えている。「もはや、アメリカは、唯一の、覇者ではない。これからは、資源が、通貨を、凌駕する時代が来る。そして、その、最も、重要な資源は、石油ではない。『レアアース』だ」

青木義成は、黙って、彼の言葉に、耳を傾けていた。張書記との、悪魔の盟約から、二年。義成は、彼の、最も、信頼する「刃」として、党内の、邪魔な、政敵を、何人も、闇に、葬り去ってきた。そして、その、見返りとして、河北省の、レアアース利権という、莫大な、富を、その手に、収めていた。

「我々は、この、レアアースという、神のカードを、最大限に、活用する。それは、我が国の、ハイテク産業を、育成するための、栄養源であり、同時に、言うことを聞かん、生意気な、隣国…例えば、日本のような国を、黙らせるための、最強の『武器』ともなる」

張書記の言葉に、義成は、反論しなかった。彼は、もはや、日本の、国益を、代弁する、国家の、エージェントでは、なかった。彼は、この、巨大な、ゲームの、中で、自らの、生存と、目的のためだけに、動く、孤高の、プレイヤーだった。

「だがな、青木君」張書記は、続けた。「河北省の、ルートだけでは、リスクが、高すぎる。李霃帘の、やり方は、派手すぎるのだ。もっと、静かで、巨大な、そして、誰にも、気づかれない、新しい、密輸の『龍脈』が、必要だ」

「…どこへ?」

「南だ」

張書記は、地図上の、一点を、指差した。「浙江省、義烏イーウー。世界の、工場。すべての物が、そこに集まり、そこから、世界中へ、散っていく、混沌の、坩堝るつぼ。あの、街の、巨大な、物流ネットワークに、我々の『白い粉』…つまり、レアアースを、乗せるのだ。雑貨に、紛れ込ませ、コンテナの、奥深くに、隠してしまえば、誰にも、見つけられはしない」

それは、あまりにも、大胆で、そして、天才的な、発想だった。

河北省の、李霃帘は、この計画に、猛反対した。それは、彼女が、独占してきた、利権が、脅かされることを、意味していたからだ。だが、張書記の、決定は、絶対だった。彼女も、この、新しい、皇帝の、前では、一人の、寵姫にすぎない。

彼女は、嫉妬と、不安に、唇を噛みながらも、義烏の、地元官僚を、手配するしか、なかった。

「…胡曲晋フー・チュイジンという男よ」

電話の向こうの、彼女の声は、氷のように、冷たかった。「義烏市の、商務局の、副局長。金の亡者で、女好きの、典型的な、田舎役人。あなたなら、赤子の、手を、ひねるように、手懐けられるでしょう。でも、気をつけて、義成。あの街は、北京とは、違う。ルール無用の、無法地帯よ。あなたほどの、龍でも、足をすくわれるかもしれないわ」

その、忠告とも、嫉妬ともつかぬ、言葉を、背中に受けながら、義成は、南へ、飛んだ。

義烏。

彼が、その地に、降り立った瞬間、感じたのは、混沌、という名の、圧倒的な、エネルギーだった。

狭い空の下に、巨大な、卸売市場の、ビルが、ひしめき合い、その、谷間を、人、人、人の、濁流が、埋め尽くしている。様々な、方言が、怒号のように、飛び交い、クラクションの、不協和音が、鳴り響く。空気は、排気ガスと、埃と、そして、一攫千金を、夢見る、何百万という、人間の、汗と、欲望の、匂いで、満ち満ちていた。

北京の、計算され尽くした、権力の、匂いとは、まったく違う、生の、剥き出しの、生命力。

義成は、この、街を、気に入った。

彼の、新しい、戦場に、ふさわしい、舞台だと、思った。

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