冬月と罠(1)
モニターの前で一人荒ぶるロアに、誰かがダイレクトチャットで呼びかけた。
ダイレクトチャットは、フレンドの間柄で相手を指定し、音声でやり取りが出来る通信手段だ。
現実で言うところの電話に近いだろう。
そしてロアに呼びかけた声の主は、拳王ヒゲモジャだった。
ロアは訝しげに声の主に聞き返す。
「どうしたの? モジャさん」
ヒゲモジャの事を"モジャ"と呼ぶロア。
長くて呼びにくいからだとか。
しかしもっと酷いのがハユハだ。
ロアに"ハユさん"と呼ばれてしまっている。
ヒゲモジャから慌てた声で返事が返ってきた。
「どうやら当たりだったみたいです」
「最後に1人残りましたよ、、、」
ヒゲモジャが担当したブロックは神殿フィールドで、いわば屋内戦となる。
フロアーが幾つもあり、その1つ1つが球場程の大きさだ。
そのヒゲモジャが居るフロアーの中央に、無傷で不気味に立つ一人の影。
それは魔法剣士 冬月であった。
「よし!」と言って立ち上がるロア。
イベントフロアーと各戦闘フィールドにロアのアナウンスが響き渡る。
「イベント参加者全員の全滅が確認されました」
「よってイベントの締めくくりとして、エキシビションを行います」
弓を下ろして一息つくハユハ。
キヨミンは、倒れたプレイヤー達の上に腰を下ろして休憩中だ。
イベントフロアーにある巨大ディスプレイに、天位と剣聖の様子が映し出される。
そしてロアは高らかに宣言する。
「剣聖VS天位のスペシャルマッチをお見せしましょう!!」
全滅したプレイヤー達が次々とイベントフロアーに戻される。
そしてロアの宣言を聞いたとたん、一斉に湧き上がった。
「おお! マジかよ!」
「これは楽しみだ! 参加してよかったぁ」
参加者は皆全滅だが、何だか楽しそうでホクホク顔だ。
ロアのアナウンスが続く。
「イベントフロアーの特設ディスプレイで、2人の戦いをリアルタイムで配信します!」
「皆さん、最後までお楽しみ下さいませ!!」
シウスの方が、雨音が担当していた草原フィールドに転送される。
すでに待機していた雨音がシウスを見て微笑む。
「さて予定通りですが、、」
「どうせなら、お互い本気でやってみますか?」
シウスも微笑むが、その目は雨音を鋭く射抜くように見つめていた。
「面白い、、、」
神殿フィールドのとあるフロアーで、甲高い金属音が響き渡った。
突然襲いかかって来た冬月の剣による攻撃を、ヒゲモジャがその拳で相殺したのだ。
再び鋭い斬撃がヒゲモジャを襲うが、難なくそれを拳で受け流す。
単純な近接戦闘なら、ナインピラー最強と謳われる拳王ヒゲモジャだ。
いくら鋭くても、只の通常攻撃が何度も拳王に通用する訳がない。
故に冬月は攻撃を受け流され、体勢を崩してしまった。
体勢を崩し無防備になった冬月に、拳王が迫る。
「Lv95、、、」
冬月の側面に、ゼロ距離からのウェポンスキルが放たれる。
「 虎 砲 !」
拳王の高速で放たれた縦拳が、紫電のエフェクトを纏って冬月に直撃したかに見えた。
だが次の瞬間、ドヤ顔だった拳王の表情が驚愕に変わる。
何とほぼ確定反撃かと思われた拳王の虎砲を、冬月はギリギリの間で回避したのだ。
『今のを防御せずに回避するかぁ!!』
と呆気にとられる拳王ヒゲモジャ。
拳王が呆気にとられたその刹那、冬月は回避と同時に拳王の側面に回り込む。
そして冬月は片手を掲げると、
「Lv94 火球 」
やり返しとばかりに、ゼロ距離から放たれた炎の魔法が拳王に直撃し爆煙を巻き上げた。




