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LOST SPELL  作者: 雲居瑞香
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崩壊・悪魔の古城

今回はいつにもましてわかりづらいです。本気で文才がほしいです。


『私の友人に向かって、好き勝手やってくれるじゃないの』


 リアノーラだ。セレストは目を見開く。どこから……。

 投げ出されたウェンディの剣と、エドワードの剣が光りでつながった。その線が上下に開き、丸い円になる。黄泉の国につながるのかと思う黒い空間から、ぬっと白い手が出てきた。ばちばちと紫電を散らしながら、中から少女が出てくる。


「ったく。私と同じ力で、ウェンディを傷つけるなんて。生きて帰れると思うなよ」

「……リア」


 リアノーラだ。長い髪をなびかせ、スラックスにシャツという薄着で現れた。剣は持っていない。

「何故だ! お前は私が支配したはず……」

「あんた馬鹿? 私とあんたの能力は似ているのよ。本当に支配されるわけないじゃない。伊達にアストラル系の魔術師をやってるわけじゃないわ。自分の末裔をなめないことねぇ」

 リアノーラが勝気そうな顔で言う。ああ、本物のリアノーラだ。

「貴様っ! やれ!!」

 アラステラがエドワードと戦っていた死体兵に言う。死体兵はリアノーラに切りかかろうとする。エドワードがとっさに止めようとするが、間に合わない。

「リアっ」

 リアノーラの姿が半分に割れた。左肩から右腰に掛けて、真っ二つだ。セレストは悲鳴をあげそうになって息を呑む。

「……っつー。肉体がないと言っても、痛いわねぇ」

「!?」

 二つに割れて倒れたと思ったリアノーラがひょこりと起き上がる。傷口どころかあふれたはずの血も消えている。


「どういうこと!?」


 セレストが驚きの声を上げると、リアノーラは簡単に説明した。


「肉体はエリスのところにおいてきたのよ。能力が似ているとはいえ、ここはあいつの世界だから、動き回るには精神体のほうが楽なのよね」

「…………」

「というわけで、物理的な攻撃は私に効かないわよ。私は精神体なの。生きるも死ぬも、私の意思次第なの」


 あ、それはリアノーラに効かないわ。彼女の意志の強さは折り紙つきである。たとえ、それが表面上だけだとしても。リアノーラはふっと微笑むと、死体兵を魔術で吹き飛ばした。


「ねえ。あなた。アラステラだったけ? あなたに質問。自分っていう存在は何で成り立ってると思う?」


 いきなり宗教的……というか、哲学的な質問が来たな。これは人間の永遠の謎である。セレストはウェンディの止血をしながら考える。彼女の眼の端に、エドワードが死体兵を再生できないくらい切り刻んでいるのが見えた。意外とえぐいことをする。


「例えば、今の私とあなたは精神体よね。幽霊、生霊と言い換えてもいいわ。さて。この場合、私とあなたは『リアノーラ』『アラステラ』という存在なのかしら?」

「私は私だ!」

「どうかしらねぇ。私の意見では、肉体と魂が一つになって初めて、その人になるの。だから、霊であるあなたは、もう何ものでもないの。わかる? だから……消えなさい」


 リアノーラが命令口調で言うと、アラステラの姿が発光し、徐々に薄れていく……ように見えた。

「なんだ!? お前、何を!」

「ここはあなたの世界よね。私にも、上書きすることはできなかった。でも、それはこの空間だけの話。あなた自身はどうかしら。この隔離空間は城に根付いているけど、あなたの存在は? あのばらばらになった白骨死体に依存しているはずよね?」

 リアノーラが不気味にふふっ、と笑った。セレストは背筋に悪寒が走るのを感じた。

「あなたという存在は、ただの残留思念に過ぎない! 対して私は現代に生きる人間。死者と生者なら、生者のほうが強いに決まってるでしょ。エドを見てみなさいよ。魔力がないのにあなたの死体兵を倒してくれたわ」

 視線を受けたエドワードは微妙な表情になる。彼の剣にはリアノーラが魔術をかけているから、それのおかげだと言いたいのだろう。しかし、魔力の少ない彼自身がこの空間で存在し続けていられるのは、彼の精神力のたまものだ。つまり、彼という存在が、この死者の作った空間に勝っているということになる。


「所詮、過去は現在に勝てないの。わかったなら、とっとといるべき場所に還りなさい!」


 リアノーラががぜん強い口調で言った。ここでは意志の強さがそのまま力になる。リアノーラの方が強かったということだ。リアノーラの理論では、過去は現在に勝つことはできない。おそらく、アラステラの魔力は、長い年月の間に弱まっていたのだろう。一度封印もされているし。

「くそぉぉおおっ」

 アラステラが叫んだ。リアノーラの体がばたりと倒れる。


「……バカね。悪魔の召喚なんて考えるから……」


 リアノーラが憐れむような表情で言った。そこに、今までどこにいたのかエリスがひょっこり現れた。

「あ、終わった?」

「エリス様。今までどちらに……なるほど」

 アーサーが妙に納得した表情になったのは、彼がリアノーラの体を抱えていたからだ。リアノーラが自分は精神体だ、と言っていたが、どうやら本当だったようだ。まあ、切られたのにケロッとしているし、そうなのだろうなぁとは思ったが、この子、本当に何でもアリだな。

「おー。エリス、体守ってくれてありがと」

 リアノーラは自分を抱えたエリスに向かって言った。手を伸ばして自分の体に触れる。すると、引き込まれるように精神体は消えた。代わりに彼女の体がパチッと目を開ける。エリスがそっと彼女の体を下した。


「あー。骨がギシギシいう。だからあんまり精神離脱はやりたくなかったんだけどねー……。やっぱりあの男、昇天できないくらい痛めつけときゃよかったわ……」


 さらりと恐ろしいことを言いながら、リアノーラはウェンディの元に近寄る。

「ちょっと見せて。……うん。大丈夫ね」

 リアノーラは手当されたウェンディの腹に触れて言った。貧血を起こしているだろうが、セレストも大丈夫だと思う。彼女が周囲を見渡して言った。


「空間は、まだ戻ってないみたいだしな」


 魔術師3人は目を見合わせた。何となく場を仕切っているリアノーラは、すぱっと立ちあがった。体に入りなおしたばかりでめまいがしたのか、くらりとよろめいた。

「大丈夫か?」

 リアノーラを支えたエドワードが尋ねると、彼女はさらっと言った。

「ええ。心配してくれてありがたいけど、エドワードはウェンディを運んでちょうだい。今度こそ、私たちからはぐれないのよ! 危ないから!」

「どういうことだ?」

 エドワードが言われたとおりウェンディを担ぐ。背中に軽々と背負った。彼はきっと、言われなくてもそうしただろう。リアノーラに惚れてしまったことを別にすれば、彼はいい男なのだ。そんなことを頭の端で考えながら、セレストは別のことを言う。


「この空間が崩れてないってことは、アラステラの魔術がまだ有効だってこと。あいつがしたかったのは、魔術召喚だろ? アストラル系の魔術師は召喚術に向いている傾向がある」

「つまり、アラステラ様は悪魔召喚に成功した可能性があるのです」


 アーサーも言った。故人に様をつけなくてもいいと思うけど。それに、セレストたちを襲ってきたやつなのに。まあ、丁寧なのがアーサーの個性だ。

「……それってやばくないか? どうするんだ?」

 事の重大さに気づいたエドワードはそれでも冷静に言う。ウェンディがいないと静かだ。ボケがいないのもつまらない。

「倒すしかないでしょ」

 リアノーラがさらりと言った。セレストは即返事をする。

「さすがだ。かっこいいぞ、リア」

「茶化さないでくれる? ボケがいなくてさみしいのはわかるけど!」

 ばれていたのか。まあ、しばらく一緒に暮らしていたしな。リアノーラは思いのほか真剣だった。いつもこうだといいのだが。

「悪魔は召喚されたら、魔力を引かなくても自立行動可能なんだよね?」

 エリスが確認するように言った。リアノーラはうなずく。

「そうよ。だから、とっとと探してとっととやっつけちゃいましょう!」

「……リアノーラ様。少し遅かったみたいです」

 アーサーが言った。暗闇から、咆哮が聞こえた。リアノーラが手を伸ばし、自分の後ろにセレストをかばった。


「来たっ」


 リアノーラはそう叫んで、服の中から指棒のようなものを取り出す。杖だ。鉄製か何かで光沢があり、宝石などで装飾されている。リアノーラのめったに使わない手のものだが、今回は特別なのだろう。

 杖を握ったリアノーラの手がまっすぐ暗闇に伸びた。光線が杖から発射された。その光に照らされて、大きな、ネコ科の……。

「トラ? 今の、トラ!?」

 リアノーラが周囲に聞きまくっていた。セレストは首をかしげる。

「トラ型の悪魔っているのか?」

「いなくはないと思いますが……」

 と、アーサーは首をかしげる。いざという時にあまり役に立たない3人である。おっとりしていると、悪魔が襲いかかってきた。リアノーラが容赦なく魔法攻撃を加える。悪魔の腹に巨大な氷が突き刺さる。だが、その氷は吐きだされ、傷口はみるみるふさがっていく。

「! マジかよ」

 エドワードが愕然としたように言った。自分は役に立たないと思っているらしく、後ろに下がってウェンディをかばっている。同じく、役に立たない自覚があるらしいエリスは少し離れたところで銃を構えていた。


「リア。銃撃って、効くかな?」

「わかんないわ。銀弾を作っておけばよかったわね」

 エリスの質問に答えながら杖を指先でくるくると回すリアノーラは、杖に魔力を集中させる。

「……この世界では、意志の強さが力になるのよ……私たちも、ある意味精神体。悪魔はアストラル体の者が多いけど、アストラル系の攻撃には弱い」

 リアノーラの持つ杖の先からバチバチと電気が散る。でかいのをかます気だ。

「……セラ、アーサーさん。さっきの、見えた?」

 リアノーラが魔力をためながら言った。低く唸る悪魔から目を離さず、セレストとアーサーはうなずいた。


「ああ。あいつ、いろんな悪魔を吸収してるんだな」

「あの姿は仮ですね。自分がどんな姿だったのか、思い出せないのでしょう」


 知能が低下しているのだ。強大な力を持ちすぎたものによくある症状だ。力をコントロールできず、魔力を食いすぎてしまう。だから、強いが、意外と脆い。

 リアノーラの杖の紫電の音が大きくなる。周囲をかなり明るく照らした。セレストはウェンディとエドワードの腕をつかんでリアノーラの後ろに下がった。それを見てエリスもアーサーの隣に駆け寄ってくる。


「みんな、よけてね」


 リアノーラは妙に明るい声で言うと、杖を悪魔の方に向けた。雷の塊が衝突し、爆発する。爆風がセレストたちを襲った。

「リア! やりすぎだろ。もっと穏便に倒せ」

「穏便に倒したら時間がかかるでしょ。それに、倒せてないし」

「……黒焦げですが」

 冷静なリアノーラにアーサーが冷静につっこみを入れた。確かに、悪魔は原型をとどめないほど黒こげになっていた。

「表面だけよ。すぐに復活するわ。私は火力系の魔術は苦手だから」

 リアノーラはやはり冷静だった。奥の暗闇に向かって明かりを掲げる。

「向こうから来たわよね? 行きましょう。それが復活する前に」

 セレストは首を傾けながらも、走り出したリアノーラを追った。

「どこに行く気だ?」

「どこかに召喚魔法陣があるはずだわ。アラステラが消えたのに、この空間が維持されているということは、あらかじめ魔法式が組み立てられているから……大元をたたかないと意味がない」

「あー……」

 何となく理解してセレストは黙り込む。魔法陣はうまく作れば魔力を供給しなくても魔法が発動することがある。きっかけさえ作ってしまえば、あとは勝手に魔法を維持してくれる。悪魔もすでに召喚されていたし。

 どれくらい走っただろうか。セレストとアーサーは息も上がり、肩で息をしていたが、リアノーラとエドワード、エリスは割と平然としている。さすがにナイツ・オブ・ラウンドだ。というか、エドワードはウェンディも背負っているのに、どういう体力をしているのだろうか。


「? おい。後ろからなんか聞こえるんだけど」


 なんかってなんだ。セレストはエドワードに突っ込みたかったが、息が上がりすぎて問いを発せない。代わりにリアノーラが口を開いた。

「後ろから悪魔が追ってきてんだよ! いらないこと言ってないで走れ!」

「おいおい! だんだん近づいてきてるっぽいぞ!?」

「あっちの方が速いってこと!?」

「いいから走りなさい、2人とも!」

 リアノーラはあくまで元から絶ってしまう気らしい。だが、セレストとアーサーの体力が続かない……と思ったとき、目の前に黒い煙のようなものが立ち上っているのが見えた。一番前を走っていたリアノーラが急ブレーキをかけて止まる。セレストはその背中に衝突した。


「姉さん、大丈夫?」


 ぶつかられた方に心配される始末である。息が整わないので、黙ってうなずいた。改めてみると、煙の向こうに魔法陣がぼんやりと輝いているのが見える。

 そ、とリアノーラが手を伸ばす。煙に触れるか、というところでばちっと音がして、彼女はあわてて手をひっこめた。

「……どうなってるんだ?」

 エドワードがつぶやいた。リアノーラが険しい顔で言う。

「魔法陣を護るための防護壁ね。無理やり破ることもできるけど……」

 リアノーラは不安そうに言葉をつむぐ。その時、セレストたちがやってきた方から咆哮が聞こえた。


「来たーっ」


 そろそろリアノーラが冷静なのか動揺しているのかわからなくなってきた。セレストはリアノーラの腕をつかむ。

「リア、あれ頼む。私が魔法陣を解くから」

 魔法陣の専門家はリアノーラの方だが、戦闘力も彼女の方が上だ。それなら、セレストが解いた方が効率がいい。リアノーラもうなずく。

「わかった。その槍貸して」

 リアノーラはセレストから槍を奪い取った。まあ、剣より間合いが長いし。エドワードも加勢するつもりなのか、背負っていたウェンディをアーサーに預けて剣を抜いた。セレストは回っている魔法陣に取り掛かる。代わりにセレストはエリスにヘルプを求めた。

「私、あまり役に立てないと思うけど」

 そういいつつ、付き合ってくれるらしいエリスはセレストの隣に膝をついた。そろって魔法陣を見つめる。

 おそらく、正しい数式を打ち込めば止まるタイプなのだろう。セレストは床に数字を書いていき、計算していく。

 再度咆哮が聞こえ、悪魔が姿を現した。今度は黒いコウノトリである。

「どうなってんだ!?」

「言ったでしょう。いろんな悪魔を吸収してんのよ。ボーっとしないで! やられるわ!」

 時々言い合いを挟みながらも、見事な連携である。セレストはちらりと2人の奮闘を見て、また計算に戻る。

 ここに3の8乗を加え……駄目だ。どこかで計算が違ってる……。セレストはああでもない、こうでもないと計算式を打ち立てていく。すさまじい速さで計算を追えて、数字を魔法陣にぶつけた。


「!? はじかれた!?」


 しかも、演算が変わっている。どういうことだ? 自分で問い、自分で答えを見つけた。

 単純に魔力が足りないのだ。リアノーラが平然とやっていたので、自分には彼女ほどの魔力がないことを忘れていた。一応、エリスの魔力を借りたのだが……。さらにアーサーの魔力を借りても……足りないな。セレストはリアノーラの方を見た。

「ぉりゃああぁぁああっ!」

 リアノーラが持っているセレストの槍がうなりをあげている。うん。駄目だ。そっとしておこう。何となくストレス発散している気はしないではない。接近戦がメインのはずのエドワードがリアノーラを援護している形になっている。

 エドワードが持っている剣を見てはっとした。そういえば、エドワードとウェンディの剣はリアノーラが魔力文字で強化していた。それを使えば。セレストはウェンディとアーサーの元に駆け寄る。


「どうしたのですか?」


 懸命に回復魔法を行っていたアーサーはセレストを見て目を見開く。セレストはウェンディの腰から剣を引き抜きながら手短に言う。

「魔力が足りないんだ」

「あ、なるほど」

 アーサーもやはり魔術師だ。これだけで通じた。セレストは急いで魔法陣の元に戻り、演算をもう一度行う。ああ、頭が痛い。桁が大きすぎる。魔法ダイヤルをまわし、数字をそろえる。さらに演算を打ち込み、セレストはウェンディの剣を思いっきり魔法陣に剣を突き立てた。激震が走った。


「せやぁっ!」


 妙な掛け声をあげて、リアノーラが揺れる世界にも負けず渾身の力で槍を振り落す。魔力供給減がたたれていた悪魔はそのまま真っ二つになり、混乱したように姿を次々と変えていく。きっと、ひとつの姿を維持することができなくなったのだ。

 気持ち悪げにそれを眺めていたセレストはリアノーラに怒鳴られる。

「ぼーっとしてんじゃねーわよ! ほら!」

 リアノーラが手を伸ばす。逆の手にはすでにエドワードの腕がつかまれている。セレストはとっさにその手をつかみ、エリスを捕まえる。察したアーサーがウェンディを連れて、同じくリアノーラの手を握った。その瞬間今までで一番大きな衝撃が襲い、セレストの意識は一瞬飛んだ。

 目を開けると、最初に出た地下室にいた。少し離れたところでリアノーラがウェンディに治療を施している。


「……終わったのか?」

「あ、おはよ、姉さん。そうね。終わったわ」


 リアノーラが微笑んでいった。そうしていれば、彼女もただの美少女である。

 終わった。とりあえず、セレストのすることは、もうないということ。だから、もう寝たかった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

次でいったん、落ち着きます。今度は海軍基地まで出張ですね。

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