クーデターの結果
6月中に……終わらなかった……。
出血シーン(?)があるので気を付けてください。苦手な人は回れ右。
かつて、アルビオンでも何度かクーデターが起こった。最も有名なのは300年前……正確には320年ほど前になるが、アルビオン内乱のきっかけとなったクーデターだろう。結局、クーデターは半年で終了したが、内乱自体は2年近く続き、クーデターを鎮圧して王位を取り返したエリザベス女王は、即位するまでに1年以上かかっている。
そして、メルフィス暦1853年夏。再びアルビオンの地でクーデターが起ころうとしている。
湖のほとりに集められたのは、国王家族に加え、ベイリアル大公家、フェアファンクス公爵家、ナイツ・オブ・ラウンドに護衛としてついてきた近衛騎士。爆発でも起こして皆殺しにでもする気だろうか?
と、思ったところに現れたのがリアノーラだった。馬で疾走してきた彼女はこちらの状況を見て大きく目を見開き――馬を止めた。
エドワードはちらりとアルヴィンの方を見る。ディアナに支えられ、肩から血を流している父親と、膝をついて腹部を血で染めている自分を見て彼女がキレるのではないかと思ったが、意外にも彼女は冷静に馬を下りた。
「これはリアノーラ嬢。体調はよろしいのですか?」
「よく言うわ。それで、これは何の余興かしら」
おい。笑ってるけど、目が笑ってないぞ。エドワードは無性に彼女にツッコみたい衝動に駆られた。目が殺る気だ。
「あなたを招待するのはもう少し後のはずだったんですが」
「もう午後の3時を過ぎてるわよ。雇う人は選びなさいな、シェフィールド大公」
リアノーラが嫌味たっぷりに言うと、シェフィールド大公が舌打ちした。エドワードのそばにいるエリスが顔をひきつらせている。
「午後3時が過ぎたからなんなんだろ」
「知らん」
リアノーラの行動の半分は意味不明だ。エドワードはその一環だということで処理した。
「クーデターを起こすならもっとスマートにやりなさいよ。私なら暗殺くらいするわ。こんな杜撰な方法で殺さないわよ。っていうか、まず、怪しまれないようにするわね」
「怪しまれた方が動きやすいこともあるんですよ、いろいろね」
今度はシェフィールド大公がリアノーラを小ばかにする口調で言った。このままでは陰険口論に発展しそうである。
「ふうん。なるほどね。一理あることは認めようじゃないの」
リアノーラも無駄に偉そうだ。
彼女の視線がエドワードとアルヴィンをとらえた。そして、ほかのメンバーをざっと見て、
笑った。
「あははははっ! 本当に、やってくれるじゃないの!」
後ろから大きな水音が聞こえ、エドワードたちは思わず振り返る。湖の水面が大きく波打っていた。リアノーラの魔術だ。エドワードは確証もなくそう思った。
突然発狂したかのようなリアノーラであるが、おそらく、ずっとキレるのをこらえていたのだろう。リアノーラにはそういうところがある。だから、爆発したら、怖い。
「さあ、ハーヴェイ・シェフィールド! 神に祈りをささげなさい!」
彼女は、神はいないのだといったその口で、神に祈りをささげるように言った。シェフィールド大公が押されて一歩下がった。彼女のことだ。おそらく、本気でやる。
彼女は6年前、自分に力がないことを悔やんだ。そして、力のある今、自らの大切なものを守るために、彼女は容赦しないだろう。
彼女の力はまさに『神の怒り』と言っていい。大地が震え、水が大波を作り、リアノーラからたち上る魔力が見えるようだった。まあ、実際には見えないのだが。
「リア!」
「リア、落ち着け!」
ユーフェミアとセレストが叫ぶ声が聞こえた。強大な魔力に充てられたか、シェリルとブルースが泣き出した。エドワードは思わず立ち上がる。
「エド!?」
エリスが驚いた声を上げたが、エドワードは構わずリアノーラの傍に駆け寄り、彼女の両方の二の腕をつかんだ。
「落ち着けっ。怒りに任せて人を殺すのか!?」
叫ぶと、腹部の怪我が痛んだ。しかし、エドワードはリアノーラを揺さぶった。
「しっかりしろ! やってしまったら、後悔するのはお前だぞ!」
ずっとエドワードの肩越しにシェフィールド大公をにらんでいたリアノーラの目がエドワードの方を見た。少し落ち着いて見えたので、エドワードは内心ほっとする。ほっとしたところで、気が抜けた。倒れかけたエドワードを驚いたリアノーラが支えた。
「エド!?」
「拘束しろ!」
リアノーラの声にセレストの声がだぶった。ついでどかっという音が聞こえた。どうやら、セレストの号令でシェフィールド大公たちを拘束するつもりらしい。エドワードを支えきれずに座り込んだリアノーラが左手で何かを取り出すのが見えた。それを目で追うと、エドワードはぎょっとした。
エドワードとウェンディ、ユリシーズがリアノーラとエリスにさんざん教え込まれたクライン財閥、エンフィールド紹介共同開発の最新式の銃だった。
殺る気か、この女!
エドワードは驚愕したが、止める間もなく彼女は発砲した。立て続けに3発。遠慮がないのは相変わらず……。
「2人とも、大丈夫!?」
エリスが駆け寄ってきた。エドワードもリアノーラも口をつぐんだまま開かなかった。とりあえず、エドワードは顔を上げた。
「のわっ。リア、エドの血ですごいことになってるよ……あ、こっちは大丈夫。デュークさんとウェンディとアンディが頑張った」
エリスの報告に安心する。いまいち状況がわからないが、何とかなったようだ。
そう思うと急速に眠くなってきた。
リアノーラとエリスが何かを叫んだ気がしたが、エドワードは目を閉じた。
次に目を覚ました時、エドワードはベッドの上だった。きれいな顔に上から覗き込まれる。
「あ、おはよう。って言っても今夜中だけどね」
にっこり笑って言ったのはエリスだ。エドワードは起き上がろうとして、やめた。貧血で頭がくらくらする。
「……あの後、どうなったんだ」
「クーデター未遂事件? それとも、君自身の容体?」
「……両方頼む」
エリスが笑って「了解」と答えた。笑っているということは、それほど悪くはないのだろう。エドワードの状況も、クーデター未遂事件のその後も。
「まず、君の容体からね。銃創はそれほどでもないんだけど、出血量がねぇ。半狂乱のリアをなだめるの、大変だったよ。まあ、エドなら3日も寝込めば回復するだろうって、医者が」
「なんだ、その投げやりな診療は」
「宰相の診察もそんな感じだったよ。いや、2人とも体力が化け物だね」
さらりと同僚と宰相を化け物と称するエリスは、顔に似合わずかなり口が悪い。
「というわけで、リアのためにも早めに回復してほしいね……で、クーデター未遂事件だけど、リアが飛び込んできた時、あの子、かなり怒ってただろ? それでシェフィールド大公もその手下たちもビビっちゃって。ベイリアル大公の指示で一気に取り押さえたんだ。言ったかもしれないけど、デュークさんとウェンディとアンディが頑張って取り押さえてくれた。遠くに配置されてた人は、リアの怒りに触れて逃げたみたいだね。まあ、リア様様ってところ?」
どうやら、リアノーラは直接手を下さずにシェフィールド大公たちを拘束するきっかけを作ったらしい。
「そのシェフィールド大公は、リアに撃たれて重傷。命に別状はない。だけど、右肩はもう使えないだろうね、骨が粉砕されたからな」
何となく既視感を覚えるそのセリフに、エドワードはぽつりと言った。
「……宰相がやられた腹いせか?」
「……うん。私もそう思ったよ」
思ったとはいえ、エドワードもエリスも彼女に直接確認しようとは思わなかった。
「で、その後息子のマーティンと娘のエリノアがアリンガム教会で拘束されてたよ。街の住人が逃亡しようとしたところを捕まえてくれたみたいだね。いや、持つべきものは人徳だね」
なんだか聞き覚えのないことを言われた気がしたが、エドワードは面倒だったのでツッコまなかった。
マーティンとエリノアは父親のクーデター失敗を知って、無情にも父親をおいて逃げようとしたらしい。親が親なら子も子だな。
「シェフィールド大公は解任。後任は追って決めるらしいけど、おそらく、ジェームズ殿下がロレッタ嬢と結婚してシェフィールド大公になるだろうね」
「ロレッタ嬢は罪には問われないのか?」
いくら何もしていなかったとはいえ、ロレッタは家族を止められなかった。何か罰が与えられても不思議ではない。
「あー、彼女はシェフィールド大公のクーデターの証拠を陛下に提出したからね。私たちが来ることを知って、いつ渡そうか迷ってたらしいよ。それで挙動不審だったらしいね」
挙動不審て。エリスも大概遠慮がない。リアノーラと気が合うわけである。
「それで情状酌量。ロレッタ嬢は罰を望んだらしいけど、陛下にジェームズ殿下と結婚してシェフィールドを守っていくことが罰だと言い渡されたらしい。ちょっと臆病な彼女には十分な厳罰だと思うよ」
「……とりあえず、丸く収まってよかった」
「いや、丸く収まってないらしいよ」
「……なぜ?」
クーデター事件は解決したはずだ。少々解決方法が荒っぽかったが(主にリアノーラのせいである)、他に何か問題があるのだろうか。(元)シェフィールド大公の処罰か? 極刑か流刑かでもめているのだろうか。というか、この時代に流刑はないな。せいぜい監獄に入れられる程度だ。
「いや、よくわかんないけど。明日の……っと、もう今日だねー。話すってさ」
「そうか」
エドワードは簡単に話を切り上げたが、エリスが出て言った後に気が付いた。
明日って、たぶん、俺、まだここから動けないな。
* + 〇 + *
ウェンディが呼び出されて談話室に向かったのは午前のお茶の時間だった。ちなみに、シェフィールド大公は拘束されたが、彼らはいまだにシェフィールド大公家が所有する別邸に居座っていた。行くところがないのだから仕方がないだろう。
談話室にはチャールズ4世、ソフィア、ユーフェミア、リアノーラ、ユリシーズがいた。何故にこのメンバー? そしてなぜにあたしが呼ばれた。
「ウェンディ。エンフィールド商会の力でシェフィールドにいる宝石商を集められるか?」
ユリシーズに尋ねられ、ウェンディは一瞬ぽかんとしたが、何度か瞬きして答えをひねり出す。
「……まあ、やれと言われればできなくはないよ。全部は集められないかもしれないけど、いざというときのために父様からエンフィールド商会の印鑑は持たされてるし、無理ではないわね」
「じゃあ、集められるだけでいい。午後に宝石商を集めてくれ」
「え、うん」
「フィーアがご所望だと伝えればいいぞ」
チャールズ4世が自分の娘を示して言った。ソフィアも大きくうなずいたので、ウェンディも「わかりました」と返答した。
「で、何するんですか?」
協力するのに説明されないのは何事だとばかりにウェンディは尋ねたが、チャールズ4世に笑ってごまかされた。標的を従妹に変える。
「ユフィ、リア」
「ノーコメント」
ユーフェミアが即答した。リアノーラに視線を移すが、彼女も首を左右に振った。この娘ども……。
「心配するな。午後にはわかる」
にやっと笑ったチャールズ4世はとても腹黒く見えました、まる。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
最後は決まっていたはずなのに、プロットから外れて微妙な結果になる。いや、もともと微妙だったのかもしれませんが!




