黒瀬ヒカリとヤン・メイリン(2)
ヒカリは、ホテル内にあるアイオーンエレクトロニクス社主催のパーティー会場前に来ていた。
パーティー会場は、かなり大きく既に沢山の来賓が来ていた。
少し遠目から会場の入り口を伺うヒカリ。
中に入るのが少し億劫で、足が進まない。
入り口には受け付けが設けられている。
スーツ姿の男性1人と、同じくスーツ姿の女性1人が受け付けで招待客の確認をしていた。
ヒカリが受け付けに近づくと男性の方が寄ってきた。
そしてヒカリを見ると、惚けるように少しの間、硬直してしまう。
初対面でヒカリを見た人間は、皆このような反応をする。
いつもの事で慣れっこなヒカリは、笑顔で男性に声をかける。
「こんばんは」
我に返った男性は、慌てるように、
「いらっしゃいませ」
「当パーティーにお越しのお客様でしょうか?」
「で、ありましたら、招待状の提示の方をお願い致します」
受付にいた女性が慌ててヒカリの元にやって来る。
「失礼しました!」
「黒瀬ヒカリ様ですね、、」
その女性は、男性を肘で小突く。
そしてパーティー会場内を示すように、女性は柔らかく手を差し出す。
「どうぞ、お通り下さい」
「中で水春プロデューサーがお待ちしています」
ヒカリは軽くその女性に会釈して、会場に向かった。
今回は立食パーティーとの事だ。
皆、飲み物を片手に思い思いに来客同士の会話を楽しんでいる。
用意されている料理は、立食用なので勿論ビュッフェ形式だ。
ヒカリは会場に入って直ぐの場所で、待ち伏せをしていた水春に声を掛けられた。
「こんばんは、黒瀬さん」
「水春さん、こんばんは」
とヒカリが挨拶を返すと、水春が唸るように見つめてきた。
少しだけ怯えるようにヒカリは、
「な、なんですか?」
水春は感心するように、ヒカリを上から下まで見ると、
「いつもの黒瀬さんも眼を見張る綺麗さだか、、」
「こういったドレス姿も素晴らしく艶やかだね」
ヒカリは既視感に捕らわれた。
『これ、、昨日も似たような事言われたな、、』
ヒカリの出で立ちは、黒を基調にしたチャイナ風のドレスだ。
腰には深いスリットが入っていて妖艶さを醸し出している。
さらに見る角度や光の加減で浮かび上がる、ニードルレースの淡い銀の刺繍が美しいアクセントになりとても華やかだ。
そしてヒカリ自身の白さと、黒のチャイナ風ドレスとのコントラストが見る者を釘付けにする。
それは白が消え入りそうな儚さを、黒が何者にも侵食されない存在感を主張し、お互いの美しさを際立たせているからだ。
とりあえず無難に礼を口にするヒカリ。
「ありがとうございます」
そうこうしていると、周囲がヒカリの存在に気付き始める。
皆、黒瀬ヒカリの美しさに見惚れて茫然としてしまう。
ヒカリからしたら不特定多数の視線に晒されて、とても居心地が悪い。
まるで針のむしろのような感覚だ。
ヒカリが居心地悪そうに水春へ訴える。
「どうもこういった場は苦手です、、」
水春は苦笑しながら、
「まぁ仕事だから仕方ない」
「諦めて上手く立ち回って貰えると、私も助かるよ」
そして水春がエスコートするように、ヒカリへ手を差し出す。
「さぁ、君に会わせたい人がいる」
ヒカリの手を取ると水春は歩き出しながら、
「今回は我が社の創立記念パーティーでね」
「海外からも多くの要人を招いている」
「その中の1人、、いや2人だね」
ヒカリは露骨に嫌そうな顔をする。
「何だか嫌な予感がしてきましたよ、、、」
水春は笑いながら、
「それは考えすぎだよ、黒瀬さん」
すると水春は、少し先に居た初老の男性に声をかけた。
「ヤン会長!」
水春に声をかけられた初老の男性はこちらを向くと、
「お!」
「水春君! もしや、そちらの女性が、、、」
初老の男性、ヤン会長の傍には背の高い女性が佇んでいた。
まるでモデルのような美しい女性だ。
そして彼女は、優雅にヒカリに対して会釈をする。




