行方不明
プロットから離れすぎて、すでに原型をとどめていません。とにかく、題名通りです。
翌日、寝過ごしたリアノーラは遅刻して学校に行った。2限目の途中である。いつもならそのまま登城してしまうのだが、さすがに単位と出席日数がやばいので、遅刻でも行こうと思ったのである。というか、新学年が始まって半年もしないうちに出席日数がやばいって……泣きたい。
そして、2限目の授業の女性教官ににっこりと説教をされた。ちなみに、アルビオン史の授業である。
「リアノーラさん。たとえあなたの成績がよかろうと、あなたが宰相閣下と王女殿下の娘で公爵令嬢であろうと、ナイツ・オブ・ラウンドであろうと、それどころか王位継承権を持っていようと! 学校は出席日数と単位が足りないと進級できないのよ?」
「……ごめんなさい」
リアノーラはおとなしく頭を下げた。サディストと言われるリアノーラだが、さすがに堪えた。反論すべくもない事実だからである。
「まあ、今はごたごたしてるから大目に見てあげるけど、さぼったりしたら単位を出さないから覚悟なさい」
「……わかりました」
「よろしい。座りなさい」
教官に指示され、リアノーラは同じ授業のベアトリックスの隣に座った。
「今日はもう来ないかと思ったぞ」
授業を開始した教官をしり目に、ベアトリックスはこそこそとリアノーラに話しかけた。リアノーラはあいまいに笑む。
「さすがに出席日数が危機なもんで……」
「ああ……確かになぁ。ま、頑張れ」
ぽん、とベアトリックスが机の下でリアノーラの膝をたたいた。
「で、話が変わるけど、祥子を知らないか?」
唐突のことに、リアノーラは目をしばたたかせる。
「……私、今来たところだから今日は会ってないわ」
「そうか……」
リアノーラの返答に、ベアトリックスは難しげな表情になる。リアノーラはちょっと不安になった。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや……私たちも今日は見てないから。休みかな」
「祥子が? 珍しいわね……」
祥子という少女はまじめだ。めんどくさい~、と言いながら学校に出てきて、試験ではそこそこ頑張りいい点数を取ってしまうような少女だ。学校を休んだことはほとんどなかった。だからこそ、心配になる。
「寒いから、風邪でも引いたのかしら。ユフィはこの時期になると体調崩すんだけど」
実際に今日も登校していない。出席日数だけで言うなら、ユーフェミアのほうがあぶない。
「まあ、ユフィさんだからな。……風邪ならいいが、もしも誘拐とか、連続殺人とかに巻き込まれてたら……」
ベアトリックスは意外に心配性だ。そういうのに巻き込まれた時、護るのは自分の役目だと認識しているのかもしれない。もちろん、リアノーラ以外の2人を、だ。
「……ま、こっちでも確認とってみるから、あんまりしょんぼりしないで」
貴族などの要人だと情報が集まりやすいのだが、祥子は普通の一般市民だ。彼女の動向を探るのは難しいだろう。リアノーラやベアトリックスなら1日の行動を監視されていたりするのだが。こういう特別扱いはやめてほしい。正直、うざい。まあ、リアノーラに関しては仕方のない部分もあるのだが。
午前中の授業を終えて食堂に行くと、そこでアレクシアと出会った。アレクシアは前の時間、祥子と同じ授業のはずだが、一人だった。
「あれ、リア、来てたのね。……ねえ、祥子知らない?」
「……本当に来ていないのか……」
リアノーラが顔をしかめる。ベアトリックスがうそをついているとは思わなかったが、祥子が学校をさぼるというのが理解できない。教官に聞いても、連絡は入っていないという。
「平気でサボるリアとはわけが違うからな……」
「……なんか引っかかるものがあるけど、それもそうね」
リアノーラは無断欠席が多い。そして、放課後に宮殿から連絡が行く。最近はそのパターンが多かった。
「……帰りに、祥子のうちに行ってみよっか」
アレクシアが提案した。ベアトリックスがうなずく。
「そうだな。リアはどうする? 仕事?」
「私は宮殿の方で聞いてみるよ。まあ、収穫ないだろうけどね……」
それでも、しないよりはいい。みんなで同じところに行くのはばかげている。
暖かい紅茶を飲んでいたアレクシアは、ふと思い出したようにリアノーラの方に顔を向けた。
「ねえリア」
「ん?」
「祥子がストーカー被害にあってたの、知ってる?」
「ふうん……ん!?」
今、聞き捨てならないことを聞いたような。
「……今、なんて言った?」
「祥子が、ストーカーにあってる」
アレクシアが冷静に言う。リアノーラは顔をひきつらせて尋ねた。
「……マジ?」
「大マジ」
アレクシアが真剣な表情でうないずいた。知らなかった。不覚である。リアノーラは唇の端をひきつらせて、グラスの中のジュースを飲み干す。
「だからベリティがあんな突拍子もないようなことを心配してたのね……でも、そっか。家にも帰ってなかったら、被害届を出しましょうかね」
リアノーラはそう考えていた。職権乱用だが、リアノーラの友人だと言えば捜査にも身が入るだろうし、リアノーラ自身が若干の探査能力を持つ。地道に調べていけば、たぶん、見つかる。
そう思っていたが、事態はリアノーラ自身も思わぬ方向に進んだ。
* + 〇 + *
突然、ナイツ・オブ・ラウンドのミーティングルームに飛び込んできたのは宰相のアルヴィンだった。娘のリアノーラではあるまいし、ノックもないのは珍しい。
エリスの隣で資料を広げていたリアノーラが驚いたように言った。
「お父様。どうしたの?」
アルヴィンは自分の下の娘を見つめると、尋ねた。
「リア。ユフィを知らないか?」
「家で休んでるんじゃないの?」
「ディアナから連絡が来た。いなくなったらしい」
「はあっ!?」
リアノーラが素っ頓狂な声を上げた。ソファから立ち上がってアルヴィンのほうに歩いていく。近くにいたウェンディが歩み寄ってきた。
「ユフィがいなくなったの? 大丈夫かしら」
「どうしたんだろうね……」
心配する同僚をよそに、フェアファンクス父娘は情報交換を続ける。
「お前がユフィを最後に見たのは?」
「今朝の9時くらいかな。学校行く前。寝坊したんだよね」
どうやら、リアノーラは学校に遅刻していったらしい。彼女、学校を卒業できるだろうか。少し心配になるエリスだった。
「そういうお父様は?」
「私はそれより前、7時くらいだな。ディアナは昼食を一緒に撮ったといっていたから、それ以降か……」
今は夕刻。時計を見ると午後5時だった。冬の王都ロザリカの夜は早い。午後3時くらいになると、すでに真っ暗だ。
冬になると、長い夜に乗じて犯罪が多くなる。騎士団や軍部では、毎年この時期になると治安問題に対する対策が取られる。しかし、まだ十分ではない。
「どちらにしろ、一度家に戻るぞ」
「了解。ってか、お父様、仕事はいいの?」
「それは君もだよ、リア」
このまま屋敷に帰ってしまいそうなリアノーラに、エリスはツッコミを入れた。リアノーラは「ああ、そうか」とうなずく。それからエリスを振り返った。
「下城したいんだけど。フランクリンさんかユーリさんに許可もらえばいいのよね?」
「そうだよ。ユーリさんは今日は非番。フランクリンさんは陛下のところって言ってたかな」
「ちょうどいい。下城の許可をもらいに行こう」
エリスの言葉を聞いて、アルヴィンはさらりと言った。ああ、そうなることはわかっていたよ。
「じゃあ、ごめん! エリス、ウェンディ! 先にあがらせてもらうわね!」
「うん。いってらっしゃい」
「私もついて行っちゃダメ?」
「ダメ」
ウェンディがしょんぼりした。エリスはそのままフェアファンクス父娘について行きそうなウェンディを引き留めた。
「ああ……楽しそうなのに」
「何を言ってるんだよ、君は。楽しくないよ」
エリスは苦笑いを浮かべてツッコミを入れた。ウェンディは戦いたいだけだ。一緒にいて気づいたのだが、彼女は脳筋である。
「おい。今しがたアルとリアが下城したが、何かあったのかの」
しばらくして、フランクリンがやってきた。どうやらリアノーラに下城の許可を与えたらしい。
「リアと宰相がそちらに行きませんでした? 話、聞いてないんですか?」
「ユフィがいなくなったとは聞いたのぅ」
「じゃあ、そのまんまの意味ですよ。2人とも、そのままユフィを探しに行く気じゃないですかね」
「探しに行くなら、私も連れて行ってくれればいいのに……」
ウェンディがため息をついた。あたかも恋する乙女のようなため息だが、彼女の場合は戦いたいだけである。本当に脳筋だ。
「まあ、許可したわしに言えることではないが、2人はこの国の宰相と王族なのだがのう」
「あ、やっぱりリアとユフィは王族の扱いなんですか?」
「陛下が王女だといえば王女扱いになる。そうでなければただの公爵令嬢扱いじゃな。それでも、王族の一員として数えられることの方が多いかの」
平民出身の騎士侯であるエリスからすれば、公爵令嬢でも高嶺の花である。ナイツ・オブ・ラウンドになる前、リアノーラはレディ・リアノーラと呼ばれていたそうだ。しかし、最近はサー・リアノーラと呼ぶ人の方が多い。というか、平民のエリスには身分制度による呼称の変化がいまいち理解できていなかった。
「2人とも、いなくなったらまずいですよね。もちろん、ユフィもですけど」
リアノーラもユーフェミアも王位継承権を持つ。先王、先々王の子供が少ないため、王位継承者は少ない。それに、アルヴィンはこの国の宰相だ。議院内閣制をとっているとはいえ、宰相がいないと立ち行かないこともある。次の宰相を選ぶまで、時間がかかることも関係している。
「でもまあ、リアと叔父上ならケロッとして帰ってくるよ。ユフィはただ散歩しに行っただけかもしれないし」
ウェンディが前向きに言った。能天気なところもあるが、基本的に空気の読めるウェンディだった。エリスは「そうだね」と微笑んだ。
「最近は物騒だからの。巻き込まれておらねばよいが」
ちょうどフランクリンがそういったとき、今度は私服のユリシーズが乱入してきた。宮殿内を走ってきたらしく、息が上がっている。彼はぐるりと室内を見渡すと、言った。
「リアは!?」
「下城したわよ」
ウェンディが落ち着いて答えた。 今、この部屋にはエリスとウェンディ、フランクリンの3人しかいない。ちなみに、リディアとエドワードは非番、アンドリューはチャールズ4世のところだ。フランクリンは彼をおいてきたようだ。
リアノーラがすでに宮殿にいないことを聞き、ユリシーズは愕然とした。
「なんだと!? まさか、すでに祥子を探しに行ったのか!?」
「探しに行ったのはユフィだよ。え、祥子ちゃんがどうしたの?」
エリスはツッコミを入れてから、ふと気になって尋ねた。祥子・南条はリアノーラのフェナ・スクールでの友人だ。なぜ突然彼女が出てくるのだろうか。
「さっきベリティが帰ってきてな。祥子が行方不明だと」
「え。祥子って、あの祥子よね。リアの友達で、黒髪のヤマト人の」
ウェンディが確認するように尋ねた。祥子というのは東洋系の名前だ。アルビオンに祥子という名前の少女は、その子ぐらいだろう。
「リアが言っていなかったか? というか、ユフィも行方不明なのか?」
「うん。宰相が飛び込んできて、リアを連れて屋敷に戻ったよ」
エリスがうなずくと、ユリシーズは「どれくらい前の話だ」と尋ねた。
「えーっと、1時間くらい前かな」
「なら、もう屋敷を出ているだろうな……」
ユリシーズが考え込むように顎に指をあてた。エリスたちはしばらく考え込むユリシーズを見つめた。
「……とにかく、私たちは何をするにも陛下の許可が必要だな」
「まあ、宰相がいなくなってるからね」
エリスがそう切り返した。次に言うことがわかる気がした。
「ちょっと陛下のところに行ってくる」
……言うと思った。
* + 〇 + *
登城していたはずの父と下の姉が帰ってきた。クリストファーは母のディアナとともにエントランスまで迎えに行く。2人は頭に雪を積もらせていた。母ディアナが2人に駆け寄る。
「まあっ。2人とも、早かったわね!」
「ユフィがいなくなったといったのはお前だろう」
「屋敷の中は探した? 敷地内は? ユフィが行きそうなところにも確認はとったの?」
父アルヴィンと下の姉リアノーラは冷静だった。リアノーラの畳み掛けるような問いに、クリストファーは答えた。
「屋敷の中も敷地内も探したよ。行きそうなところにも確認をとってみたけど、いなかった。っていうか、リアならいるか魔術でわかるんじゃないの?」
「それもそうね」
リアノーラが目を閉じてこめかみに指先を当てた。しばらくして首を左右に振る。
「ダメね。いないわ」
「そんなっ」
ディアナが悲鳴を上げる。悪気がないところが一番悪いといわれるディアナでも、やはり自分たちの母親なのだな、とちょっと思ったクリストファーだ。
「とにかく、中に入ろう」
アルヴィンが促して、エントランスから一番近い来客用の部屋に入った。アルヴィンとディアナが隣り合って座り、その向かいにクリストファーとリアノーラが座る。メイドが温かい紅茶を入れてくれた。
「それで、ユフィがいないと気付いたのはいつだ」
「クリスが帰ってきてすぐだから、4時くらいかしら。少なくとも、お昼にはいたわ」
「どこかに1人で出かけたのか?」
「まさか。リアじゃないんだから」
「ちょっと」
リアノーラが不満そうにツッコミを入れたが、両親はそれをスルーする。
「使用人に話は聞いたか? 何か不自然なことはないか?」
「不自然なこと?」
ディアナはクリストファーのほうを見た。いや、見られても困る。ずっとこの屋敷にいたのは母のディアナだけなのだから。
「……そういえば、使用人の1人が買い物から戻らないって、ブリジットが言ってたわ」
ブリジットはこの屋敷のメイド頭だ。ディアナの言葉を聞き、アルヴィンとリアノーラが唐突に立ち上がる。
「それだな」
「それね。ああ、そういえばお父様。私の友達の祥子も行方不明なのよ。学校にも出てこなくて、家にも帰ってないらしいわ」
「……魔法陣関連の事件に巻き込まれたか?」
「ちょうどあと2人分だものね」
表情なく話し合う父と姉は、よく似ていた。普段、リアノーラはにこにこしていて、あまりアルヴィンに似ているとは思わないのだが、この時は確かにそっくりだと思った。
「2人が一緒にいるのなら、2人とも助けだすことは可能だな?」
「当然。私を誰だと思ってるのよ」
そういってリアノーラが暗く笑った。クリストファーは身震いする。この2番目の姉が怖い、と思った。
そもそも、最近続いている連続魔法陣殺人事件にユーフェミアと祥子を結びつけるのは早計だ。
「ま、待ってちょうだい! 居場所がわからないわ!」
ディアナが立ち上がり、あわてて止めに入るが、リアノーラは落ち着いて言い切った。
「ユフィが私の上げた魔法陣を持ってるわ。その魔法陣を追えば、見つかる」
難しいかもしれないけど、とリアノーラは肩をすくめた。ディアナが唇をかみしめる。
「でも、あなたたちがいなくなったら、わたくし……っ」
ディアナの碧眼に涙がたまる。彼女の心からの訴えに、リアノーラとアルヴィンはばつが悪そうにうつむいた。
5年前、リアノーラとアルヴィンはかどわかされたことがある。正確には誘拐されたリアノーラを、アルヴィンが単独で追ったらしいが、捕まってしまったらしい。幼かったクリストファーには詳細が伏せられており、詳しいことはわからない。しかし、その事件の後すぐに、アルヴィンはナイツ・オブ・ラウンドをやめてしまった。
その時の状況に、この状況は似ていた。いなくなったのはユーフェミアだが、あのときと同じく、アルヴィンはユーフェミアを追おうとしている。
「……お母様。5年前とは違うわ。私も一緒だもの」
「リア」
「大丈夫よ」
リアノーラはディアナに笑ってみせると表情を消し、アルヴィンを見上げた。
「お父様は来なくてもいいのよ」
「それこそ、私の二の舞だろう。1人より2人のほうがいい」
「……念のため聞くけど、腕は鈍ってないわよね?」
「お前たちを鍛えたのは誰だと思っている」
「ええ、そうよね。わかってたわ」
2人はそんなことを言いあいながら出ていく。支度をしに行くのだろう。クリストファーはディアナのそばに寄った。
「ねえ母上。泣かないでよ」
「クリス……」
「大丈夫だよ。父上とリアならケロッとして帰ってくるよ。きっとユフィも一緒だよ」
「そう……ね」
ディアナは微笑むとクリストファーを抱きしめた。
「そうよね。ありがとう、クリス」
* + 〇 + *
「エドワードー? お友達がいらっしゃってるわよー」
部屋の外から呼ぶ声が聞こえた。非番だったエドワードは王都ロザリカにある自宅にいた。つまり、リプセット侯爵家の屋敷だ。リアノーラたちが暮らすフェアファンクス公爵邸より奥まったところにあり、実はフェナ・スクール高等部から近い位置にある。
とりあえず自室から出ると、そこには女性がいた。年は30代半ば。美しい赤い髪に淡い紫の瞳の美しい女性だ。
彼女はポーラ=リプセット。エドワードの継母にあたる。つまり、父であるリプセット侯爵の後添いだった。
エドワードの生母は、彼が7歳の時に病で亡くなっている。当時のエドワードはあまり体が強くなく、兄弟もいなかった。先行きに不安を感じたリプセット侯爵が後妻をめとったのは当然の成り行きといえよう。エドワードが8歳の時だ。
父と継母は恋愛婚らしい。よくわからないが、父によると「あれは運命の出会いだった……」らしい。そのあとに、「もちろんお前の母も愛しているぞ」と言っていたが。
当時8歳のエドワードは、何となく言いようのない不安を感じたものだ。それとも、戸惑いだろうか。突然紹介されたポーラが「お前の母親になる」と言われてもどうすればいいかわからなかった。当時ポーラは22歳。結婚した相手に8歳の子供がいて、彼女も戸惑ったことだろう。いきなり母親になってしまったのだから。
しかし、彼女は笑って言った。
『私はポーラっていうの。お母様のことが忘れられないなら、私のことはポーラって呼んでもかまわないわ。それは仕方がないことだもの。でも、私にはあなたに母親らしいことをさせてほしいの。ダメかなぁ』
今思うと、ポーラはとてもよくできた女性だと思う。そのセリフの後、『関わってほしくないなら、そうするわ』とも言った。ポーラがそういってくれたから、エドワードはポーラを『継母』と呼べた。生みの親のことを忘れなくてもいいのだ、今まで通りでいいのだと感じた。
その後の生活がエドワードの生母が生きていた時と同じかはともかく、エドワードは血のつながらない母親であるポーラとは割とうまくやっていた。ポーラが生んだ腹違いの3人の弟妹達はかわいらしいし、エドワードも丈夫になった。リプセット侯爵はほっとしていることだろう。
その話はさておき。
「友達って誰ですか?」
「んんー? 黒髪の女性よ。恋人?」
「名前くらい聞いといてくださいよ、継母上……。黒髪の女性? こんな時間に尋ねてくる非常識な黒髪の女性に知り合いはいませんが」
時計を見ると、午後の7時半である。非常識は言いすぎだが、たいていの家は食事中である。しかし、この家は子供が多いので、食事は6時半からなのだ。
悪気なさそうに非常識なふるまいをする女性の知り合いは何人かいるが、黒髪の女性はいない。ナイツ・オブ・ラウンドの従姉妹同士である某女性騎士2人を思い出したエドワードははっとした。
「……やはりお前か、エリス」
「え。何の話?」
外套を着たエリスは話が見えずにぽかんとした。超絶美人顔のエリスを見て、ポーラが楽しげに笑っている。
「きれいな子ね」
「? ありがとうございます……」
エリスが首をかしげながらも礼を言った。エリス=ハミルトンは紛れもなく男性だが、中性的な容姿をしているため女性に見られることが多かった。実際に、女装したこともある。ポーラはエリスを見て女性だと思ったようだ。
まあ、それはともかく。
「こんな時間にどうした?」
「うーん。ちょっと問題が発生してね」
「陛下に何かあったのか?」
「違う違う。別口だよ。とにかく一度登城してほしいんだ」
「今からか?」
「今から。ああ、私服でいいよ」
エリスは邪気なさそうに笑って言った。ポーラがあら、と頬に手を当てる。
「エドワード、宮殿に行くの? アメリアが今日はあなたに本を読んでもらうって、楽しみにしてたわよ?」
「すみません。なだめておいてください。アメリアももう11ですから、わかってくれるでしょう」
「そうよね、仕方ないものね。気を付けて行ってくるのよ、エドワード。無理しないように」
「わかりました」
エドワードは微笑み、ポーラの見送りを受けて屋敷を出た。
「さっきの人、母君? あまり似ていないね」
移動の馬車の中で、エリスが言った。リプセット侯爵が後添いをめとった話は結構有名なのだが、平民上がりでつい3か月前にナイツ・オブ・ラウンドになったばかりのエリスは詳しい事情を知らないようだった。
「さっきのは俺の継母。父上の後添いだな。俺は生みの母に似ているらしいから、父上にも継母上にも似ていなくて当然だ」
「うっわ。君、結構複雑な家庭だったんだ」
「そうか? 貴族ではあまり珍しくないぞ。そんなに関係は悪くないし」
「そうみたいだけどさ。まあ、複雑だよね」
「それはな。というか、こんな時間に呼び出しておいて、何の用だ?」
エドワードは本題を尋ねる。こんな時間に呼び出すとは、ただ事ではない。しかし、チャールズ4世には異常がないという。エリスはにこにこ笑って言った。
「それがさぁ。フェアファンクス父娘がちょっとね」
何となく嫌な予感がしたのは気のせいではないと思う。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
わかったと思いますが、私はアルヴィンとリアの父娘の絡みが好きです。手前味噌ですが、かわいいのです。この2人なら、城ひとつくらいなら落とせる気がしないでもない。
そして、エドワード……こんなに複雑な家庭にする気はなかったんですけど。この家庭に育ちながら、ぐれないエドワードはすごいと思います。リアのほうがよっぽどぐれてますね……。




