剣聖の四天王とunknown(3)
unknownに向かって静かに歩み出るハユハ。
ロアは気付いていた。
ハユハの様子がいつもと違う事を。
日頃はいつも笑顔で人の良さそうな雰囲気を出している。
そのハユハが、全く揺らぐ事のない水面のように静かで表情がない。
何か様子がおかしいとunknownも気付いたようで、警戒したように少し後退した。
突如、ハユハから矢のような物が放たれた。
速い。
しかも全く挙動がunknownには見えなかった。
辛うじてunknownはハユハから放たれた"それ"を刀で防御した。
AOの投射物は、放たれて標的に接触した瞬間に姿を消失する。
消失する直前にunknownは"それ"を目で捉える事が出来た。
"それ"は、クロスボウボルトだった。
弓矢より攻撃時の挙動スピードが速いクロスボウ。
それでも異常に射速が速すぎる。
unknownからは、ハユハの遠隔攻撃に挙動が無いように見えた。
強力な伝説級武器の特殊性能という線もあるが、弓矢でも挙動が無かった為、それは無いとunknownは考察する。
ならばナインピラーのユニークスキルないしパッシブの可能性がある。
不味いとunknownは内心でぼやく。
冬月に成りすましていた時のように、魔法をエンチャントした矢弾を連射されたら非常に面倒だからだ。
故にunknownが選んだ選択肢は、狩人が不得意な近接戦を間断なく仕掛ける事だ。
近接での弓やクロスボウボルトは使用出来ない訳ではないが、非常に使い回しが難しい。
つまり近ければ少し動かれただけで、視野角を大きく移動されてしまい"狙って当てに行く範囲"から外れてしまうからだ。
それならばナイフなどを振り回した方が当たり易いと言うものである。
unknownは、猛然とハユハに襲いかかる。
ハユハは特に近接戦を嫌がる風も無く、unknownを間合いに入れてしまう。
鋭い縦切りがハユハに迫るが、いとも容易く横に躱す。
初段が回避されるなど想定済みのunknownは、後方に下がるかガードするかしかない払い切りを次段に仕込む。
ハユハが後方に下がる挙動を見せれば、烈風を即座に放って大ダメージを稼ぐ段取りだ。
しかしunknownの想定と段取りは覆された。
ハユハは短剣を抜き放ち、unknownの次段の間隙に割り込んで来たのだ。
素早く鋭いハユハの短剣は、unknownにガードを強いる。
回避はおろか、振りの遅い刀では短剣の攻撃を相殺する事は不可能に近い。
堪らず後方へ退避するunknown。
この状況をハユハに強いるつもりが、逆の立場になりunknownは内心で自嘲する。
そして気付く、、自分が狙った事なら相手も狙える事を。
ハユハのクロスボウの先端が、一瞬だがunknownに向いたように見えた。
「Lv99 ブラストカノン 」
ハユハが放ったクロスボウのウェポンスキルが発動したのだ。
後方へ退避中のunknownの左腕に、超高速の矢弾が直撃し、その瞬間にそれは爆発を起こし燃え上がる。
unknownは直撃の余波で、自身の右方向へ大きくノックバックした。
舌打ちをしつつも冷静にダメージ状況を把握しようとするunknown。
だがunknownは愕然とするしかなかった。
ブラストカノンの爆発ダメージにより部位破壊を起こし、左腕を失ってしまったのだった。
これでは戦力が激減してしまう。
両手持ちによる大攻撃、さらに両手で放つウェポンスキルの烈風などが使用不可になってしまうからだ。
unknownは思考をフル稼働させた。
ハユハとの距離は十分にある。
ロアの射線を遮るように、神殿のオブジェクトである巨大な柱も利用した。
まだ立て直せる、今の内に回復アイテムを、。
しかし、不気味にハユハが笑ったように見えた。
「キヨミンのメテオストライクが発動 」
unknownが気付いた時には既に遅かった。
unknownの背後にあった巨柱に法王が潜んでいたのだ。
そして背後からのメテオストライクを諸に喰らい、行動不能な程にunknownの身体が崩壊する。
メテオストライクの爆発エフェクトが辺りを覆う。
その爆発エフェクトの合間から、不敵に嘲笑うかのような法王が見えた。
「これは一本取られたな」
「まさか4人めが不意打ちとは、、」
戦闘と行動が不能になったunknownが跪き呟いた。
ようやく大人しくなったunknownにロアが近づく。
「観念しなさい」
「何故PKを繰り返すのか、」
「何故それ程強力なツールとキャラを持ち合わせているのか、」
「洗いざらい吐いてもらうわよ」
「何故?」と呟きunknownは笑う。
狂気を含んだ笑いに変わり、
「決まっているだろう」
「この世界を、、AOを壊す為だ!」
呆気にとられるロア。
「壊すって、、、」
ハユハがunknownを睨みつけた。
「一個人でそんな事が出来る訳がない」
unknownの身体が少しずつ崩壊して散り始める。
「本当にそう思うか?」
睨み付けるハユハの視線を、真っ直ぐに受け止めるunknown。
「お前達が愛してやまないこの腐った世界が、」
「この先も本当に続くと思っているのか?」
そしてunknownは、倒れ伏した拳王を一瞥する。
「この世界で最強のお前達が、」
「絶対の自信を持って私と戦い、出た結果がそこに倒れた拳王だ」
「この世界にもリアルにも絶対など存在しない」
「それがいい証拠だろう?」
キヨミンがunknownに詰め寄る。
「黙れ、ならその芽であるお前を潰すだけだ!」
unknownは不気味に微笑んだ。
「なんの対策もせずに乗り込んだと?」
キヨミンが訝しむ。
「何だと、、」
ロアが険しい表情で呟いた。
「そのキャラクターデータもアカウントも、、」
「使い捨てと言う訳ね」
頷くunknown。
「戦闘不能になれば、データが自壊するように仕込んである」
「残念だったな」
unknownの姿が散り行き、人の形を維持できなくなっていた。
ロアは焦り、慌てる。
「待って!」
「あなたは、このAOに恨みでもあるの?」
unknownはロアを嘲笑う。
「そんな事を聞いてどうする?」
「お前が手助けでもしてくれると言うのか?」
何も答える事は出来なかった。
ロア達とunknownは、絶対的な立場の違いがある。
故に会話による交渉や解決など端から有る訳がないのだ。
そして塵のように消え去ったunknownの声だけがフロアーに響き渡る。
「次に会った時、、」
「お前達の後悔した顔を見るのが楽しみだ」
眉間に皺を寄せて、不機嫌さを隠さずキヨミンは、
「ちっ!」
「不気味な捨て台詞残しやがって」
静かに考え込むロア。
溜息をつくハユハ。
「あのぅ、、」
「取り込み中、申し訳ないんですが、、」
と野太い声が背後から聞こえた。
倒れ伏したままのヒゲモジャが泣き顔で訴える。
「蘇生してもらえませんか、、、?」
すまんすまんと慌てながら駆け寄るキヨミン。
「忘れてた!」
今までのシリアスな雰囲気が全て吹っ飛んだ。




