表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark in love  作者: あおあん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/45

第38話 2月2日 月曜日

 オフィスでは、昨日のル・ニでの事は無かったかのように祥太が振舞っている。


「今日から正式に引き継ぎ始まるから。よろしく」

「頑張ってね」


 始業時間より早く出社して、私の前のデスクでパソコンを広げる。相変わらず真面目だ。


「おはよう。直接こっちに来てくれたんだな。急な話でごめんな」

「ああ。良平が早く有休消化に入れるよう協力するよ」


 良平もやって来て、隣の席に着いた。


「百花、昨日はありがとうな。母が礼を言っといてって」

「なにも。駅まで見送っただけじゃん」


 デスクでパンとコーヒーで朝食を済ませるのが、最近の日課になっている。


「お前ら、ほんとに付き合ってんだな」

「えっ」

「いや」


 いけない。祥太がいるのを忘れて、いつも通りだった。


「付き合ってないよ」


 すぐさま否定した良平にグサッときた。


「付き合ってないよ」


 傷ついている場合じゃない。私も慌てて乗っかる。


「もういいよ。良平、それ食ったら会議室来て。引き継ぎ始めるぞ」

「おう」


 祥太の後姿を見ながら、思わず溜め息が出た。


「あいつとこの先、大丈夫?」

「なんとかなるでしょ。気まずいけど大丈夫。良平が心配することないよ」


 いろいろ思うことはあるけど、良平には余計な心配かけさせたくない。せっかく退職を決めて、次の人生を歩み始めようとしてるんだもんね。足を引っ張るようなことはしたくない。




 夕方、思いがけない人からのお誘いを受けた。


「すみれさん、お待たせしてすみません」

「いーの、いーの。突然連絡してごめんね」


 祥太のマラソン仲間、佐々木さんの彼女であるすみれさん。大会の打ち上げで連絡先を交換して以来、初めての連絡だった。


「いえ。大丈夫ですけど。どうかしたんですか?」

「ちょっと愚痴りたくて。お酒飲みながら話聞いてくれる人、百花さんしか思い浮かばなくて」

「そういう事なら大歓迎です!」


 楽しくなってきた。個人店っぽいワインレストランに入った。


「佐々木さんと喧嘩でもしたんですか?」


 赤ワインで乾杯して、チーズと生ハムを摘まむ。


「うん。それがさ、あいつ浮気してるかもしれないの」

「へ?」

「証拠はまだ掴めてないんだけど、今、調査中」

「調査中って……」

「これも聞き取り調査の一環みたいな感じ。祥太君から何か聞いたことない?」

「ないけど……例えばどんな?」


 心臓が大きく脈打って、ワインが上手く飲み込めない。


「マサ君の帰りが遅い理由とか、休日にマラソン以外で出掛けてる事とか?」

「佐々木さんにも付き合いがあるんじゃないかな?」

「えー。ないない。私のこと放っぽって自分だけ好き放題とかあり得ない」


 アフターファイブや週末の過ごし方をこんなに縛られたら苦しいだろうな。佐々木さんに同情してしまう。


「浮気疑惑はどこから?」

「うーん。なんとなく分かるよね。変だなって。メールくらいなら指輪買わせて一カ月外食禁止で手を打とうかと思ってるんだけど、ご飯とか行ってたら完全アウトじゃん?即、入籍させるつもり。んでもって、最低一年は一人で外出禁止」

「えっ」

「甘いかな?」


 厳しい。というか、佐々木さんの人権は?と思わず言いそうになった。


「まあ、さすがにヤってはいないと思うんだけど、そんな大胆なこと出来るタイプじゃないし。でもさ、彼女がいるのに他の女と会ってる時点で有罪だよね」


 結婚をしてなくても、恋人の浮気はこんなにも断罪されるべきことなのか。そもそもメールは浮気じゃない。少なくとも私の定義では……


「佐々木さんとはちゃんと話したの?」

「話したよ。何度も。でも正直に言うわけないじゃん。『誤解だよ』の一点張りで、話になんない」

「え、じゃ、冤罪の可能性もあるって事?」

「そんなの、疑われるような事した時点でアウトだって。あれ?百花さん、彼氏の浮気に寛容なタイプだったりする?」

「いや。別に」


 私の貞操観念が、世間一般のそれとはたいぶズレていることを今さらながら自覚する。

 結婚は契約書を取り交わして、役所に提出するわけだから、それなりに不自由は生じると思う。だけど『付き合ってる』なんてただの口約束って言うか、なんの制限もなくない?ただの恋人なんて雰囲気って言うか、もっと緩くていいんじゃないの?


 まさか、すみれさんにこんな事言えるはずもなく、ひたすらに頷くばかりで、佐々木さんには申し訳ないけど、全面的に私はすみれさんの味方のようなリアクションしか取れなかった。


 言おうか迷ったけど、このままっていうのも変な気がして、祥太とは別れたことを遅ればせながら報告した。


「ええっ!そうだったの?知らなかった」

「つい最近だから」

「浮気とか?」


 祥太じゃなくて私のね……なんて、絶対に言えない。


「なんて言うか、ね、ほら、いろいろ」

「そうだよね。別れる理由なんて一つじゃないよね」

「うん……」

「それにしても、祥太君は大丈夫そうって思ってたのに。真面目そうだし、いい人そうって言うの?百花さんのこと大事にしてるように見えたんだけど」


 なんか、自然と祥太が悪い感じになっちゃってる。訂正しないと。


「私の問題なの。祥太はちっとも悪くなくて」


 すみれさんに比べれば、祥太の束縛なんて『お願い程度』でしかない。冷静に考えると、浮気性の私のただの我儘にしか思えない。ちゃらんぽらんな自分がつくづく嫌になってくる。


「付き合うのも別れるのも、どっちか一方の都合じゃ成立しないでしょ。問題は双方に等しくあるはずだ!」


 酔っぱらったすみれさんの言葉が耳に痛い。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ