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第290話「信長の再配置」
尾張国、小牧山城。
織田信長、二十六歳は、新しく編成された鉄砲隊の演習を視察していた。
楽市によって膨れ上がった銭は、絶え間なく堺から火薬を運び込み、織田の軍事圧力を最大化し続けていた。
信長が進めるのは、旧来の権益の徹底的な破壊と、それによる新たな統治構造の強制的な配置である。
立ち止まることは、この巨大な破壊装置の停止を意味していた。
「武田が駿河へ本腰を入れて動き出しました」
丹羽長秀、二十五歳が、飛び込んできた報せを信長に伝えた。
信長は不敵に笑い、手にした鞭を鋭く鳴らした。
「信玄の老いぼれも、内の渇きを外の海で潤すしかなくなったか。結構なことよ」
信長の狙いは、周囲が互いに圧力を相殺し合い、構造を疲弊させることにあった。
敵を殺しすぎる必要はない。
均衡が崩れたその瞬間に、最大の火力を一点に集中させ、世界を再編する。
「北の若造は、相変わらず籠の鳥か」
信長は北の空を一瞥した。
戦を避けて数字を積み上げる越後のやり方を退屈だと笑いながらも、その動かない壁の不気味さを、信長は肌で感じ取っていた。
破壊の永久機関は、次の変化の瞬間を待ちながら、さらに激しくその心臓部を拍動させていた。




