4. 二つの再会
時間は、流れ、紅の、体調も、少しずつ、回復していった。
そして、ついに、その時が、来た。
義成は、母・京海と、紅を、再会させるための、舞台を、整えた。
場所は、中国でも、日本でもない、第三国。マカオだった。
煌びやかな、カジノと、ホテルが、林立する、この、東洋の、ラスベガスは、光と、闇が、交錯する、義成の、独壇場だった。
彼は、最高級ホテル「ウィン・マカオ」の、ペントハウス・スイートを、貸し切った。
そして、日本から、母・京海を、呼び寄せた。
彼女には、「大事な、ビジネスの、紹介をしたい」とだけ、伝えて。
一方、香港からは、祖苑が、回復した、紅を、プライベートジェットで、連れてきた。
スイートルームの、広大なリビングで。
二人の、年老いた、しかし、美しい、女性たちが、数十年ぶりに、顔を、合わせた。
京海は、そこに、立っているのが、誰なのか、一瞬、わからなかった。
だが、彼女が、その、痩せ細った、友の、瞳の、奥にある、変わらない、光を、認めた、その瞬間。
「…紅…?」
その声は、囁きのようだった。
「…京海…」
紅の、目から、涙が、溢れた。
二人は、言葉もなく、駆け寄り、そして、きつく、きつく、抱きしめ合った。
それは、言葉を、超越した、再会だった。
文化大革命の、嵐。
その後の、それぞれの、過酷な、運命。
引き裂かれた、友情。
失われた、時間。
その、すべてが、この、一瞬の、抱擁の中に、溶けて、いくかのようだった。
二人は、子供のように、声を上げて、泣いた。
そして、その、光景を。
義成は、部屋の、隅から、ただ、黙って、見つめていた。
祖苑は、彼の、隣に立ち、その、横顔を、静かに、見守っていた。
義成の、顔には、何の、表情も、なかった。
だが、その、瞳の奥では、激しい、感情の嵐が、吹き荒れていることを、祖苑だけは、知っていた。
彼は、この、光景を、創り出した、創造主だった。
だが、彼は、決して、今その、光の輪の、中に、入ることは、できない。
彼は、今闇の、住人だからだ。
その、絶対的な、孤独。
それこそが、青木義成という、男の、本質であり、そして、悲劇なのだ。
夜が、更け、二人の、盟友が、語り尽くせぬ、思い出を、分かち合っている、その間。
義成は、バルコニーで、一人、マカオの、夜景を、見下ろしていた。
背後から、母・京海が、近づいてくる。
彼女は、息子の、その、広い、しかし、どこか、寂しげな、背中に、そっと、ショールを、かけた。
「…ありがとう、義成」
彼女の声は、涙で、震えていた。「本当に、ありがとう…。あなたという、息子を、持てて、母さんは、世界一の、幸せ者です」
「…母さんが、喜んでくれるなら、それでいい」
義成は、振り返らなかった。
「でもね、義成」
京海は、続けた。「あの子は、言っていたわ。あなたに、命を、救われた、と。一体、あなた、中国で、何を…」
「母さん」
義成は、静かに、彼女の言葉を、遮った。「僕は、何も、特別なことは、していない。ただ、人との、ご縁が、あっただけだ」
それは、母を、心配させたくない、という、優しさから、出た、嘘だった。
だが、京海は、その嘘を、見抜いていた。そして、その、嘘の、奥にある、息子の、深い、痛みと、孤独を、感じ取っていた。
彼女は、それ以上、何も、聞かなかった。
ただ、その、傷ついた、龍の、背中を、優しく、抱きしめることしか、できなかった。
それは、この、夜に、起きた、一つの奇跡、静かな、そして、切ない、再会だった。
龍は、その、聖戦の、第一幕を、終えた。
彼は、母との、約束を、果たした。
だが、彼の、心は、晴れなかった。
なぜなら、彼は、知ってしまったからだ。
光を、創り出すためには、より、深い、闇が、必要である、ということを。
そして、自らが、その、闇の、一部と、なってしまった、という、紛れもない、事実を。
彼の、戦いは、まだ、終わらない。
むしろ、本当の、戦いは、これから、始まるのだ。
彼は、マカオの、その、偽りの、光の中で、次なる、戦場へと、思いを、馳せていた。
そこは、光も、届かない、本当の、奈落の、底。
国家と、国家が、その、欲望を、ぶつけ合う、血塗られた、戦場だった。




