新生クランと天位(2)
ロアが主催したプライベートイベント、”みんなでボコろう剣聖とナインピラー”のせいでイベントフロアーは一時ごった返してしまった。
しかしネット民であり生粋のゲーマーであるイベント参加者達は、こういう時こそ何故か妙に協調性を発揮する。
だれか率先したのか、エントリー用の端末に綺麗に並びだしたのである。
何かを待つために列に並ぶ、、こういった行動は日本人特有だ。
だがAOはグローバルなネットゲームである。
故に日本人だけではなく、アジア、中東、北欧、さまざまな地域の人種がこのAOを楽しんでいる。
なのに皆、綺麗に喧嘩する事なくエントリーする為に並んでいるのだ。
これは全体的な比率で、日本人のシェアが一番多い事が影響したのかもしれない。
皆、日本人に倣って効率の良い行動をしているのだろう。
ロアはそれを知ってか知らいでか、イベントフロアーを特に誘導や整理を全くしなかった。
ではロア達は何をしていたのか。
ステージと檀上がある裏側に、特設の天幕が設けられていた。
そこにロア達は待機して、エントリーの状況をモニタリングしていたのだった。
エントリーの状況を直接見に行っていたヒゲモジャが天幕に戻って来た。
天幕の入り口を、まるで居酒屋の暖簾をめくって入るようにしてヒゲモジャは、
「そろそろ全員のエントリーが済みそうですね」
「特に混乱も無く、怪しいのもパッと見居ないような感じでした」
天幕内の中央には、大きな円卓がある。
そして円卓を囲むように椅子が10席ほど用意されていた。
その席の一つにロアが腰を掛けて、なにやらモニターと睨めっこしながらメニュー操作をしていた。
ロアの傍には、ハユハとキヨミンが立っている。
丁度ロアが掛けている席の向かいにシウスが腰を掛けていて、
「500人は中々多いが、全員当たれそうかい?」
ロアは嫌そうにシウスを見て、
「結構多いよ、、、」
「全部当たるのはちょっと無理あるかなぁ、、、」
苦笑するハユハ。
キヨミンがロアの後ろでニヤつきながら、
「だいたいの見当はついてるんやろ?」
キヨミンを見る事なく、忙しそうにメユーを操作しているロア。
「まぁねぇ、、今のところ数人で、」
「特に1人、それっぽいの居たし」
天幕に雨音が入ってきて、
「冬月氏の事かい?」
一同が一斉に雨音を見る。
ロアは感心するように、
「さすが雨音さん、、気付いてましたか」
ロアがメニューを操作する手を止めて真剣な表情になる。
「今回、ゲストの雨音さんにも話したけど、」
「このイベントはクランの結成発表は表向きで、」
「unknownをおびき出すのが目的だからね!」
ちょっと偉そうな顔でロアが一同を見やって、
「調子に乗り過ぎて楽しんで、目的忘れないように!」
一同は面倒臭そうに生返事。
「は~い」
雨音がそんな様子の一同を見て笑いを堪えつつ、
「で、私の役目は皆さんと同じく、」
「参加プレイヤーを振るいにかければいいのだね?」
キヨミンが顎に手を置いて考える仕草で、
「そうなるね」
「一人頭、100人ってとこか」
ハユハは頷いて雨音を見る。
「とりあえず、それらしいのが残るまで減らしましょう」
「確定したらエリアごと隔離ですかね?」
ロアは溜息をつく。
「エリアごと隔離って、、、あんたねぇ、、、」
ハユハは不思議そうにロアを見る。
「え?」
「無理なんですか?」
ロアはとうとう怒ってしまう。
「無理に決まってるでしょ!!」
よく分からない自信を見せてロアは、
「いくら私でも、そんなチート紛いの事はしない、、、いや、、」
「出来ないわよ!!」
ハユハが苦笑しつつ内心で呟く。
『それって、出来るけどしないって言っているような、、、』
キヨミンが横から2人の会話に割って入るように、
「でもあれあるじゃんか、、」
「範囲魔法の、フロアーから出られなくなるやつ」
「何だっけ?」
嫌そうにキヨミンを見つめるロア。
「アルティメットシールの事?」
「そうそれ!」と嬉しそうにキヨミンは頷く。
ロアは、「う~ん」と考えながら、
「あれはそもそも逃がしたくないエネミーが居るフロアーに使ったり、」
「あちこち移動する大型のエネミーや、ボスに使う物だから」
「プレイヤーに使う物では、、、」
ヒゲモジャも考え込む。
「確かにPvPは、どちらか倒されるまで戦いますしね」
「逃げる選択肢が無いと言うか、、、」
ヒゲモジャの言葉に頷くロア。
「それにPvPで使った事無いから、どうなるか分かんないし」
静かにそのやり取りを聞いていたシウスがニヤリとした。
「では、試しに使ってみたらいいさ」
「他に逃がさない為の手段は考えてなかったのだろ?」
仕方ないと言う顔でロアは呟く。
「そうね、、、」
「それにしても、」
ロアは少し大げさに悲しんだ表情で、
「Lv99になって手に入れたユニーク魔法の一つが、」
「このアルティメットシールって、、、、酷くない?!!」
キヨミンがキョトンとした表情でロアを見る。
「そう?」
「何か変わってて面白そうじゃん!!」
ロアは両手を振り上げて怒り出す。
今にもキヨミンに飛び掛かりそうだ。
「あんたは、ホーリーレイとか色々マジ物持ってるから、そんな事言えるのよ!!」
ヒゲモジャが苦笑しつつロアを慰める。
「まあまあ、、」
「ところで、その冬月氏ってどんな方なんですか?」
一同が雨音の方を見る。
え? 私? と言う感じで皆の視線に気付く雨音。
「ん? あぁ、、」
そして雨音は円卓にもたれる様にして語りだす。
「冬月氏はね、天位タイトル決勝戦の常連なんだよ」
「ナインピラーに最も近いプレイヤーと言われていてね」
「私が居なければ、彼が天位を獲ってナインピラーになっていただろうね」
ヒゲモジャとキヨミンが感心する。
「ほほう」
「へぇ、、凄い実力者なんやね」
ロアは腕を組んで一息つくと、
「でもね、前々回のタイトル戦から冬月氏は活動を停止しているの、、」
何かに気付いたハユハ。
「あ! なるほど!」
ヒゲモジャは良く分かっていないようで、「ファ?」と変な声をあげる。
シウスが冷静にハユハを代弁する。
「そう、、業者がよく使う手口だ」
「どういった方法かは定かではないが、、、」
「休止中のアカウントを乗っ取り成りすます」
少し疑問を持った表情のヒゲモジャ。
「それだと、unknownだったとして乗っ取ったキャラだと、」
「unknown自身のキャラスペックを活かせませんよね」
ロアがニヤリとする。
「さて、それはどうかな?」
「奴らのテクノロジーを過小評価しない方がいいよ」
ヒゲモジャは嫌そうな顔で、
「ええええ?!」
シウスが席から立ち上がる。
「何にしろ、すべき事は決まっている」
そしてシウスは天幕の出口に向かうと、
「unknownや、その背後にある者の動向が不気味ではあるが、、、」
天幕の入り口になっている布をめくり上げ、
「いざ出陣といこうか」
一同も意を決して頷く。




