第43話 2月11日 水曜日
昨日は初めて会社をサボった。「休ませて欲しい」という電話すらしなかった。祥太から何度も連絡があったみたいだけど、全部無視した。なんにもしたくない。私なんか放っといて。
ネネロンと良平の家に来た。匂いだけでもいい。彼を感じていたい。
外はすごい雨で、それを良平のベッドの中から眺めている。
眠いのにちっとも眠れない。何も食べてないけど、お腹は空かない。
良平に会いたい。どこでしくじったんだろう。楽しくやれてるって、いつから勘違いしてたんだろう。最初っから良平は私となんか……考えてみればそうだよね。私、ずっと祥太と付き合ってて、それを良平は知ってて……結婚したくないから別れた、なんとなく寂しくて浮気したみたいに思われても仕方ないかもな。体だけの、すぐに寝ちゃう女だって思われて当然のことをした。
「最低だ」
「ニャア」
ネネロンがベッドに潜り込んで慰めてくれる。
胸元に居てくれるとほっとして眠気が襲ってきた。
ガチャガチャガチャ
玄関から音がして、ドタドタと足音がした。
「百花!いるか?」
「ニャア」
ネネロンが返事をした途端に、布団を剥がされた。
「良平?」
「百花、おまっ、心配かけさせんなよっ!」
「なにしてるの?」
「こっちのセリフだよ!連絡もつかないし、なんでここにいんだよ!いや、違うか……ここにいてくれてよかったよ……まったく!」
良平がへなへなとベッドにもたれかかる。
「祥太から連絡があって、昨日、会社バックレたんだって?」
「あ、うん」
「昨日、百花んちピンポンしに行ったけど反応が無かったって連絡くれたんだよ」
「祥太が?」
「そうだよ」
「それで私のこと探しに来てくれたの?」
「そうだよ」
ダバダバと涙が溢れてくる。
「良平、どこに居たの?」
「どこって……」
「福岡じゃないでしょ?嘘つかないで」
「……ビジネスホテルだよ」
「なんで?」
「なんでって……」
言葉に詰まった良平の胸を叩く。
「私のこと好きじゃないなら優しくしないでよ!そうやって、思わせぶりに……」
ドコドコと良平を叩く私の両手を握られた。
「百花?」
良平が不思議そうに私を見ている。
「やめてよ、そんな目で見ないで!」
「ニャア!」
私が叫んだ途端、ネネロンが良平の顔を引っ搔いた。
「痛って……」
毛を逆立てて威嚇するネネロンと、顎から血を流してる良平。
「ネネロン……おいで」
ゆっくりと背中を撫でて落ち着かせる。そっと抱っこして、その場を離れた。
「なんでこうなる?」
良平はぼやきながら顔に絆創膏を貼った。私にだって分からない。
「良平がネネロン置いて居なくなっちゃうからいけないんじゃない?」
「……」
「実家帰るなんて嘘ついて、私とネネロンを置き去りにして……そんなに私のこと嫌だった?」
「違うよ!それは違う!」
ネネロンをぎゅっと抱きしめる。お願い。私とネネロンに会いに来たって言って。私のこと迎えに来たって言ってよ。
「……無事が確認できてよかったよ」
「心配かけてごめんなさい」
「祥太には俺から連絡しておく。明日は会社に行けそうか?」
「分かんない」
まさかとは思うけど、このまま行っちゃったりしないよね?良平、戻ってきてくれたんだよね?
「休むならそれでもいいと思うけど、ちゃんと連絡しろよ。社会人なんだから」
「はい」
良平は雨の中走ってきてくれたんだと思う。よく見ると、全身ずぶ濡れだった。
「寒くないの?」
温まって行けばいいのに。良平の家なんだし。
「大丈夫」
拒絶しないで。
「じゃ」
行かないで。
このままだとメッセージ送れない、電話もできなくなる、良平と繋がっていられる自信がない。
静かに泣き崩れる私に振り向くことなく、良平は行ってしまった。
「ネネロン……私、また失敗しちゃったよぉ……」
泣き腫らした目で美容院に来た。
初めて来る店だ。そもそもこういう顔だと思ってくれると助かる。
「今日はどうされますか?」
「バッサリと、ショートに」
「え。いいんですか?」
「はい。えっと、あの人くらいに」
スタッフさんを指さす。
「あの人、男性なんですが……」
「大丈夫です。あんな感じでお願いします」
私は美容院が嫌いで、滅多に髪を切りに来ない。ずるずると伸ばし続けて、耳から下に30センチ以上ある。
「一旦、この辺で様子見ますか?」
肩の位置に手の平を掲げる店員さんに首を横に振った。
「大丈夫です。切っちゃってください」
スッパリと忘れよう。これまでの私のことを。良平のことも。心を入れ替えて、別人になって頑張るんだ。良平が居なくても平気だ。祥太とだって割り切って一緒に働ける。そうだ、ネネロンと新しいお家に引っ越そう。ショートの私に生まれ変わって、今度こそ、ちゃんとしよう。




