黒瀬ヒカリとヤン・メイリン(4)
会場の端には、要人来賓用のソファー席が用意されている。
そこに水春がヒカリ達を案内したのだが、自分はさっさと席を外してしまう。
水春は本日の主催者でもあるので、檀上にあがってのマイクパフォーマンスをしなければいけないらしい。
お偉いさんは大変である。
ヒカリの正面のソファーに腰掛けたメイリンが、おずおずと、
「実は、以前から黒瀬さんにお会いしたいと思っていまして」
「今日はその夢が叶いました」
メイリンの隣に座るグアハオが笑顔で、
「この子は黒瀬さんのファンでしてね」
「かく言う私もそうなんですが、、、」
ヒカリは畏まってしまう。
「とても光栄です、、私なんかを、、」
メイリンはまるで自分の事のように自慢げに、
「AOのPvPでの鋭い洞察力と分析力」
「他を圧倒する戦術と、機械のように正確な操作技術」
「貴女はもっと自分を評価すべきですよ」
そして真剣な表情をするメイリン。
「黒瀬さんは、今の貴女の状況に満足していますか?」
急に話の流れが怪しくなってヒカリは警戒する。
「それは、どういう意味ですか?」
真っ直ぐにヒカリを見つめるメイリン。
「我が社に来ませんか?」
「私なら貴女の能力を、十全に発揮出来る場を提供しますよ」
メイリンは少し前に乗り出して。
「報酬や契約料も、今以上を約束します」
「考えて戴けませんか?」
余りの突拍子もない提案にヒカリは黙り込んでしまう。
つまりこれは、ヘッドハンティングだ。
水春氏が席を外すのをメイリンは待っていたに違いない。
ヒカリは正直なところ、これ以上忙しくなるのは辛いのだ。
それに、今ここでyesと言えば、きっと日本を離れなければならなくなるだろう。
恋人の弥生もいるし、まだ学生でもある。
ヒカリは少し頭を下げて、
「私は今のままで満足出来ています」
「メイリンさんの申し出、非常に嬉しく光栄なのですが、」
「お断りいたします」
メイリンは残念そうに呟く。
「そうですか、、、、」
そしてメイリンは、お互いを隔てる低めのテーブルに名刺を置く。
「これは、私へ直に連絡が取れる番号です」
「もし気が変わりましたら、いつでもご連絡ください」
その名刺をヒカリは笑顔で受け取る。
「はい、お気遣い有難うございます」
少しだけ場が重くなってしまう。
それを気にかけてかメイリンが口を開く。
「せっかくお知り合いになれましたし、仕事ではなく、プライベート、、、」
「そうお友達として親睦を深めませんか?」
え、、何する気だ、、と少し狼狽えるヒカリ。
メイリンは、何だか嬉しそうに話し出す。
「パーティーで用意されている料理ですが、とても美味しいですよ」
「このホテルの星付きレストランが提供しているもので、絶品です」
「ご一緒にいかがですか?」
ヒカリは少し戸惑う。
そして正直に答えることにした。
「実は仕事中は食事をしないようにしているんです、、、」
「あまり胃腸が強くないので、、」
「体調を崩してしまったら、こういった場所では困りますから」
これは嘘では無く本当のことである。
昨日のように、カイエンとプライベートでオフ会なら問題はない。
しかし今日は仕事で来ているのだ。
食事を摂れば集中力が落ちてしまう。
それに万が一、体調を崩したら困るのだ。
何故なら外面が良いだけで呼ばれているヒカリなのだから、来賓を接待せずにエスケープする訳にはいかない。
そして、黒瀬ヒカリがそんな醜態を見せる訳にもいかない。
メイリンは納得したような表情で、
「なるほど、、、」
しかし諦めなかった。
「だからですか、、黒瀬さんはスタイル抜群ですが、、やはり華奢すぎるように思います」
「ちゃんと食事を摂られた方がいいかと」
「うん?」、なんだこの既視感は、、と思うヒカリ。
昨日、こんな感じの事をカイエン氏に言われたっけ、と思い出す。
そして同時にカイエン氏に、お姫様抱っこされたことが脳裏に過る。
恥ずかしくて「わぁ~」となりそうになるがヒカリは堪えた。
不思議そうにヒカリを見つめているメイリン。
ヒカリが思案しているのかと思ったメイリンが、改まった様子で、そして少し上目遣いで
「少しでもいいので、ご一緒しませんか?」
「黒瀬さんと、もっと色々お話したくて、、」
ヒカリは諦めた様子でメイリンに微笑みかけると、
「分かりました、、」
「少しでしたらお付き合いします」
先ほどは水春が取り残された感じであったが、今回はグアハオが2人の会話に入れず少し寂しそうだった。




