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愛を捨てし軍神の娘は、魔王に堕つ ―十一歳、上杉兼継 覚醒―  作者: 竜太郎


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第80話 春泥の帳面

夜。


越後。


灯りが、小さく揺れていた。


障子の隙間から、まだ冷たい風が入る。


兼継は帳面を見ていた。


指先に墨。


紙の端は湿気で少し波打つ。


米。


塩。


薪。


干し魚。


冬を越えた村。


届いた村。


届かなかった村。


「……北村か」


小さな声。


家臣が膝を進める。


「雪崩で道が崩れまして」


兼継は少しだけ沈黙した。


戦なら終わりがある。


敵を斬る。


城を落とす。


だが。


国は終わらぬ。


腹は減る。


寒さは来る。


病も待たぬ。


毎日。


少しずつ。


人は削られる。


「春前に倉を増やせ」


家臣が顔を上げた。


「遠村から積め」


短い命令。


怒鳴らぬ。


威張らぬ。


それでも皆が急ぐ。


止まれば。


崩れる。


それを知っていた。


兼継は灯を見た。


揺れる火は、小さい。


だが。


消えていなかった。


(次話へ)


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