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第7話 「崩壊の報」

重い沈黙が、陣を覆っていた。

朝倉の本陣。


誰も、口を開かない。


机の上には、一枚の紙。


「……壊滅」


その二文字だけが、すべてを語っていた。


「……何だ、これは」

将が、低く呟く。


「一万だぞ」


声に、わずかな怒りが混じる。


「千に、負けるはずがない」


当然の理屈だった。


だが。


現実は、違う。


「……報告では、火攻めと」


「それだけで壊れるか」


否定する。


だが、否定しきれない。


「……陣が分断されたとあります」


「分断?」


将は、眉をひそめる。


「なぜ、そんな場所に入った」


誰も答えられない。


「……誘導、されたと」


空気が、止まる。


「誘導……だと」


あり得ない。


そう思う。


だが。


「地形、風向き、進軍速度……すべて読まれていたと」


言葉が、重く落ちる。


将の指が、わずかに震える。


「……誰だ」


それは、怒りではない。


理解できないものへの、恐怖。


「誰が、そんなことを」


沈黙。


そして。


「……上杉の、新当主」


その名が、初めて出る。


「名は――兼継」


違和感が走る。


「……女、だと聞いたが」


「はい。十一歳の少女」


笑う者はいない。


笑えない。


「……冗談だろう」


そう言うしかない。


だが。


机の上の紙は、現実だ。


「……生存者は」


「ごく僅か。ですが――」


言葉が、止まる。


「言え」


「……“見えなかった”と」


空気が、さらに重くなる。


「……何がだ」


「敵が、です」


意味が分からない。


「気づいた時には、もう遅かったと」


説明になっていない。


だが。


それが、すべてだった。


「……戦っていない、ということか」


誰かが、呟く。


「戦う前に、終わっていた……」


それは、あり得ない。


あり得ないが。


起きている。


「……馬鹿な」


将は、紙を握り潰す。


「そんなものが、存在するか」


叫びに近い。


だが。


誰も、否定できない。


「……他国は」


別の声。


「すでに、動いております」


「……何だと」


「上杉の異変。広まりつつあります」


速い。


異常なほどに。


「……止めろ」


思わず、言葉が出る。


「広まる前に、潰せ」


だが。


その言葉には、力がなかった。


なぜなら。


誰もが、分かっている。


「……無理だ」


小さな声。


だが、真実。


「すでに、一度……」


間。


「負けている」


沈黙。



その頃。


越後。


城の上。


風が、静かに流れる。


その中で。


上杉 兼継は、ただ立っていた。


「……広まったか」


誰に言うでもなく、呟く。


「はい。各地に」


家臣の声。


「恐怖として、でございます」


当然だ。


そうなるように、動かした。


「……ならば、次だ」


迷いはない。


「恐怖は、使う」


それが、支配の形。


「戦う前に、勝て」


短い命令。


だが。


それだけで、十分だった。


「……御意」


誰も、疑わない。


疑えない。



空は、晴れている。


だが。


戦国の空気は、変わった。


目には見えない。


だが、確実に。


何かが、始まっている。


「……魔王」


誰かが、遠くで呟いた。


その言葉は。


もう、止まらない。


広がっていく。


恐怖と共に。



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