黒瀬ヒカリとヤン・メイリン(3)
ヒカリは水春に連れられて、ヤンと言う初老の男性の元に案内された。
そして水春は、ヒカリを彼に紹介する。
「黒瀬ヒカリさんです」
ヒカリはその初老の男性にお辞儀をして、
「初めまして、、、」
彼は笑顔でヒカリに手を差し出す。
「私は、EVOの会長、ヤン・グアハオです」
ヒカリは、グアハオの手を取り握手すると、
「あのEVOの!」
「お会い出来て光栄です」
エボリューションテクノロジーグループ、通称EVO。
大陸の大企業で、ゲーム制作会社としては世界の四皇とまで言われる地位にある。
またゲーム制作だけではなく、電子機器部品の製造、通信機器の開発などIT関連に特化された業種を手掛けている。
オンラインゲームに関しては、アイオーンエレクトロニクス社に一歩先んじられているが、それでもゲーム制作と言う枠組みで言うならEVOが圧倒的だ。
グアハオの傍にいたモデルのような綺麗な女性が、ヒカリの前に歩み出る。
すると水春がヒカリを見て、この女性を紹介する。
「こちらの方は、ヤン会長のご息女でEVOの取り締まり役をされているヤン・メイリン社長だ」
メイリンは、グワハオと同じくヒカリに手を差し出して、
「よろしくお願いします、黒瀬ヒカリさん」
「メイリンとお呼びください」
ヒカリはメイリンとも握手を交わしす。
「こちらこそ、よろしくお願いします、メイリン社長」
メイリンの容姿は、背が高く整った顔でまるでモデルか女優のようだ。
髪はアップに纏めていてメガネを掛けているせいか秘書ぽくも見える。
そしてデコルテと背中が大きく開いたVネックのドレス。
ドレスの全体的なシルエットは、Aラインで色はネイビーだ。
そういえば昨日会ったカイエン氏も、モデルのような整った容姿で、どことなくメイリン社長に雰囲気が似ている。
ヒカリは慌てて頭を横に小さく振って、それを脳裏で否定する。
確かにカイエン氏は、中性的な雰囲気だがこのメイリン社長に似ていると思うのは、メイリン社長に失礼な気がした。
ヒカリがあれこれ値踏みしているようで悪いとおもいつつも、一か所だけメイリンの気になる所があった。
それはデコルテだ。
首の付け根辺りから、胸の辺りまで大きな傷跡があるのだ。
手術痕という感じでもない、明らかに怪我の痕である。
ヒカリの視線に気付いたのかメイリンが、
「この傷跡が気になりましたか?」
ヒカリは何だか申し訳なくなって頭を下げる。
「す、すみません、、、」
メイリンは苦笑するようにヒカリに笑いかけつつ、
「いえ、、謝らないで下さい」
そしてメイリンは少し愛おしそうに、自分の傷跡に触れると、
「この傷は、私の誇りなんです」
「他の方から見れば見苦しいかもしれませんが」
「私には隠す必要はないんですよ」
ヒカリは驚いた。
『傷が誇り、、、、?』
傍にいたグアハオが落ち込んだ様子で、
「以前、テロに巻き込まれた事が有ってね」
「その時に、この娘が私を庇って受けた傷なのだよ、、、」
「メイリン自身、命に係わる怪我にはならなかったが、」
「身体に一生残る傷跡を残してしまった」
「私は父親失格だよ、、、」
ヒカリは驚き感心する。
「そんな事があったんですか、、」
メイリンは誇らしげに、少し怒った顔でグアハオに、
「お父様、落ち込まないで下さい」
「貴方は、国の一画を支える大企業の会長であり、」
「海外にも大きな影響力がある身です」
そしてメイリンは拳で軽くグアハオの胸を叩くと、
「それを守る事が出来た私を、褒めてくれればよいのです」
自分にもこんな事があったな、、とヒカリは思い出していた。
結があの時、怒った顔で、
「私は全く気にしてないし!」
「お兄ちゃんが悲しそうな顔するから、、」
その時、コウは謝る事しかできなかった。
そんなコウを見て結は誇らしそうに、
「この傷は、お兄ちゃんを守る事が出来て付いたものだから、」
「私にとっては誇りなんだよ!」
女の子は、強いな、、、とヒカリは呟く。
ヒカリはメイリンに笑顔を向けると、
「メイリン社長は、男顔負けのしっかりした方なんですね」
グアハオは苦笑する。
「全くだ、、、」
「会長の私が立つ瀬が無くなるくらいにね」
メイリンも同じく苦笑するとヒカリを見て、
「社長は、、やめてください、、」
「せっかく知り合えたのですから、名前だけで呼んでください」
ヒカリは少し困ってしまった。
さっき知り合ったばかりで、この女性はえらくグイグイくるなと思ったからである。
なんとなく釈然としない感じでヒカリは、
「あ、、はい、、」
一人取り残された感じの水春が、気を遣うように、
「皆さんここで立ち話もいいですが、、」
「向こうに座れる席も用意してあります」
「どうですか?」
ヒカリは慣れない高いヒールを履いている。
そして立食パーティーなので長時間立つ可能性もある。
これは中々に足だけではなく、腰にもくるのだ。
なのですぐにヒカリは賛成した。




