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03

 この、電気街と呼ばれる場所は、様々な光が包み込み心の内側から楽しませてくれる。長時間居ても飽きは来ないし、アニメイトには魅力的な女性達が書籍となり記述されている。それに、剣術に長けた剣士や、俺達ですら使えない陰陽術を使う者も、画面の向こうには居るのだ。この世界は、俺が知らない異能に満ちている。

 そんなこんなを考え、辺り見渡しながらも人を避けながら歩いていると、背中に衝撃が走った。


「いってっ!!」

「大丈夫ですか?」

「あんの野郎、前を見ずに走ってきやが……って、餓鬼が付いている、だと」


 背負いものをした男性の肩には、幾度目の巡り合わせか姿も形もあの日と何ら変わりない、妖怪・餓鬼ガキが濁った赤目を光らせていた。見間違いは、有り得ない。髪は生えておらず、背骨は浮き出ており。尖った爪に鋭い牙は特徴てきだ。


「あのっ、餓鬼ってなんですか?」

「土御門、お前、あれが見えてなかったのか?」

「えっと、なにがなにやら」


 何故、霊体化した俺達を見ることが出来て、妖怪を見ることが出来ないんだ? そりゃあ、ルトとは俺の生き血で契約している以上、目視は可能だが……。

 今はそれどころじゃない、と首を左右に振るい、焦る様子で見つめる土御門の目を見た。


「俺の正体を、土御門は信じてないようだから証明してやる」

「証明?」

「ああ。俺は正真正銘の陰陽師だ。今、走り去った男には、下位の妖怪・餓鬼が憑依している。餓鬼は、爪や牙を憑依対象にくい込ませて、生気せいきを吸い込む」


 土御門は、顎に手を添え眉頭に皺を寄せ、考え苦しむ様子のまま口を開く。


「にわかには信じ難いです。が、なゆたさんの言っていた事が正しいなら、彼は今も現在進行形で生気を吸われているのですか?」

「ぁあ、そうだ。そして、代わりに悪意を注ぎ込む。憑依された者は、欲望に忠実になり我慢ができない体質になる。悪事を行ってる際に、過剰分泌される感情が生気な訳だ。

 餓鬼の体長が大きければ大きい程に、悪事は繰り返される。酷い時は虐殺すら見てきた」


 あのでかさから見るに……恐らく法を犯してはいる、な。


「土御門、少し此処で待っててくれ」

「──え!? あ、あの! なゆたさん!?」


 足に力を込め、硬い地面を蹴り上げ、走り去った男性の背を追った。

 護符を袖から再び出して、念じる。


ヨウサイトコエンリンコウ! 我が元に、姿をあらわいんを喰らえ!!」


 護符に印された、六芒星は輝きを放つ。浮き出た六芒星を、皆は見えていないだろう。中から姿を顕したのは眷属であり相方の、ルト。


「あ、主様、如何いかがなされましたか?」

「餓鬼が現れたんだ。先に霧隠れをして存在を消し向かう」

「かしこまり申した」


 追い掛けるには、式神の察知能力が必要となる。だが、神と反する血が通った俺には、神の力を借りる事は出来ない。だからこそ、兎の妖怪であるルトの嗅ぎ分ける嗅覚は必要なのだ。


 ルトは、巫女服を靡かせながら頷くと、鼻を突き上げる。


「その路地を左折でございまする」

「分かった。その調子でたのむぞ」


 それから、時間にして五分ぐらい走ると、事は起きた。建物の影から、見つめる先には先程の男性。もう一人、土御門と似た正装を着こなした女性が凛々と立っていた。


「これは、どー言うことだ? まさか、女を──」


 いや、だが、壁に追い込まれているのは男性だ。それは、表情を見ても明らかではある。


 二人のいる場所が、工事をしている為か声が良く聞こえない。なにやら、男性は首を左右に振るって何を訴えかけてるようにも見えなくはないな。神経を研ぎ澄まし、聞き耳を立てる。



「お前には、芸術がない。私利私欲に塗れ、快楽を愉悦を求めるだけの動物よ。よって、芦屋あしやの名において罰を与える──赤鬼、喰らえ」

「ま、まってくれ!! だ、だってよ? 堪んねぇんだよ。何が起こったのか分からず、倒れた時の間抜けズラが!! フへ──フへへ……。だ、だから、だからもう少し楽しませてくれ」


男性の目は、虚ろい、凡そ正気とは呼べるものでは無い。


「──駄目だ。餓鬼に喰われる様な奴に、次は無い」


 嘘……だろ? 今、間違いなく、赤鬼とあいつは言った。おいおい、こんな事あるのか……。

 途切れ途切れ聞こえる中で、震撼させ鳥肌を立たせたのは赤鬼と確かに聞こえたからだった。


「ルト、あの時の因縁を晴らすぞ」

「元よりそのつもりでありまする、主様や」


 俺達、二人だけで赤鬼の相手が出来るだろうか。

 はははっ、くそっ、震えてやがる。だがしかし、今は目の前の男性に意識が向いている。隙をつけば──あるいは……。


「もー!! こんな所に居たんですね!! なゆたさん」

「──ッ!?」


 緊迫した空間を引き裂いた声に、背筋が凍る。護るべき女が、今まさに単体で危険に直面したのだ。さっきの女は、禍々しいまでの妖気が帯びた刀をぶら下げていたのを目視もしている。


 律動は、早まり息苦しくなる中で、言葉を吐き出させようとする。が、それでも言葉が出ない。今すぐ、膝に手を付き息を上げている土御門に号令を、逃げろと叫ぶべきなのに……。

 今の俺達は、運が良いのか、霧隠れを使っている俺達を気がついてはいないみたいだ。


「くそっ!」


 背後から感じる、おどろおどろしい殺気が声帯を握りつぶす。


 不意を衝かれた故に現れた隙を、相手にまんまと食われてしまった……。

 心音の音のみが鼓膜を叩き、全てが遅れて見える。さながら、走馬灯を見る中で女の鋭い眼光は間違いなく、土御門に向けられた。


「アイツは、安倍の……。まあいい、今日の予定ははすんだ。帰るとしようか」


 殺意による金縛りが解かれ、土御門に駆け寄る前に前の二人を確認した。既に姿は無く、あるのは廃棄されたゴミの山。


「良かった……。無事で」


 俺達が此処に来た理由を少し、分かった気がした。確実に分かったこともある。


 ──赤鬼は、今の時代も生きているという事を。

 同時に、何かを見落として居る様な違和感が胸を駆け回っていた。


 ─────────


 後日談。


 母上が、嬉しそうに取り上げた話題は、連続通り魔が発見されたという事。しかし、犯人は魂を抜かれた様に息を引き取っていた。奇々怪々な出来事との事だ。この事にどんな意味が込められているかと言えば、単純明快。


 あの時、赤鬼と言った女と話していたのが連続通り魔だった。つまり、彼を殺したのは、いや、喰ったのは、あの女。


 俺に託されたもの、それはこの時代で赤鬼を探し出し殺す事なのだろう。全てが手遅れになる前に。その為に必要なのは──情報と資金。


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