事実上最強と理論上最強(2)
最強魔法を2つも完成させつつある雨音が微笑む。
「イベントを進行させながら私の方をモニタリングしていたようだね」
「だが、分かっていたとしても、、」
雨音は剣を振りかぶりシウスに突進する。
「対応できるかな?」
鋭い雨音の斬撃がシウスを襲う。
シウスは刃を交える事なくギリギリで回避して、さらに後方に距離をとった。
そして何故か素早く納刀する。
雨音はシウスを追撃せずに踏み留まると、
「打つ手無しかい?」
すでに雨音の両側に浮かぶ2つの魔法は巨大化し、完成状態にあった。
「私の魔法は完成してしまったよ」
雨音が静かに片手を掲げる。
シウスはそれに呼応するように刀の柄を握った。
禍々しく闇色に燃え盛る大火球がシウスに襲いかかった。
「 Lv99 闇火葬 」
観戦していたプレイヤー達は、誰もが剣聖の地に伏せる姿が脳裏に浮かんだ。
自分達100人を一瞬で葬った極大魔法を耐える事も、回避する事も出来る訳が無いからだ。
しかし結果は観衆の予想を覆す。
これが最強の剣聖と言わんばかりに。
シウスは納刀状態から至近に迫った闇火葬を目前にして、
「Lv99、、、」
シウスの納刀状態から放たれる居合斬りが発動する。
「零の太刀 羅生門 」
下から上へ斬り上げるように放たれた羅生門が、シウスに直撃するはずだった闇火葬を切り裂いた。
2つに切り裂かれた闇火葬は、シウスを避けてその後方に着弾する。
触れれば消し炭になりそうな破壊力がある闇火葬。
それをシウスは予想外の方法で危機回避し、観戦していたプレイヤー達は驚愕して呆気に取られてしまう。
同じく驚愕はしたが、既に先を見越して雨音は行動を起こしていた。
「Lv99 、、、」
雨音は地を這う斬撃を放った。
「フォーススラッシュ」
その地を這う魔法の衝撃波がシウスに迫った。
シウスは動かない。
いや動けなかったのだ。
羅生門のスキル硬直中に、雨音がフォーススラッシュを放ったからだ。
フォーススラッシュがシウスに直撃する。
そして鈍い衝撃音と共にシウスの体力ゲージが3分の1程減少した。
雨音はソードオブクロノスを掲げた。
「発動せよ クロノス!」
「 時間制御 」
雨音を中心に黒く禍々しい闇が広がっていく。
それは一瞬にしてシウスをも飲み込み、辺り一帯が黒い空間に変わってしまう。
自身と相手と地面以外全てが真っ黒で、まるで距離感が無くなってしまったようだ。
この空間ではクロノスの剣でダメージを受けた者に、限りなく時間が止まった状態異常に陥れてしまう。
雨音がシウスに片手を振るう。
「終わりだ」
完成したもう1つの極大魔法が、巨大な紫電の塊となってシウスに襲いかかった。
「Lv99 ライトニングエクスプロージョン 」
シウスの目前に死の雷球が迫る。
その時、戦闘ログが流れた。
[シウスの 絶掌・改が発動、、]
動くはずのないシウスの左手が、"絶掌・改"が、雨音のライトニングエクスプロージョンを受け止めたのだ。
そして再び戦闘ログが流れた。
[シウスの 絶掌・改、撃攘の追加効果が発動、、]
シウスは受け止めたライトニングエクスプロージョンを雨音に向けた。
雨音は再び驚愕し目を見開く。
だが即座に冷静に対処する。
「 多重魔法詠唱 発動 」
「Lv99 魔法障壁×3」
シウスが受け止めていたライトニングエクスプロージョンを撃ち放った。
雷の轟音が響き渡り大爆発を起こす。
辺りは紫電の稲光が爆発点を中心に、水面に広がる波紋のように広範囲を走り抜けた。
雨音にライトニングエクスプロージョンが直撃したのだ。
しかし雨音は健在だった。
即座に展開した魔法障壁がライトニングエクスプロージョンを受け止めていたのだ。
軋むような音が響き、一枚目と二枚目の魔法障壁が一瞬で砕け散る。
そして最後の一枚に巨大な紫電の塊が接触した時、ガラスが割れるような音がして耳を劈いた。
視界の全てを覆うような爆煙と雷の衝撃波が辺りを埋め尽くした。
その瞬間、時間制御による闇色の空間が霧散するように散り始める。
シウスは自身の身体が、通常通り動く事を確認して呟いた。
『やはりか、、、』
視界を埋め尽くしていた爆煙と紫電の残滓が薄れ始める。
そしてライトニングエクスプロージョンが直撃した爆発点が姿を現わす。
何とそこには直径50m近くに及ぶ巨大なクレーターが形成されていた。
普通は有り得ないAO内オブジェクトの破壊。
例外は幾つかあるが、地形がここまで変化する程のダメージが叩き出された事が異常と言えるだろう。
さらに驚愕する現実がそこにあった。
天位雨音が、五体満足でクレーターの中心に佇んでいたのだ。
シウスは内心でお手上げとばかりに、ついついボヤいてしまった。
『おいおい、、、』
『天位雨音は、化け物なのか、、?』
シウスはクレーターの淵から雨音を見つめる。
「あれだけの極大魔法が直撃して即死しないとは、、」
「さすがだね、、、」
雨音は苦笑しながら自身の頭の上を指し示す。
「いやいや、さすがに無傷ではなかったです」
「死ぬかと思いましたよ」
キャラクターの頭上には、他のプレイヤーから見た場合の体力ゲージが表示されている。
その雨音の体力ゲージは、半分をきっていた。
そしてクレーター内をシウスに向かって歩き始める雨音。
「上手く乗せたつもりだったんですがね、、」
「逆に乗せられたのかな?」
シウスはニヤリとすると、
「新しいスキルの発現や公開があれば、」
「分析や検証したくなるのが我々の性と言うものだろ?」
雨音は首を傾げる。
「時間制御の事かい?」
シウスも雨音に向かって歩き出す。
「そう、、あれだけ強力な固有スキルだ」
「解除方法、デメリットは必ずあると思ってね」
そして納刀すると、
「予想通り、時間制御発動中にダメージを受ければ解除された訳だ」
雨音も剣を鞘に納めた。
「他に何か分かったかい?」
シウスと雨音の距離が至近に到達する。
「ああ、、欠点だ」
「時間制御は、プレイヤーキャラクターの動きを限りなく遅く出来るが、」
「スキル自体の発動や効果を遅める事は出来ない」
雨音はにっこり笑う。
「お見事!」
「さすが剣聖シウスですね」
シウスはとぼけた様子で、
「いやいや、、」
「私も絶掌・改を使わざるをえなかった」
苦笑を堪えるような顔をする雨音。
「このままでは、お互いスキルの剥き合い晒し合いになりますね」
同じく苦笑するシウス。
「だね」
雨音は片手をシウスに差し出す。
「では意見も一致した事ですし、」
「この辺りで痛み分けのお開きにしましょうか」
差し出された手を取り握手するシウス。
「そうだね、なかなか楽しかったよ」
イベントフロアーの巨大ディスプレイに、剣聖と天位の握手した様子が映し出された。
そしてイベントフロアーは湧き上がる。
最強の2人が繰り広げたパフォーマンスを称えて。




