探し物はなんですか
一目見た時から、彼女のことは気にいらなかった。見た目は普通の令嬢だ。アルビオンが誇る美形夫婦の子供なので、かなりの美人であったが。銀色が勝った亜麻色の髪に、サファイアブルーの瞳。切れ長気味なたれ目は、彼女におっとりした印象を与えていた。彼女、リアノーラ=フェアファンクスに。
今日、リアノーラを見かけていない。何でも、昨夜襲われたらしい。それも本当か怪しいところだが、犯人と思しき男は彼女の婚約者が捕まえたらしい。それにもエリノアは腹が立った。
庭を見ると、国王の下の娘とリアノーラの弟が散歩をしていた。第2王女のマリアンヌは姉の王太子ソフィアとあまり似ていない。クリストファーも、2人の姉とあまり似ているとは言えなかった。
ひとのうちで、なにをいちゃいちゃしているのだろうか。エリノアの胸にもやもやしたものが広がる。エリノアは、自分の思い通りにならないと気が済まなかった。
たかが客のくせに、偉そうに。眼にもの見せてくれるわ……!
エリノアはそう決意し、早速考えを巡らせていたのだった。
* + 〇 + *
リアノーラのほっそりした指が、軽やかな音色を奏でている。ソファに身を預けてその音色を聴きながら、ユーフェミアはうっとりと目を閉じた。
ユーフェミアは体が弱いため、リアノーラは昨夜襲われたためおとなしくしているのだ。本当は、体調はいいのだが、こうして引きこもっていた方が何かと都合がいいのだ。
ちなみに、夜中にリアノーラ、正しくはソフィアに夜這いに来た男は、ハーヴェイの甥だったらしい。ハーヴェイは王女に無体を働こうとした、ということで彼を厳しく罰したそうだが、ユーフェミアたちは彼が指示したのだと思っている。正確には、試させたのだ。そこで成功すれば、おそらく息子のマーティンに行かせたのだろう。ここでソフィアに孕ませることができれば、その子は王になれる可能性があった。
それにしても、こうして部屋にいるというのも暇である。リアノーラがいるのでまだましだが、一通りゲームをして、そして、今はこうしてリアノーラのピアノを聞いていた。
何となく、この別荘は陰謀が渦巻いている気がした。実際に、渦巻いているのだろう。ソフィアによると、シェフィールド大公の娘のエリノアは、リアノーラを敵視しているようだし、ソフィアが狙われたということは、シェフィールド大公には王位簒奪の意志があるということになる。
「グランヴィルの『ニムエ』だな。お前らしい」
ユーフェミアは演奏が終わってからそう言った。ニムエとは、湖の乙女と言われる伝説上の魔術師の1人だ。魔術師であるリアノーラにふさわしい曲のような気がした。
「そう? ユフィは体調は大丈夫?」
「平気だ」
ユーフェミアは言葉少なに答える。その素っ気ない態度にも、リアノーラは微笑んだ。いつもこうしていれば、サディストとか言われないのに。
「……暇だな」
「暇ねぇ。なんか歌ってみる?」
「リアが歌え。私は歌わん」
「何よぉ」
すねたようにリアノーラが頬を膨らませる。絶対にわざとだ。部屋に閉じ込められて、頭がちょっとおかしくなっているのかもしれない。しかし、それをしても違和感がないくらい、リアノーラは顔立ちがおっとりしている。顔だけだけど。
さすがに暇を持て余していると、部屋にノックがあった。リアノーラが立ち上がり、「はーい」と返事をしながら扉を開ける。のぞくと、両親とクリストファーだった。
「あら、お父様、お母様、クリス。どうしたの?」
リアノーラが演技がかったしぐさで頬に手を当てた。とにかく、3人を招き入れた。ディアナがソファから身を起こしたユーフェミアを見てニコッと笑う。
「まあ。ユフィも元気そうね。リアが元気なのはいつものことだけど」
「どういう意味かしら。それ」
リアノーラがさりげなく突っ込みを入れる。彼女はポットに水を注ぐと、別のポットに茶葉を入れた。そして、水が入っている方に向かって指を鳴らす。そのポットを持って茶葉の入っている方に注ぐと、出てきたのはお湯である。
「……ちょ、リア、それ、どういう仕組み?」
クリストファーがユーフェミアがつっこみたくてもめんどくさくてやめたツッコミを入れた。ユーフェミアは寝転んでいたソファからちゃんと足を下ろしながら聞き耳を立てる。さりげなく気になっていたのだ。
「魔術に決まってるでしょ。最近、お湯を一瞬で沸かす魔術式を開発したの。あと、この土地が、私に合ってるってのもある」
「あれか。水か」
「そうそう」
ユーフェミアが適当に言うと、リアノーラがうなずいた。彼女はアストラル系の魔術師だという話だが、その他には水との相性がいい。彼女は手早く茶菓子なども準備する。
「ミルクティーでいい?」
「私はストレートで」
「お父様、ここは空気を読もうよ」
そう言いながら、リアノーラはアルヴィンの分を別に入れている。ひねくれてるな。リアノーラは上品に家族の前に入れた紅茶を置き、さらに軽食やお菓子の乗ったティースタンドを置いた。手際がいいな!
「早速だがリア。お前、エリノア嬢に何かしたか?」
「何かって? 質問がざっくりし過ぎて答えようがないんですけど」
アルヴィンの問いに、リアノーラが当然のことを答える。ユーフェミアでも同じツッコミをしただろう。
「いや。妙にお前のことを知りたがる。みんなには適当に流しておけと言っておいたが」
「別に話されてもいいけど」
リアノーラは首を傾けた。心当たりはないらしい。しっかし、この女は知らずにいろんなところから怒りを買ってそうだな。
「……私は、リアは父上の次に他人の怒りを買っていると思うぞ」
「……ユフィ。何言ってんの」
どうでもいいけど、お父様が一番なのね、と言うあたりがリアノーラらしいが。
「だが、気を付けたほうがいいだろうな。女は陰険だからなー」
と、自分も女であるユーフェミアは言った。ユーフェミアもリアノーラも正面方ぶつかっていっても、めったに玉砕しないので、あまり陰険さはない。基本的にこの2人は勝ち組だった。
「まあいいわよ。大丈夫。それよりも、探し物を探さないと」
リアノーラははきはきと言った。スコーンを取ると、それにかぶりついた。彼女はよく食べる。
探し物。つまり、偽物にすり替えられていたレガリアのひとつ、宝珠の本物の行方だ。魔術師であるリアノーラは、こういうことをよくまかされる。地味だが大変な仕事だ。しかも、彼女は基本的に人が良いので無条件に引き受けてしまうことが多い。だから、大変な部分はこちらでカバーしてあげなければ、リアノーラが倒れてしまう。
「目星はついているのか?」
「ついてたら、苦労しないわねぇ」
リアノーラは父親にため息をついて見せた。さすがに、そんなに万能ではないらしい。
「シェフィールドにあることは間違いないんだけどね」
「え、なんでわかるの?」
クリストファーが聞くと、リアノーラは彼にニコッと笑った。
「勘」
「……クリス。リアに聞いたお前が馬鹿だ」
ユーフェミアは純真な弟に言い聞かせた。すると、リアノーラが眼を細めた。
「冗談だよ。朝の間にセラ姉さんに協力してもらって調べたから」
だから、本気っぽい冗談はやめてほしい。リアノーラなら、本当に勘が当たりそうだ。
「でも、正確な位置がわからなければ意味がないわ。どこかに丁重に隠されているか、木を隠すなら森の中形式か……」
「ちなみに、リアだったらどっちにする?」
「私は木を隠すなら~、の方かな」
ユーフェミアの問いに快く答えたリアノーラは、いつになくまじめな表情をしていた。
「宝珠自体は、エリザベス女王のころに出来たものだから、魔力をはらんでいるはずよ。魔力って、だいたい区別がついたりするんだけど、ほかに紛れるとわかりにくいのよ。だから、紛らわすために他の魔導具とかと一緒においてる可能性があるわ」
とりあえず、明日、この屋敷を捜索してみるわ、とリアノーラは気軽に答える。
「怪しまれるなよ」
「大丈夫。エドを巻き込むわ。エドとお父様はほとんど魔力がないから、紛れ込まなくて探すのが楽なの」
そんな理由か。しかし、婚約云々の話もあるから、微笑ましいデートにも見えるだろう。何があっても、このペアなら大丈夫な気がするし。
「……それで。私はどうすればいい? いくらフィーアの影武者でも、ずっと引きこもってるわけにはいかないだろ」
ユーフェミアは尋ねた。ソフィアの影武者である以上、ユーフェミアはあまり人前に出ない方がいい。それは道理だ。しかし、いくら病弱とはいえ、ずっと引きこもっていれば逆に怪しまれる。
「……それもそうだな。お前は。ユリシーズに庭でも案内してもらえ。シェフィールドは涼しいからな」
アルヴィンが言った。たぶん、単純に病弱な娘の心配をしているだけだと思うのだが、どうして彼が言うと何かを含んで聞こえるのだろう。リアノーラは父親似だな、と改めて思った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
エリノアご乱心編。たいしたことにはならないのでご安心ください。
それより問題は、書き溜めがなくなりそうなことです。(2回目)




