それでも墓を暴きたい
何やら不穏なサブタイトルですが、別に墓は掘り起こしてません。
鬼畜発言はいくつかあるかもしれませんが。
「半日は目を覚まさないと思うわよぉ」
リアノーラは無情にもそう言った。リアノーラの言葉通り、バッタリ倒れたアルヴィンを運んだのはエドワードだったが、自分と同じくらいの体格の男を運ぶのは大変で、途中でリアノーラも手を貸した。というか、諸悪(?)の根源はリアノーラだ。このサディストめ。
「お前、何したの?」
エドワードが父親の脈を計るリアノーラに尋ねた。「何もしてないわよ」と彼女。
「強制的に魔術式を押し流したのよ。強力な魔術だったから、魔力の少ないお父様にはかなり堪えたのね。でもほら、あざは消えてるでしょ」
勝手にアルヴィンの服の袖をまくり、リアノーラはにっこりする。確かに、あざはなかった。サディストでも腕は確かな魔術師である。
「お前の方は大丈夫か?」
「は?」
リアノーラが呆けた表情になる。彼女は、アルヴィンにかかった魔術を分散させていたのだ。いわゆる、形代というやつである。リアノーラは自分の服の袖もまくってエドワードに見せる。
「私も平気だよ。……でも、どうしてお父様がねらわれたのかしら」
書類に魔術がひそめてあったということは、明らかにアルヴィン個人を狙ったものだろう。仮眠室を出て後を警護の棋士に任せた後、リアノーラはそんなことを言う。
「そりゃ、まあ……アルヴィン様は宰相だし」
権力が欲しいやつらは、彼が邪魔だろう。
「もしくは、フェアファンクス公爵家を乗っ取ろうとしてるとか」
「お父様を殺しても乗っ取れないでしょう。クリスがいるもの」
クリストファーはリアノーラの弟だ。現在、フェアファンクス家唯一の男児である。爵位の継承は男児に優先されるので、リアノーラの爵位継承権は3番目だ。現実的に見て、彼女は爵位を継ぐことも、王位を継ぐこともないだろう。まあ、彼女はどこででも生きていけそうだけど。
「……そうだよな。フェアファンクス家は、クリスが継ぐんだよな」
エドワードはそうつぶやき、自分の考えが正しいのか確かめるために、リアノーラにこんな質問をする。
「リア、最近、お前に縁談来てない?」
リアノーラが昇っていた階段を踏み外した。降りているときに踏み外すことはあるが、昇っているときに踏み外すとは珍しい。よほど動揺したらしい。エドワードはとっさに彼女の腰に手をまわし、抱きとめた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがと……」
リアノーラが体勢を立て直すと、今度は彼女の手を取る。リアノーラはおとなしく手を引かれた。
「……何度かお見合いはしたことあるけど、たいてい相手から断られるわね」
それはリアノーラの性格が初対面でサディスティックとわかるものだったのか、アルヴィンが裏から手をまわしたのか、どちらだろうか。彼女の身分からして、縁談が来ない方がおかしいのだ。
「けど、いったいどうしたの?」
いつもは頭のまわる女だが、自分のことになると動きが悪くなるようである。
「リア。フェアファンクス公爵の次女であるお前は有名だよな」
「? まあそうね。魔術師で、ナイツ・オブ・ラウンドだし」
それだけではなく、実は美少女としても有名なのだが、それは黙っておこう。お互いに美形として名が通っているのに、気づいていない2人である。
「ユフィは病弱だし、クリスはまだ表に出てこない。ということは、お前が爵位を継承すると思っている奴もいるんじゃないか?」
「……マジで?」
もちろん、エドワードの予想だが、大いにありうると思う。リアノーラは社交界に出る前から美貌と博識で知られたが、クリストファーにはそれがない。リアノーラのように振る舞いが派手ではないからだ。
それに、息子がいても優秀な娘が婿を取って爵位を継ぐということはないわけではない。実力主義のフェアファンクス公爵家だ。魔法剣士であるリアノーラに爵位が行くと思われていても仕方がないのではないだろうか。
「……俺が言うのもあれだけど、お前、早めに婚約した方がいいと思うぞ」
リアノーラはエドワードがリアノーラを愛していることを知っている。だから、こういうことを言うのは気が引けるが、お家の危機である。16歳で成人しているリアノーラは、いつでも結婚できる年齢になったのだ。
「私よりフィーアが何とかした方がいいと思うけどね」
相変わらず小憎たらしい娘だな。
「まあ、たとえお前が爵位を継いでも、相手の思い通りになるとは思えねぇけど……」
「当然ね」
だから、その自信はいったいどこから湧いてくるんだ。エドワードにも半分ほど分けてほしいものである。まあ、彼女の場合、自分を護るための虚勢であることが多いのだが。
「……でも、そうね。もし、ホントにやばいなってことになったら、エドは私をもらってくれる?」
今度はエドワードがこけかけた。何もないただの廊下だったので、エドワードの方がかっこ悪いかもしれない。
「……そうだな。考えとくよ」
エドワードは慎重に返事をした。2人とも貴族だ。あっさりと承諾するわけにもいかない。冗談ともとれる会話から、上げ足を取られることは多いのだ。
目的地であるナイツ・オブ・ラウンドの事務室からはなぜか笑い声が聞こえた。リアノーラの顔がさっと青ざめる。
「……嫌な予感」
リアノーラの嫌な予感はよく当たる。リアノーラは勢いよく扉を開いた。中にいた人たちの顔が一斉にこちらを向く。
「ああ、久しいな、リア!」
「……! なんでこんなところにいるのよ!」
リアノーラが指を突きつけた相手は、騎士をしているのなら顔くらい見たことがあるだろう60代前半ほどの白髪の男性だ。精悍な顔に飄々とした笑みを浮かべている。ゲイブリエル=フェアファンクス。それが彼の名だ。名前の通り、リアノーラの祖父にあたる。つまり、ウェンディにとっても母方の祖父だ。
何となくアルヴィンと顔立ちが似ているから、血縁であることは彼を知らない人でもわかるだろう。ただ、浮かべる表情が違うのである。
「ははは。私に会えてそんなにうれしいのかね? まったく、かわいい子だな。ははは」
「うるさいわよ! いい年こいて何言ってるのよ!」
「何言ってるんだ。男は永遠に少年だぞ」
「息子を見習えよ! っていうか、つっこみ! 誰かもっとツッコミ要員を!!!!」
ゲイブリエルとリアノーラのやり取りでやかましさは倍増である。リアノーラはゲイブリエルを苦手としているようだが、一つ言わせていただく。
「リア。お前の性格はゲイブリエル様譲りだな」
「黙りなさい!」
リアノーラが繰り出した拳を受け止める。自覚はあるようで、顔が真っ赤である。エドワードはにやりとする。
「ま、いいんじゃないの。かわいいし」
子供にするように頭をなでると、手を払いのけられた。頬が膨れている。なんだかんだ言って、彼女もまだ子供なのだ。
「なんじゃ。リア、彼氏か?」
「ち、が、う!」
そんなに全力で否定するなよ。悲しくなるだろ。そこに、ウェンディがいらない情報を提供する。
「両思いなんだけど、お互いに意地っ張りなのよ。早くくっつけって感じよね~」
エリスとアンドリューが深くうなずいた。年長組は賢明にも我関せずと微笑んで見守っている。いやおうなしに巻き込まれたエドワードはリアノーラを見下ろした。
「うるさいわよ、ウェンディ!」
「リア、いったん落ち着け!」
とりあえず、ご乱心のリアノーラを羽交い絞めにした。
間。
リアノーラが落ち着いたところで、話が再開した。
「で、おじい様、何しに来たの?」
「お前の質問に答えに来たんだよ」
「手紙で十分でしょう。というか、質問した覚えもないわね」
リアノーラが言い切った。相変わらずゲイブリエルはにこにこしている。彼と相対していると、リアノーラがアルヴィンの娘なのだと痛感した。
「ほら、お前、フェナ・スクールの建物がだれの屋敷だったか知りたがっていたらしいだろう」
「あ~、そう、そうね。でも、おじい様に話した覚えはないわよ?」
それはそうだろう。ゲイブリエルは、引退してからずっとフェアファンクス公爵家の領地に引っ込んでいる。めったに王都には出てこないのだ。リアノーラが手紙で知らせるとも思えない。
「アルから手紙が来たんだな。反抗期のお前とは違って、アルは頼むべきものを知っている」
「……」
リアノーラが半眼になった。ちょっと彼女がキレるのもわかるかもしれない。隣でウェンディが笑っていれば、なおさら。気持ちはわかるが、エドワードはリアノーラをおさえにかかった。暴れられてはたまらない。というか、これは彼女、暴れるな……。
「……にしても、行動が速いじゃない。お父様が手紙書いたの、多く見積もっても5日前でしょう」
リアノーラがフェナ・スクールの屋敷って、どこの? と言ったのは約5日前だ。つまり、手紙が届いてすぐに領地を出たことになる。
「ああ。すぐに出てきたからな」
「……おばあ様に言ってきたんでしょうね?」
「細かいことは気にするな!」
ゲイブリエルが笑った。これにはさすがに、ウェンディも渋い顔をする。つまり、ゲイブリエルは自分の妻に何も言わずに出てきたということなのだから。
「……こりゃあ、おばあ様も来るわね……」
ウェンディがつぶやいた。気を取り直したリアノーラは、ゲイブリエルに尋ねた。
「それで、おじい様。あの建物、だれの屋敷だったの?」
「ああ。私の爺様が国に払い下げたんだ」
「……」
ナイツ・オブ・ラウンド全員が沈黙した。なんとなれば、ゲイブリエルもナイツ・オブ・ラウンドだった。確か、アルヴィンとダブっていた時期もあるはず……よくアルヴィンはぐれなかったものだ。いや、ぐれた結果があれなのか?
とまあ、これはどうでもいい。思わず思考が逃避しかけたエドワードは意識を現実に引き戻した。
「……でも、あの建物がフェアファンクス家のものだったという記録はないわよ」
一応、彼女も記録を調べているのか。さすがだ。エドワードも自分の家の歴史くらい調べたほうがいいのかもしれない。
「ああ。私の母方の爺様の話だからな」
「………」
ああ、腹立つなぁ。リアノーラがゲイブリエルをにらんでいる。彼女は口元をひくひくさせたが、笑みを浮かべようとして失敗したような顔をして言った。
「……おじい様のお母様って、どこの家の出身だったかしら」
ゲイブリエルはリディアの出してくれた紅茶に砂糖を入れてかき混ぜながら言った。
「ローウェル伯爵家だな」
「そんな家、あったっけ?」
ウェンディが失礼なことを言う。これでも彼女は伯爵家の娘である。
「あるよ。今では没落してるけど。社交界にはめったに出てこないから、知らなくても無理はないかもしれないけど……」
失礼なものは失礼である。エドワードはウェンディに解説を入れながら心の中でそう思った。
「そこの彼の言うとおりだ。名前なんだっけ?」
「……エドワード=リプセットです」
「席順は?」
「第4席になります」
「ほお。強いんだな」
「……はあ」
褒められてうれしくないわけではないが、フェアファンクス家の人間に言われると、馬鹿にされているような気がする。いや、フェアファンクス家の人間だからではなく、ゲイブリエルだからかもしれない。たぶん、アルヴィンに言われても腹は立たない。
「リプセットなら侯爵家だな。身分も釣り合う。リア、いいんじゃないか」
「うるさいわよ。私の縁談ならお父様に言ってちょうだい。私はお父様より強い人とじゃないと結婚しないから」
おお、と歓声が上がった。もちろん、リアノーラは冗談で言ったのだろうが、何か心にグサッと来るものがある。
「む……だとすると選択肢が」
「余計なお世話よ。いき遅れても私は生きていけるわよ。って、そんな話じゃないわよ。どうしてローウェル伯爵家は屋敷を手放したの? お金に困ってたから?」
「ああ……それが妙なんだよ」
本気で不思議そうに、しかしにやりと笑ってゲイブリエルは言う。
「当時のローウェル伯爵はあの大きな屋敷に見合わない低価格で屋敷を手放している。何か裏があると思わないか?」
リアノーラが目を閉じて何か考え込むように唇に指を当てた。
「何かいわくつきみたいなものがあって……安くたたき売ったと?」
「考えても不自然じゃないだろうなぁ」
ゲイブリエルが楽しそうにリアノーラを見る。対象的にリアノーラは真剣だ。
「やっぱり、共同墓地を掘り返しに行くべきかしら……」
「やめろ」
エドワードだけでなく、エリスとユリシーズからもツッコミが入った。リアノーラも引っ張るな。だが。
「いいな、それ」
「楽しそうね」
ゲイブリエルとウェンディは乗り気だ。ここらへん、やっぱり血がつながっているんだな。リアノーラとウェンディが従姉妹同士であると頭では理解していたが、顔立ちはあまり似ていないし、性格も違うのであまり気にしたことがなかった。
「ウェンディ、煽るのはやめなさい。ゲイブリエル殿も、いい加減になされ」
フランクリンにもついにつっこまれた。おろおろしていたリディアは目に見えてほっとした顔になる。しかし、ナイツ・オブ・ラウンドのすべてが敵にまわってもめげるような女ではなかった、リアノーラは。
「いや、むしろフェナ・スクールの地下を掘った方がいいのかしら……なんにしろ、調査がいるわね」
こうなれば、リアノーラは是が非でも調査するだろう。それにつき合わされる自分が目に見えるようだ。いやはや、これが惚れた弱みというやつか。
「……だが、リア。相手は国だぞ。お前、王族だけど、そううまくいくか? 相手は議会だ。教育省の許可がいるだろう」
ユリシーズが冷静につっこみを入れ、リアノーラの暴走を止めようとする。だが、厄介なのは、暴走していてもリアノーラの頭は正常に機能していることだ。
「そうね。難しいかもしれないけど、許可は下りると思うわ。何しろ、すでに学内で二度も事件が起きてる。教育省としても、私が調査してくれるんだったら願ったりでしょ」
だから、その自信はどこから来るんだ。
「セラ姉さんにも手伝ってほしいけど、さすがに仕事があるだろうしな……」
セレストは魔術研究家だが、それ以前にベイリアルを治める大公でもある。こうして来てくれたことが奇跡なのだ。それを、リアノーラもよくわかっている。
「セラ、頼めば手伝ってくれると思うよ?」
ウェンディがずれたことを言う。リアノーラは強烈なつっこみを入れるのではなく、穏やかに言った。
「あのね、ウェンディ。セラ姉さんはあれで大公なのよ? しかも、広大な地方を治める西の賢者だわ。責任ある人が、そう何日も領地を放っておけるわけないでしょう」
「……むう。そうか」
ウェンディがうなるように言った。それを見て、リアノーラがため息をつく。
「……ウェンディ。あなたの頭の中を1回解剖させてほしいものね」
「まさかのサディスト発言!」
「いや、私も気になる」
まさかのユリシーズの援護射撃で、ウェンディは部屋の隅っこで小さくなった。頭がいい組からすれば、ウェンディが伯爵令嬢であることを疑いたくなるのだ。まあ、教養があるのは認めるが。
話を戻して。アルビオンの西の方にあるベイリアルの地は、西の賢者と呼ばれることがある。かつて、賢者と呼ばれた人が、彼の地から多く排出されたからだ。実際、ベイリアル公は有能で頭のいいものが多い。セレストはちょっと変わっているが、聡明なのは確かだ。
「ウェンディ、元気だしなよ。勉強したいなら私が付き合ってあげるから」
エリスがウェンディの肩をたたいていた。エリスはウェンディを慰めることにしたらしい。同じく、ウェンディの側で彼女の背中をたたいていたリディアがエリスの言葉にぎょっとしている。
エドワードはリアノーラに巻き込まれる予感をひしひしと感じながら、それを眺めていた。いや、巻き込まれるのが嫌なら逃げればいいんだけど。逃げるなんて不可能だけどね……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
自分で書いていてあれなんですけど、リアはどんだけ墓を掘り起こしたいんですかね……そして、乗り気の祖父と従姉。フェアファンクス公爵家はもうだめかもしれません(笑)




