第7話 特大下駄箱の完成
数時間後。玄関ホールには、結衣が選んだ薄く白い木材で組み上げられた、天井近くまで届く特大の下駄箱が鎮座していた。
規定よりはるかに短いネジで無理やり固定されているため、ところどころ接合部が浮き、全体的にわずかに歪んでいる。しかし、凛が至る所に貼り付けた可愛らしいシールや、女性陣の華やかなパンプスやスニーカーが並べられると、不思議と明るくお洒落なインテリアのように見えた。
「うん、完璧! 玄関が一気に明るくなったね!」
美月が満足げに手を叩く。
そこへ、彩夏が両手で抱えるようにして、大きな陶器の鉢植えを運んできた。
「あのね、玄関の風水を良くするために、観葉植物を置きたいんだけど……あ、ここがいいかな」
彩夏は、ドはまりしているスピリチュアルな導きに従うように、下駄箱の一番上の段、それも右端の角へと、たっぷりと水を含んだ重い土の鉢植えをドンと置いた。
薄い天板がミシリと小さな悲鳴を上げたが、和気あいあいとした女性たちの話し声にかき消されて誰の耳にも届かない。ただでさえ不安定な造りであるにもかかわらず、極端に偏った重心が、短いネジの噛み合わせに致命的な負荷をかけ始める。
「あ、ウチもちょっといい?」
続いて美月が自室から持ってきたのは、黒光りする四つの重い鉄アレイだった。
「ウチ、これ最近買って健康のために筋トレしてんだけど、みんなも使っていーよ。一番上に置いとくね」
美月は一切の悪気なく、本来ならば一番下の安定した場所に収納すべき重い鉄の塊を、あろうことか一番上の段の中央付近に並べてしまった。
彩夏の鉢植えと、美月の鉄アレイ。強度の弱い薄い板と、抜けやすい短いネジで作られたグラグラの塔の頂上に、信じられないほどの重しが乗せられたのだ。
それでも、彼女たちの目には「可愛らしくデコレーションされた便利な自分たちの棚」にしか映っていなかった。
「よし、完成記念にみんなで写真撮ろう!」
結衣がスマートフォンを構え、セルフタイマーをセットして駆け寄る。
わずかな振動で今にも崩れ落ちそうな凶器の前に、女性たちが肩を組んで密集した。
「いくわよー、ウチらマジ匠! はい、チーズ!」
パシャリ、とフラッシュが焚かれる。
画面に収められた彼女たちの笑顔には、一点の曇りもなかった。互いを思いやり、無知ゆえの善意と眩しいほどの団結力で素晴らしいものを作り上げたという、純粋な達成感と幸福感だけがそこにあった。
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手作りの下駄箱が完成した夜。
リビングルームの中央にある大きなソファでは、心地よい疲労感に包まれた女性陣がくつろいでいた。テーブルには、結衣が手間暇かけて作り上げたハーブティーと無添加の焼き菓子が並べられている。
「あー、今日はよく働いた! 結衣さんの手作りお菓子、本当に体にしみるー」
夜職に出勤する前の杉浦玲奈が、クッキーをかじりながら気怠げに笑う。
その横で、琴音がノートパソコンを開き、真剣な表情でキーボードを叩いていた。
「さて、園美さんが退室された空き部屋の、新しい入居者の募集要項を作成しています。家賃の維持のためにも、早めに決めたいところですね」
「そうだね。どんな人が来てくれるか、すっごく楽しみ!」
結衣がティーポットを傾けながら、目を輝かせる。
「やっぱり、私たちみたいに明るくて、協調性がある人がいいわよね。今日のDIYみたいに、何でも一緒に楽しめるような!」
結衣の言葉に、五十嵐葵も深く頷いた。
「間違いないね。誰かが疲れていたら助け合えるような、そういう思いやりがある人が一番だよ」
このシェアハウス「シェアスマイル」の最大の魅力は、住人同士の強固な団結力と、家族のような温かい人間関係にある。彼女たちは今のこの「完璧な空間」を乱さない、善良な仲間を求めていた。
「ええ。ですから、事前の面接は非常に重要になります」
琴音が中指でスッと眼鏡のブリッジを押し上げながら、募集サイトの入力欄を埋めていく。
「条件や経歴などの表面的なデータだけでなく、実際にお会いして、少しお話しする時間を必ず設けましょう。先ほどの組み立ての時にも言った通り、最終的に頼りになるのはお互いの『フィーリング』が合うかどうか。それがこの家でうまくやっていくための、絶対条件ですからね」
「賛成! 直感って大事だもんね。良いご縁の波動を持った人が来てくれるといいなあ」
彩夏が胸の前で手を組み、見えない運命の糸に祈るように微笑んだ。
「みんないい人だから、絶対すてきなお友達が来るよ!」
凛が無邪気に笑い声を上げ、リビングは温かな期待と希望の空気に包まれた。
新しい出会いが、さらにこのシェアハウスを明るくしてくれる。
誰もがそう信じて疑わなかった。
そしてこのとき、致命的なミスを犯してしまっていたことを全員が見逃していた。それは、女性限定という文字を入力し忘れたことだ。
それにより、玄関ホールで彼女たち自身の無知と過信によって生み出された「最悪の凶器」が、静かに、そして確実に新たなる入居者がその下に足を踏み入れる瞬間を待ち構え、最悪な地獄へと奉り上げようとしていた。




