06
電車は、徐々に速さを増して、俺達を置いてゆく。土御門が、居ないことにここまで不安を感じるとは思わなかった。
好きだとか嫌いだとか云々じゃなく、暖かいんだ。その暖かさが一気に無くなった怖さが不安の原因だっていうのは分かってる。
「あるじ様ッ……? いかがなされましたか?」
心配そうに見上げるルトの声が、激しい音の後に残る耳鳴りを優しく緩和する。俺の異変に、心情の変化にいち早く気がつくのはいつもルトだった。ってまあ、関わりを持っていたモノは居ないに等しいけどさ。
ルトの頭に手を乗せ「いやな、昔を思い出していたんだ。ずっとずっと昔の、俺達が居た時代での事を」
「あるじ様、また、ここが苦しいでありまするか?」
涙目で、ルトは自分の心臓を両手で押さえる。
その痛みすら、忘れていた筈なんだがな。
過ぎ去る人々、流れる音声・足音・様々な声音。喧騒が秒針より先に急ぐ中で、俺とルトの時間は実にユックリと流れているようだった。
「母上、父上の事を少し、思い出していたんだ」
「優しき方々、と言っておられましたよね」
ルトは、俺の家族を知らない。寧ろ、俺とルトが出会ったのもまた、あらゆる場所をさ迷っていた時なのだから。
「ああ、優しくて、暖かかった」と、単調に答えた。
家族。今は亡き家族。俺を守る為、自ら処刑を選んだ父上と母上。
確かに恨んだ事もあった、憎んだ事だってあった。居る時も喪った時も、俺をこんな境遇に産んだ二人を。だけれど、それをそれ以上に包み込む暖かさがあった、愛があった、思い出が……あった。
半妖として、人を襲い、家族を奪った報復。もしくは、俺をこんな風に産み落とした、人間への八つ当たりをする道だってあった。けれど、俺は陰陽師の道を歩んだ。父上がそうだったように。
妖怪である、母上を救い恋に落ちた、優しき陰陽師だったように。
俺は、俺は……そう、自分の家族の正しさを皆に知らしめたかった。
「土御門家は、暖かいよな」
「はい」
差別すること無く、見返りを求めるわけでもなく、素性を知らない俺達なんかを招き入れた。
親身に悩み、衣服さえも提供したいと、言ってくれる寛大さ。ゆえに感じた、家族の愛。
もし、例えば俺達と一緒に居ることで不幸に見舞われる事にでもなったりしたら、それは恩を仇で返す事になるんじゃないだろうか。
──それだけは、避けたい。
「お前は、土御門家に迷惑をかけたいか?」
ルトは、乗っけた手を振り払う勢いで首を左右に振るった。
「そのような事、断じてありませぬ。あの、雌にも世話になりんした。お風呂へ一緒に入ってくれたりだとか、色々してくれたでありまする」
「なら、その事を忘れるなよ」
俺は、忘れない。人よりも長く生きる俺達は、当たり前のように土御門を追い越してゆくだろう。だからこそ、俺達は忘れない。
「行くぞ、ルト。人に憑依した妖怪を探し退治する。赤鬼の手掛かりを手に入れるんだ」
悪事を働く、妖怪を退治していけば、必然と被害者とも接点を持つ。そこからは、交渉して金銭を頂く。そーすれば、食い扶持もなんとかなるし、いずれ土御門家にお礼も出来るはず。
ルトは、駄々をこねる事なく、頷いた後に華やかな笑顔を魅せた。
「では、あるじ様!! 妾に、ドンとお任せ下さいッ!!」
ルトの意気込みに、釣られて頬が軽く吊り上がる。
「ああ、頼りにしてるぞ」
「だが、その前に、帰りは普通の階段で帰ろう。あれは、乗るべきものじゃあない」
鼻から感じる疼きを思い出し、言った。
この先、どうなるかは分からない。考え通り、事が運ぶかすら謎だ。
「まずは、俺の名を広める事が先。悪い意味ではなく、信用に足りうる人物として。探偵になるとしても、言伝で広まるには時間がかかることを、覚悟しなくてはならない」
「あるじ様、妾はどんな時でも、お側にいますゆえ」
「ありがとうな。じゃあ、始めよう。俺達の探偵を」
これにて、二章が終わりました。
ここまで読んでくださった方は、居るかな?居ないかな。
もし、読んでくださっていたのなら本当にありがとうございます。このまま書けるように頑張りますので、感想や評価など、お手数でなければまってます!!
因みに、詩を書いたりするのもすきなんですよね。
浅霧りがかかった、山の中とか幻想的ですよね!
はてさて、三章に突入する訳なんですが、これからは妖怪退治等がメインとなるてはずとなっております! 話によっては、三人称にもなるよていです。




