弱った身体と心と葛藤と(1)
黒瀬ヒカリとして弥生に電話をかけた。
すぐに電話に出た弥生は、どうしたのかと驚く。
ヒカリは弥生が風邪で寝込んでいると、コウから聞いたと説明する。
だから心配で電話を掛けた、そう話すと特に怪訝に思われる事無く弥生は納得してくれた。
まだ日は跨いでないが、少し遅い時間だ。
思い切ってヒカリは、お見舞いに行って良いか弥生に尋ねる。
弥生は、迷うように間を置いた後、
「はい、来てもらえると嬉しいです」
「実は一人でちょっとだけ心細くって、、、」
そして心配そうに弥生が、
「でも、私の家の場所、、、分りますか?」
ヒカリは出来るだけ優しい声で、
「コウからね、水樹さんのお見舞いに行って欲しいって言われてて」
「その時、家の場所を教えてもらったから」
「大丈夫だよ」
弥生は驚いた声で、
「そうだったんですか!」
「他にコウくん何か言ってました?」
ヒカリは戸惑った、、が直ぐに思考を巡らせ、
「え、、あぁ、、」
「水樹さんは私のファンだから、お見舞いに行ったら喜ぶはずだよって、、」
弥生の嬉しそうな、呟くような笑い声が聞こえた。
「フフフ、、コウくんらしいですね」
「でも、、」
何か言ったようだが、小さすぎて聞き取れなかった。
ヒカリが何気なく聞き返すと、弥生は、
「いえ、、何でもないです、、、」
弥生は少し慌てた様子で、
「家の前まで来られましたら、すぐに電話くださいね」
「玄関の鍵、開けますから」
ヒカリは帰りがけのタクシーの中で、弥生へのアポ取りが順調に済み、ホッと一息をつく。
そしてタクシーの運転手に、弥生の自宅付近の住所まで行くようにお願いする。
要り様な物は、弥生の家のすぐ近くにコンビニが有ったので、そこで買っていこう。
そう段取りを考えるヒカリだが、本当はコウ自身で付きっ切りの看病をしたかった。
でも年頃の女の子の家に、男子が付きっ切りで看病しにいくのは憚られる。
うちの親も口には出さないだろうが心配はするだろうし、、。
だから黒瀬ヒカリなら、体面で言うなら問題ないだろう。
弥生のスマホに着信が入る。
直ぐに確認して弥生はスマホを耳に当て、
「いま鍵を開けましたんで、どうぞ入ってください」
「2階の一番手前の部屋にいますから」
暫くすると弥生の部屋のトビラがノックされる。
「水樹さん、、」
弥生はベットに伏せたまま、
「どうぞ、入ってください」
ヒカリがチャイナ風の黒いドレス姿で、弥生の部屋に入って来た。
その艶やかな姿にしばし弥生は目を奪われる。
ヒカリが手に持ったコンビニの袋が何ともミスマッチで、逆にその美しさを際立たせた。
ヒカリが心配そうに、
「こんばんは、具合はどう?」
弥生は声を掛けられて我に返ると、
「あ、、はい、、」
「夜になると少し熱っぽくなっちゃって、、、」
そして弥生は起き上がろうとする。
「それよりも、わざわざすみません」
「出迎えも出来なくって、、」
「お仕事の帰りだったのでは?」
ヒカリは慌てて傍に行くと、起き上がろうとする弥生を制して、
「そんな事気にしないで」
「大人しく寝てなさい、、」
コンビニの袋をテーブルの上に置くヒカリ。
「一応、必用そうな物を買ってきたから」
小さく頷く弥生。
「ありがとうございます」
ベットの傍らにヒカリは腰を下ろす。
その白くて細い手で、弥生の額に触れる。
「何かして欲しい事はない?」
少し遠慮がちに考える弥生。
「えっと、、、」
ヒカリは優しい笑顔で弥生を見つめる。
「うん?」
弥生は少し照れた様子で、
「結構汗をかいたので、着替えと、、」
「出来れば体を拭くのを手伝って貰えれば、、」
ヒカリは何て事無いような冷静な表情で、
「うん、いいよ」
そしてヒカリは立ち上がると、
「じゃあ、準備するから」
「勝手に色々使っちゃっても大丈夫かな?」
弥生は何だか恥ずかしそうに布団に口を埋める。
「はい、、、」
弥生の部屋から出た後、ヒカリは焦っていた。
『体を拭くって、、、』
『弥生が裸になるって事だよな!』
『どうしよう、、、、』
一方、部屋のベットに横たわっている弥生は顔を赤くして、
『女同士なのに、、』
『ヒカリさん相手だと何故だか凄く、、恥ずかしい気持ちになるんだけど、、』
そして弥生は自分の頬を両手で押さえる。
『もしこれがコウくんだったら、どうなっちゃうんだろう、、、』
ヒカリは、お風呂場や洗面台がある脱衣所などを物色する。
タオルやら洗面器などが必要だから、探さないといけないからだ。
でも勝手知らない他人の家というのは、あちこち物色すること自体、背徳的な気持ちに捕らわれる。
何だかストーカーや泥棒でもしている気分になってしまう。
しかも女の子の家なのだから。
そんな馬鹿な考えを頭を振って払拭する。
洗面器を見つけ、そこにお湯を張る。
そして清潔なタオルを3枚程見繕う。
洗面器のお湯を零さないように慎重に持ってヒカリは、廊下に出る。
リビングの扉が開けっ放しになっていて、廊下から丸見えだ。
リビングの中央には低いテーブルと、その上にゲーミングパソコンが設置してある。
弥生がいつもAOで使っているパソコンだ。
電源が入っているようで、スリープモードだがモニターの右下部に待機ランプが小さく点灯している。
そしてそのモニターの前には、乱雑にUSBアクセスキーが置かれていた。
まさか風邪の最中もAOをしていたのかと心配になるヒカリ。
『まあ、優等生な弥生がそんな事する訳ないか、』
『AOするくらいなら休んだ授業分の復習をするだろうな、、』
と考えを改めて、2階に向かう。
これから始まるアニメや漫画であるような、ラッキースケベなイベントに心を躍らせる。
それと同時に男の煩悩が出て失敗しないように、自身を戒めるヒカリであった。




