心配事とお節介
ヒカリは自宅に着くと、直ぐお風呂に入る事にした。
今日は色々と忙しかった。
朝から学業、放課後は弥生のお見舞い、仕事でパーティー、最後にヒカリで弥生をお見舞い。
こう見ると、普通の高校生とは思えない忙しさだ。
そして疲れた体をリセットするには、お風呂と睡眠が一番。
ヒカリがお風呂で行うルーティンは、とても手順が多い。
まずシャンプーを済ませて、トリートメントを髪に馴染ませている間に体を洗う。
体の泡を流した後、トリートメントを綺麗に洗い流す。
さらに髪の毛をコーティングするマスクタイプのトリートメントを髪に馴染ませいる間、湯船に浸かってくつろぐのだ。
最後にマスクタイプのトリートメントを流し終えて終了である。
時間にして小一時間。
まるで女子の長風呂である。
そして今ヒカリは、最後の段階の湯船に浸かってくつろいでいるところであった。
スマホを片手に、湯船の淵に後頭部を置いてリラックスだ。
ヒカリがネットニュースや、攻略スレの更新などをチェックしていると、スマホにメッセージが入る。
それはロアからだった。
辻斬りの件で妙案を思いついたらしい。
さらにプライベートイベントをロアが主催するとの事だ。
どうやらプライベートイベントは、辻斬りの件と並行に実施出来るようで、ロア氏は何か企んでいるようである。
参加する他のメンバー達にも了承は得ているので、後はヒカリが参加するかどうかだとロアは告げる。
勿論ヒカリは快諾する。
イベントの方の詳細は後々説明してくれるらしいが、何だか楽しそうでヒカリも興味がそそられた。
ロアとのやり取りが済み、今日あった出来事を脳裏に思い浮かべる。
心配事が、ほんの少しの不安がヒカリの心を揺さぶる。
それは弥生の事だ。
弥生が風邪で体調を崩しているのも心配だが、それ以上に根本的な問題がある。
どうしたらいいのかヒカリが悩んでいると、突然風呂の扉が開け放たれる。
物凄くビックリして何故か胸元を隠すヒカリ。
そして風呂の扉の前には結が立っていた。
「あれ?」
「静かだし電気消し忘れかと思ったら、お兄ちゃんか」
ヒカリは、体を抱えるように湯船に体を沈ませ、
「いやん、、、」
結が突っ込むように、
「何がいやんだ!」
「男だろ! 胸隠すなよ、、」
結が何かに気付いたようで、片眉を上げて訝しげにヒカリを見る。
「む?!」
「お兄ちゃん、何か疲れてる?」
「て、言うか、何かあった?」
特に何も隠し事は無いのだが、ドキッとするヒカリ。
「え?」
まぁ、隠し事は無くても何かあったのは確かだ。
結は踵を返すと、
「とりあえず早くあがっておいでよ」
「話聞いてあげるから」
ヒカリは、湯船に浸かったままションボリとする。
「はい、、、」
『結は相変わらず鋭いな、、』
ドライヤーの温風が、限りなく白に近いヒカリの銀髪を優しく撫でる。
お風呂上がりのヒカリの髪の毛を、結が手入れしてくれているのだ。
結がヒマな時は、何故かヒカリのお風呂上がりを甲斐甲斐しく世話してくれる。
自分の大事な着せ替え人形のメンテナンスでもしているつもりなのだろう。
そうでなければブラコンだ。
ヒカリは今、洗面台の前で椅子に座らされているのだが、どうしてか用意されていた寝巻き用の、淡い水色のワンピースを着せられている。
しかもパット入りのブラまで着用義務だ。
やっぱり自分は着せ替え人形なのだなと、つくづく思う。
結がヒカリの髪を乾かしながらおもむろに、
「で、どうしたの?」
「ひょっとして、弥生さんの事?」
ヒカリは驚いて鏡ごしに結を見つめる。
「ほんとに鋭いね、、結は、、」
結は乾いたヒカリの髪にブラシを通す。
「何年、お兄ちゃんの妹やってると思ってんのよ」
「いいから話してみ〜」
少し俯いてヒカリは頷く。
「うん、、、」
ヒカリは、結に今日の出来事を話した。
弥生が風邪をひいた事。
放課後にお見舞いに行った事。
勿論イチャついた事は伏せる。
そしてパーティーの後、ヒカリとして再度弥生のお見舞いに行った事。
問題の心配事はここでの出来事だ。
なるほど、と結は呟きニッコリすると、
「お兄ちゃん"自身"がお見舞いに行った時、」
「どうせ弥生さんとイチャイチャラブラブしたんでしょ」
『バレてらぁ〜』
と内心でヒカリは呟き、真顔になってしまう。
結は、したり顔でヒカリを見やると、
「まぁそれは置いといて、」
「つまる所、弥生さんがヤンデレだったと言いたい訳ね?」
ヒカリは少し困った顔で突っ込む。
「何でそうなるの、、、」
「言い方は悪かったかもしれないけど、」
「ニュアンスは間違えてないでしょ」
と自信満々に言う結。
そう言われるとヒカリとしては返す言葉が無かった。
初めて見た弥生の闇の部分が、まさにそれを物語っていたからだ。
そして結は、笑顔でヒカリの両肩に手を置くと、
「あんまり考え過ぎたら駄目だよ」
「本人の心の問題は、特にね、、、」
何もしてやれない自身への歯痒さが、ヒカリの心を覆いそうになる。
慌てて頭を振って、ヒカリはその気持ちを払拭する。
自分が焦っても仕方ないのだから、、。
結に話したお陰か、少しだけヒカリの気分が軽くなった気がした。
そして、ふと鏡に映る自分を見据える。
「何で私、、」
「家に帰宅した後まで、女装してるんだ?」
とぼけた顔でヒカリの髪を三つ編みにしだす結。
「え〜と、それは、、」
「お兄ちゃん、帰って来てからもスイッチの入れ替え出来てなかったみたいだから、、」
笑って誤魔化す結は続けて、
「私好みに着せ替えて楽しんじゃった!」
ヒカリは、げんなりする。
『別にいいんだけどね、、』
今日はヒカリでいる時間が長かった為か、コウとの切り替えが上手く行っていなかった。
そう思っていた。
でも本当は、違う、。
コウとしての自分にのし掛かる心配事や悩みから、気付かないうちに逃げていたのだ。
ヒカリでいれば当事者では無くなるのだから。
結局、私は逃げてばかりだな。
ヒカリは自嘲する。
そんなヒカリを他所に、結はヒカリを眺めて唸る。
「う〜む、、」
「ちょっと立ってみて」
結に言われるがまま、ヒカリは椅子から立ち上がる。
そして顎に手を置いて結は、
「やっぱり私のプロデュースは完璧だわ!」
呆れてヒカリは言葉も無い。
「、、、、、」
さらに命令が下る。
「その場でクルッと回ってみて〜」
ヒカリは、諦めて仕方なく返事をする。
「はいはい、、」
クルッと回るヒカリ。
すると膝上丈のショートワンピースの裾が、ヒラリとなびく。
それをガン見していた結が鼻息荒く、
「うはっ、まじセクスィ〜!!」
ヒカリは泣きそうな顔で項垂れ、
「もうやだよぅ〜」
と言いつつも、グルグル回っていた暗い考えが吹っ飛んでしまい、本当に気分が軽くなっていた。
結様様だなぁ、、と眠りにつく寸前にヒカリは思い起すのだった。




