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第306話「島津の雪煙」
薩摩国、鹿児島城。
中央の混沌から隔絶された九州の南端では、島津が冬の寒さの中で牙を研ぎ続けていた。
島津貴久、四十六歳は、雪煙が舞う庭で、黙々と木刀を振るう息子たちの姿をじっと見つめていた。
中央の織田による火力の蓄積、武田の南下、そして北の上杉による情報の網。
遠い地の出来事でありながら、その圧力の変化は確実にこの地にも伝わり、内に圧縮されていた。
「戦国は、天下を取る物語ではない」
貴久の言葉に、長男の島津義久、二十六歳が木刀を止め、鋭い視線を向けた。
「では、何のために我らは牙を研ぐのですか」
「統治を維持する構造記録。越後の十四歳は、世界をそう見ている。面白い見方よ」
島津は終盤圧縮装置である。
局地戦における圧倒的な戦闘力は、どのような精緻な構造をも一撃で粉砕するトリガーとしての強度を秘めていた。
しかし、彼らはまだ動かない。
「我らは、最後に動く」
貴久は冷たく言い放った。
義久は黙って頷き、再び木刀を振り下ろした。
外周の変数は、まだ静かに眠っている。
しかし、その絶対的な軍事圧力の存在自体が、将来の全面戦争における最大の不確定要素として、世界の状態を均衡前夜の緊迫感の中に留めていた。




