04
「ムムム……犯人は、この中におりまするっ」
ルトが唐突、苦い薬を飲んだ様な表情で言い出したのは、夜の食事や入浴などを終えて一段落ついてからだった。
ルトが言うには、母上が買ってきた筈のプリン。甘味な食べ物が、冷蔵庫から姿を消していたらしい。
ただ一人だけ、潔白な人物が存在する。土御門の父上だ。父上は、一番初めに俺達に話を掛けた男達と同じ仕事をしており、今日は当直と言う担当で帰れない。その為、人見知りのルトは、バタバタと駆け回り自分の部屋にいたであろう、土御門をリビングへと呼んだ。
──つまり、このリビングには父上を除いた四人の容疑者が対面している。
「別にプリンぐらい、また買ってあげるわよ。るとちゃん」
「それじゃあ、駄目でありまするよ。真実はいつも一つ」
「……ああ、なるほど。るとちゃん、ご飯食べる時に見てたアニメに影響されたのですね」
ほう、毎週やっている名探偵タマンか。あれは確かに面白い。何もない場所から証拠を炙り出し、たった一つの真実を見抜き犯人を見つけ出す。正直な所、俺もあの作品は大好きだ。つか、タマンもカッコイイがララちゃんがとても可愛い。
「え、影響など、されておらぬわ!!」
少し面白くなってきたな。便乗しよう。
「ルトよ、お前は自分の主を疑うのか?」
ソファーに腰をかけている俺は、膝に手を付き、顎を乗せて立っているルトを見上げた。なるべく威圧感を醸し出し、上下関係の有無をハッキリさせるように。
案の定、ルトは焦った様子で声を吃らせた。
「そ、そのような事は!」
「くくく、だろう?」
「し、しかし!! 流石の主様と言えど罪は罪! 犯人なら相応の罰を!!」
色んな思いを振り払うように、ルトは片手で横一閃、腕を振るった。一方、土御門家が何かをしてると思えば、呆れた様子でテレビを見ている。
ククク……。犯人は、嘘を隠すのに必死だな。
「ねぇ、母さん。この二人は何をしてるの?なゆたさんに関しちゃ、笑みが気色悪いんだけど」
「さあ……。まぁ、楽しそうならいいんじゃないかしら? あ、映画やったわっ」
さあ、考えろ……。この密室で、人数は四。
「母上、プリンは何時まであったんですか?」
洗い物をしている、母上に問い掛けるとテレビから視線を離さずに口を開いた。
「んーと、あなた達が帰ってくる少し前まではあったかしら」
嫌々と答えている様子。だが、甘い。いかにも『いかにも、私はやっていない』と、言いたげな素振りを見せる人ほど怪しいものだ。この中で、一番、手を出しやすくそれでいて疑われにくい。立場を利用した、横暴の可能性もなくはないな。
「あ、主様!! わ、妾の役目を……」
「お前も、容疑者の一人だという事を忘れるな。俺は、読者諸賢に挑戦するッ!」
「いや、この場合、なゆたさんも容疑者なんだけどね」
涙目になり、手をワチャワチャとしながらルトは訴える。だが、甘い。先導を仕切る奴に限って犯人だったりする。一番初めに気が付き、あたかも自分は被害者だと言わんばかりの主張。
「ルト、お前は何故、母上が食べていいと言う前に気がついたんだ? 普段なら我慢をしているのに」
「それは……」
「それは、お前が許可を得る前に食べようとしたんじゃないか?」
ルトの耳は、力をなくして垂れる。分かりやすい奴だな。だが、名探偵な俺は畳み掛ける。
「つまり、気が付かない内に無かったのではなく。お前が最初から食べてたから無かったのだろ?そして、バレるのを恐れたからこそ、一番初めに──」
「ち、違いまする! 妾は食べておりませぬ! 妾は、ハル殿が怪しいと思っております! 気がついた時には、もう部屋に入ったのはハル殿」
なるほど、確かに目を盗んで食べるのは部屋に入れば容易だ。
──くそっ、皆が妖怪に見えやがるぜ。あ、ルトは妖怪か。
疑心暗鬼になり、皆の目には狂気が宿り始めていた。このまま、話が進めば、お萩にマチバリを入れたり、ナタを振り翳したりする可能性がある……。
怖いのは、皆が症候群に侵される事。何としても、惨事だけは回避しなくては。あれは、見るに堪えないものだった──。
「土御門、お前は帰ってきてから何をしていた?」
「えー? 私もか……。私は、部屋で掃除をしていましたよ。と言うか、早く終わらせてください。これが終わったら、私は宿題をしに戻るんですから」
ため息混じりに、適当な様子で然も眼中にない素振りを見せたが、俺は焦りを禁じ得なかった。
「ちょ、お前……」
「何ですか?」
「殺されるぞ!」
「死ぬ気でありまするか!」
俺とルトは机を叩いて、驚きを──いや、この場合はまだ見ぬ犯人に畏怖を感じ、土御門の安否を危惧した。しかし、当の本人は呆れた様子で俺を見上げる。
──チッ、馬鹿なヤツが。生き急ぎやがって。
「え、死ぬ訳ないじゃないですか。と言うか、二人共、息ピッタリに何ですか? ビックリしましたよ」
こいつは何もわかっちゃいない。軽率な発言が命取りになる事を。元来、危機的状況で、将来の夢や希望。たまたは、願いを話した奴がいち早く命を落とす法則が出来ているんだ。
その事を、ルトも分かっていたのか。流石相棒だぜ。俺達は、互いの功績を讃えるように親指を天に突き立てた。
「あのですね、今回の茶ば……事件に犯人はいないんですよ。もし、それを敢えて犯人と位置づけるのならば、母さんが犯人よ」
ほう、中々面白い推測だ。
「な、なんですと!! 母上、真か!?」
母上は、ニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「あらやだわ。なんで、私が犯人なのかしら」と、言いながら照明で照り返すのは、手に持った刃物。
俺は、瞬時に反応し土御門の前に立つ。
「くっ!! 土御門、離れろ! 凶器で襲われるぞ!!」
「はあ……。あのですね、プリンはまだあるんですよ」
土御門の発言に、一同は静まり返る。
「まず、一つ。母さんは、一度たりとも冷蔵庫にあるとは言ってませんよね?」
「し、しかし! 妾は、しっかりと買ったと聞き申した!!」
「はい、確かに買ったと言ったようですが……。るとちゃんの話からは、母さんが何処にしまったかは聞かされていません」
「それじゃあ……」
土御門は、一度頷く。
「はい、凡そ察しはついたようですね。なゆたさん」
「つまりは、ルトの思い込み?」
「ええ。今さっきも、母さんは買ってきた。としか言っておりません。加えて、るとちゃんは母さんが冷蔵庫にしまう場所を見ていないのですよね? いえ、見ているはずがありません。あれだけ、豪語するのなら、見ていた場合、必ず『見た』と言うでしょう。──どうですか? るとちゃん」
立ち上がっていたルトは、静かに座り、耳を垂らし悲しい表情を作り頷いた。
「確かに、そうでありまする」
「つまり、です。プリンの在り処は冷凍庫。答えは単純明快。真夏だからです」
と、乗り気じゃなかった土御門は、立ち上がった。そして、今日一番の得意げな表情で冷蔵庫に備わっている冷凍庫を指さした。
母上は、楽しめたのか笑顔で冷凍庫を開ける。
逆にルトは、未だにしょぼくれている様子。
「──あら、おかしいわね……ないわ」
「そう、無かったのじゃ。妾は、背丈的に下に備わっている冷凍庫から見たでありまするよ、しかし──」
土御門は、驚いた様子でソファーに座り頭を抱えた。
「どーゆ、事……ですか。まさか、本当に、るとちゃんが……」
「ち、違うわい!!」
「まあ、気にしないで。るとちゃん、晴ちゃん、二人でアイス買ってきてちょーだい」
母上は、ルトに近寄ると優しく諭して銭を、小さい手のひらに乗せた。
「犯人、見つけられずに……すまぬ」
「いいのよ、るとちゃん。後ね────分かったかしら?」
「う、うぬ。分かり申した」
こうして、二人は闇の街へと姿を消した。
─────────
ふひ、ふふひ。甘いぜ、甘々だぜ。御三方よ。
犯人は、俺だったんだよ。答えは、単純明快。四人なら的は絞られる。故に、進行を勝ち取った者が勝利。口の広い袖には、色々入るんだよ。
俺は、暗い部屋の床に冷たく凍ったプリンを三つ並べて笑を零す。
「さあ、頂くとしようか。勝利の美酒に酔いしれながら──」
プリンをお持ち帰りだぜ。
一口食べると、シャリシャリと変わった歯ごたえがして徐々に溶けて、口を優しく包み込む。冷凍プリン、美味!!
「なーゆーたーくーん」
刹那、暗くしていた筈の部屋に光が灯され、振り向くと母上が立っていた。反応的に、プリンを隠し愛想笑いを浮かべる。
「い、いやは、どーなさったのですか? 母上」
いや、だが、もしかしたらバレて?そんなはずはない。あの時は誰もいなかった。平常心、平常心。
「いやね、内緒にしてて欲しいのだけどプリンを二つ食べたの、私なのよ」
「なるほど、どおりで三つと言う半端な数しか残ってなかったのか。大丈夫ですよ、母上。内緒に──なっ!?」
やられた……まんまと乗せられた。これじゃあ、俺がプリンの数を知っていたことになる。だれもしるはずのない、プリンのかずを──。
「最初から、分かっていたのか……。母上よ……」
「ええ、何年母親やってると思ってるのよッ」
真の名探偵は、母上って事か……こりゃあ、一杯食わされたぜ。って、まてよ……。
「母上、プリンの事はすまなかった。それと一つお尋ねしたいことがあります」
「何かしら?」
「探偵になるには、資格がいるのでしょうか?」
赤鬼を見つけるには、情報がひつようだ。なら、其れ等を自分で一つ一つ見つければいい。誰かが困っている所に、妖怪が関わっているのは不思議な事じゃない。
ならば、それを解決し、金銭を貰い受けて行けば土御門家にも多少は負担をかけずに済む。
警察は、国家と言うぐらいなのだから資格は必須な筈だ。
「探偵は、確か、資格は要らないはずよ?」
「ありがとうございます」
決めた。俺は、探偵となり赤鬼の手がかりを探し出す!!
この後、当然のように俺にはアイスが与えられなかった。のと、何だかんだ、土御門家が一番楽しんでいたという結果論だけが残った。




