黒瀬ヒカリとヤン・メイリン(6)
水春は、ヒカリの意見に質問で返してきた。
本当にそう思うのか、と。
ヒカリは思案する。
クラスの相性は勿論ある。
だが、確かにナインピラー間の実力は伯仲だ。
それは、ナインピラー1人1人が只者では無い、一筋縄ではいかない者達だからである。
なるほど、、と少し考えを改めるヒカリ。
ナインピラー同士はいいとしよう。
しかし剣聖相手や、ナインピラーとそれ以外のプレイヤー間に差があり過ぎる。
水春がその疑問に答えるように補足する。
「ナインピラーが持つユニークスキルは、そう簡単に人前では使える物ではないだろう?」
「それは剣聖のWOSも同じはず」
ヒカリは頷く。
「確かに使えば使う程スキルを解析され、」
「手の内がバレていきますからね」
水春もヒカリの言葉に頷き、
「その上で黒瀬さんが負けずに剣聖で居続けるのは、」
「それは黒瀬さんだから出来る事だと思っている」
「さらにこの状況はナインピラー以外のプレイヤー達にも影響している」
「ナインピラーや君が力を使えば使う程、」
「その座を多くのプレイヤー達が脅かす事になる」
「だから強すぎる力を持たせたとは考えていないよ」
水春は感心するように、
「それでも君達上位10名は、これまでも勝ち続けた」
「そして、これからも勝ち続けるのか楽しみだ」
嫌そうな顔でヒカリは水春を見つめて、
「で、私やナインピラーに何をさせたい訳ですか?」
少し考える素振りを見せる水春。
「そうだなぁ、、」
「はっきり言うと、最強の10人と戦えるコンテンツと言ったところかな」
ヒカリは怪訝そうに、
「それって、タイトル戦とは別って事ですよね」
頷く水春。
「勿論だ、ランキングにも影響されない」
水春は真面目な顔で続けて語り出す。
「世界最強決定戦は、年に一度」
「しかも参加出来るのは、剣聖とナインピラーを含む最上位10人のみだ」
「ナインピラーの座を賭けたタイトル戦も、2ヶ月に一度でトーナメント方式」
「その上タイトルホルダーのナインピラーは、最終シードに位置するからね」
水春の言葉に同調するようにヒカリは、
「これだと勝ち上がれないプレイヤーは、上位10名と戦う機会が全く無くなってしまう」
「だから、、」
水春は「そう!」とヒカリを指差して、
「そこでランキングとは別にイベント的な形で、上位10名と戦えるコンテンツを作ろうと思っている」
「例えばチームVSナインピラー1人と言ったようにね」
ヒカリは水春の案を咀嚼する。
『こう言った形のPvPは、プレイヤーが非公式でイベント化してきた経緯がある』
『運営が公式イベントとして行うのは悪くないな、、、』
そんなヒカリを見つめて水春は微笑むと、
「まぁ、この考えが固まったのは、先の世界最強決定戦だがね」
「君と脇村氏以外、全員がまさかの談合とは、、、」
ヒカリは困った表情で、
「あれには私も参りましたよ」
苦笑する水春。
「だな、、、私もビックリしたよ」
「人間は思いもよらない行動を取る時がある」
「あれは想定外だったが、、、」
「私にとって良いインスピレーションになったよ」
ヒカリは、やれやれと溜息をつく。
自分に想定外な仕事や、トラブルがこれ以上増えない事を祈るばかりであった。
パーティーも終盤に近づいた頃、ヒカリはそろそろお暇しようかと考えていた。
弥生の体調が心配なのだ。
1人できっと心細いだろうし、何か出来る事があればしてあげたかった。
だから今から連絡して、弥生のお見舞いに向かうつもりだ。
水春氏に許可を取り、そそくさと会場から抜け出すヒカリ。
エレベーターの前までヒカリが来た時に、背後から声をかけられた。
「黒瀬さん!」
しまった見つかったか、、と思いヒカリは振り返る。
そこには息を切らしたメイリンが立っていた。
「す、すみません、、」
「お引き留めしてしまって」
慌ててどうしたのかと、不思議そうにヒカリはメイリンを見つめる。
「いえ、、いったいどうしたんですか?」
メイリンは少し照れた様子で、
「不躾なお願いで、申し訳ないのですが、、」
「聞いてもらえますか?」
首を傾げるヒカリ。
「?」
「私で出来る事でしたら、、」
顔を赤くしてメイリンは、しおらしくなってしまう。
「何か、黒瀬さんが身につけている物を、、、」
「一つ頂けませんか?」
ヒカリはメイリンの予想外の言葉に固まる。
「え?」
申し訳なさそうにメイリンは、
「その、、私がファンだと言うのは、お伝えしましたよね」
「お会い出来ただけでも嬉しいのですが、、」
「もし迷惑で無ければ大切にしますので、、」
ヒカリは納得した。
成程、アイドルにサインや記念品を貰うような感覚か、、と。
ヒカリは指にはめていた指輪を外す。
「わかりました、、」
「そう言う事でしたらこれを、、」
そしてその指輪をメイリンに差し出す。
それは黒く輝くブラックシルバーの指輪だ。
プラチナの上に、ブラックルテニウムコーティングをしたもので、それ程高価な物では無い。
メイリンが嬉しそうに、ヒカリから受け取った指輪を眺める。
そして握りしめると、
「失くさないように、肌身離さず大切にしますね!」
「そんな大げさな、、」と苦笑するヒカリ。
メイリンはヒカリに頭を下げた後、楽しそうな足取りで会場に戻って行った。
ヒカリはその後ろ姿を見送る。
『大企業の社長さんなのに、可愛らしい人だったな、、』
そして一息ついてエレベーターに乗り込んだ。




