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急変と幕開け

コウは帰宅すると、今日の授業の予習と復習をさっさと済ませた。


その後、AOにログインして担当のサーバーを巡回する。

そして遅めの夕食を摂って、お風呂に入った頃には夜の10時を回っていた。


今夜も手隙だったようで妹の結は、たわいも無い世間話をしながらコウの髪の毛の手入れをしてくれた。



結が思い出したように、

「そう言えば、スマホ何回かブルブルしてたよ」


結がコウのスマホの状態を知っていると言う事は、リビングに置きっ放しにしていたヒカリのスマホだ。



仕事関係の可能性もあるので、直ぐに確認しに居間へ向かうコウ。


着信を確認すると、水春から3回程電話が掛かって来ていた。

「水春さんからだ、、」


結がニヤリとして、

「急ぎの仕事とか?」

「どっちにしろコキ使われるんじゃない?」


嫌そうな顔でコウは結を見やる。

「そんな滅入る事言うなよ〜」

コウの反応に嬉しそうに笑う結。

「うはは」



コウはスイッチを入れ替えてヒカリになる。

そして居間の中を歩きながら水春に電話をかけた。



水春は3コールもせずに直ぐに電話に出た。

「水春さん? どうしたんですか?」


少し焦っているような水春の声色だった。

「黒瀬さん、、君の力を借りたい、、」

訝しむヒカリは問い返す。

「私の、、力ですか?」



静かな声で水春は呟くように言った。

「私の娘が誘拐されてしまった、、、」

予想外の内容に呆然となるヒカリ。

「えっ?」


傍にいた結が心配そうにヒカリを見つめる。



淡々と語る水春。

「娘の名前は水樹弥生、、17歳の高校生だ、、」

「相手の要求は、、、」



呆然として呟くヒカリ。

「弥生さんが、、、誘拐された、、?!」

ヒカリの言葉に固まる結。

「!?」



ヒカリの様子がおかしい事に気付いた水春は、

「黒瀬さん?」と数回呼び掛ける。


結がヒカリの肩を揺らす。

それで我に帰ったヒカリは、

「すみません、、」

「少しびっくりしてしまって、、」



深呼吸をするとヒカリは水春に問いかける。

「水春さん、、」

「あなたの本当の名前をフルネームで言って貰えませんか?」



水春は少し間を置くと抑揚の無い声で言った。

「水樹千春だ、、」



ヒカリは険しい表情で瞳を閉じる。

『何て偶然なんだろう、、』

そして意を決したように、

「そうですか、、」

「で、相手の要求は?」



溜息をついた後、水樹は済まなさそうな声で、

「君を、、黒瀬さんをゲームに招待したいそうだ」

不思議に思ったヒカリは、再び問いかける。

「え? 私を?!」



水春の頷く声がし、淡々と続ける。

「娘を解放する第一条件は、、」

「君をある指定の場所まで誘導して、そのゲームの舞台に上げる事だ」


理解に苦しむ要求内容にヒカリは唖然とする。


下手に動いては状況を悪化させるのでは、、そう思ったヒカリは、

「警察には、、、」


間髪入れずに水春が答えた。

「いや駄目だ」

「警察の力は借りられない」


「事が大きくなれば、娘の命は保証されないだろう」

「だから警察には知らせないでくれ、、」

それは悲痛な声だ。



ヒカリは頷く事しか出来なかった。

「分かりました、、」

そして率直な疑問をぶつける。

「では、私が指名された理由は?」



思案するような間の後、水春は語る。

「分からない、、」

「だが推測は出来る」


「恐らく、、黒瀬さんの身柄が本命で、娘の誘拐は罠だろう」



ヒカリは水春の推測に怒りを露わにする。

「なら私を直接誘拐すればいい事!」

「何故、弥生さんを、、、」



「あくまで私の推測だが、、」

「黒瀬さんを屈服させたいとしたなら、どうだろうか?」

抑揚の無い問いかけるような水春。



訝しげにヒカリは呟く。

「私を屈服?」


まるで諭すように言葉を続ける水春。

「直接君を誘拐したところで、それは叶わないと考えたのだろう」


「だが人質をとって、それを枷に君に取引を迫ったなら、話は変わるのではないか?」

「そしてそれは、私も同じ状況にある訳だが、、」



困惑するヒカリ。

「私はどうすれば、、、」



水春の抑揚の無かった声が、覚悟したように少し力強くなる。

「私には選択肢が無いのだ」

「だから全て黒瀬さんに任せるしかない、、、」

「君が思うように、、、君が最善と思える判断と行動をとってくれればいい」



ヒカリに今まで感じた事の無い重圧が、責任がのし掛かる。

己の行動の是非で、大切な人が害されるかもしれないのだから。



ヒカリを気遣うような水春の声がした。

「黒瀬さん」


考え込んでいたヒカリは我に返る。

「はい、?」



水春は再び抑揚の無い声色に戻ると、

「君には私の要請を受ける義務は無い」

「断ってくれても、私は何も言わないよ」


ヒカリは溜息をつく。


怒った声でヒカリは、

「水春さん、、そんな水臭い事言わないで下さい」

「それに、、」


「相手の狙いが私であるなら、弥生さんを巻き込んだのは私です」

「だから私が出張るべきなんですよ」



「そうか、、、」と水春の呟く声がした。


そしてまるで仕事の依頼をするような雰囲気で水春は、

「黒瀬さんのスマホに指定場所の位置情報を送る」

「準備出来次第、直ぐに向かってもらえるかい?」



ヒカリは力強く頷く。

「勿論です!」



すると水春が不思議そうに呟いた。

「私の娘とは知り合いなのかね?」


急な話の展開に戸惑い、答えに窮したヒカリは問い返す。

「、、、、、」

「どうしてそう思うんですか?」



電話口で水春が笑ったような気がした。

「普通、知人の娘を、」

「しかも顔も見た事がない人間を下の名前で呼んだりしないだろう?」



全くその通りだった。


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