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Dark in love  作者: あおあん


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第40話 2月7日 土曜日

 すごく寒い。ベッドから抜け出さずにエアコンのスイッチを入れた。


「どうしようかなぁ」


 良平の家に行くって言ったけど……良平といるのは居心地がよくてリラックスできるはずだったのに、どういうわけか昨日は違った。私の期待が悪気のない良平に裏切られた事が、何気にショックで、正直、今は会いたい気分じゃない。


『無理しなくていいから』って体よく断わられた気もする。お互い付き合ってる人は居なくなったんだし、もう二人で会うことに躊躇う必要なんてないのに。


「あ、雪だ」


 ぽってりとした大きな雪の塊が降ってきた。ベッドから手を伸ばして、窓越しに外を撮ってみる。あ、良平からだ。メッセージが来てた。


『期日前投票行かない?』


『いいよ』そう返事を送った。


『じゃ、準備できたら連絡頂戴』


 ベッドから跳ね起きて、さっとシャワーを浴びた。とにかく温かい格好で……と思ってたら、もこもこになってしまった。変かな……風邪ひくよりマシか。


 出掛けられるようになったと良平に送ったら、即、『下で待ってる』と返ってきた。


「よ」

「おはよ。雪、結構降ってるね」

「ああ。明日行けるか分かんないから、今のうち行っといた方がいいかと思って」

「真面目だね」

「選挙だぞ?行くだろ」

「私、誘われなかったら行かなかったかも」

「はは。まじかよ」


 傘さしてるし、手袋した手をポッケに入れてる。手なんて繋げないか。そもそもそんな関係じゃないんだ……良平に触りたいな、触って欲しいななんて、不埒なことばかり考えてるのは私だけだろうな。


「明日、福岡行くことにしたんだわ」

「え?雪だよ?」

「飛行機飛ばないかな?」

「急じゃない?急がないって言ってなかった?」

「箱詰め終わったし、こっちに居てもすることないし」


 私がいるじゃん。私とお部屋でDVDでも見て過ごせばよくない?なんで?そんな急いで行くことなくない?


 言いたいことはいっぱいあるけど、彼女じゃない自分の立ち位置が分からなくて言っていいか分からない。言って引かれたら最悪だもん。


「すぐに使う物は持ってくし、荷物の発送しに、一旦すぐ戻ってくると思うけど」

「そう」

「ベッドとか大物は春になったら引っ越し屋手配するから」

「分かった」

「百花の荷物入れるのに邪魔なら言って。スケジュール調整するから」

「ありがとう」


 良平が私と距離を置こうとしてる。離れようとしているのが分かって辛かった。


「結構、人いるな」

「ね。皆、まじめ」


 期日前投票所は人がいっぱいいたけど、流れるように進んで数分で投票を終えた。


「百花、政治とか興味ある?」

「手取りが増えるとか、自分に関係があることならちょっとはね」

「俺も」


 会話に困ってる。私と良平が?そんなこと一度もなかったのに。


 無言のまま、雪道を歩く。


「じゃ、ここで」


 こんな気まずいままバイバイなんてしたくないんだけど。


「付き合ってくれてありがとうな」

「ううん。誘ってくれて良かった」

「これ」


 そう言って良平が手袋を外した手を差し出した。


 私が手袋のまま手を差し出すと、剝き出しの鍵が、私の手の平に置かれた。


「明日の昼以降なら、いつでも使って」

「うん」

「予定早くなって悪いけど、ネネロンのこと、よろしく頼むな」

「うん」

「落ち着いたら連絡するよ」

「分かった」

「じゃな」

「じゃね」


 そんだけ?こんなサヨナラある?冷たくない?

 良平が居なくなるのを寂しいと思ってたのは私だけ?

 良平は私もネネロンも、こんな簡単に置いて行っちゃうの?


 なんかムカついてきてしまった。怒りながらお風呂を溜める。あっつい風呂で汗を流そう。もう良平のことなんて知らないんだから……祥太と別れたのだって、良平と一緒に居たかったからなのに……こんなんだったら……こんなんだったら……


「うっ。うぅぅ」


 泣けてくる。5年も付き合った祥太を傷つけてまで別れたのに……良平が私のことベッドに誘ったのに……私のこと好きだって信じてたのに……結局、好きだったのは私の方だけで、良平に振り向いてもらえなくて……一人ぼっちになっちゃったよ……馬鹿みたい。私、何してんだろう。


 湯船で汗と涙をいっぱい流した。


 後悔と反省と絶望。


「はあ……」


 いっぱい泣いたから疲れた。


 水分補給になってないのは知ってる。でも、ビールで乾いた体を潤した。


「私も新生活を始めよう。心機一転、ネネロンと暮らせるマンション探さなくっちゃ」


 タブレットで不動産情報を検索しつつ、お蕎麦を茹でる。


 物件はどれを見てもピンと来なくて、具のないお蕎麦は味気なくて、虚しい気分だった。


 雪がどんどん降ってきて、ベランダから見る景色が白黒写真のようだ。


 何も考えたくないし、何も感じたくない。


 心を閉ざして布団にもぐる。


 寝るしかない。




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