強さ
食事が終わって、シンクに食器を運んだらすぐに家を出た。
二回目の外出だったが、驚きが枯れることはなかった。
やはりフィクションでよく出てくる亜人そっくりの人たちがいた。
彼らの中には梟を肩に乗せていたり、狼を連れている人もいて怖かった。
だが特に異質なのは魔法だ。
当たり前のように人々は何もないところから明かりや水をだし、火をつけるときは手をかざすだけでマッチなどを使っている形跡はない。
日常の中に魔法が溶け込んでいて僕たちが当たり前のように電気を使う感覚で使っている。
それが僕にはどうも変な感じがして馴染めない。
居心地が悪いと思いながら周囲を見ながら歩いているとだんだん雰囲気が変わってくるのを感じる。
屋台などはいつの間にかなくなり、武装している人の割合が増えてきた。
空気もどこかピリピリしてきた。
だんだん怖くなってきてイデアルに聞いてみた。
「これからどこに行こうとしているの?」
僕が不安そうにしているのを感じ取ったのか彼女は僕を落ち着かせるようにゆっくり言った。
「もともとは危なくなかったんだけど、今はちょっと危険な場所。
とは言ってもみんな巡回しているから大丈夫だよ。
危なかったとしても今の君をほっとく方が駄目だと思うんだ。」
彼女はどこまでわかっているのだろうか。
自分の心に芯があって、熱い心のある優しい彼女。
自分とは全く違う存在なのに僕のことをわかってくれるのだろうか……?
いや、そんなことはあり得ないしそんな期待を持つ必要はない。
今は容器が壊されたからか不安定だ。もっと能面のようにならないと……。
そう思いなおして歩き続ける。
◆ ◆ ◆
たわいもない話を少しして、会話がなくなって少し黙るという気まずさを感じることをしながら彼女についていく。
そんな状況を壊したのはあの獣の咆哮だった。
「ッグオオォーン」
はっきりと聞いたのは初めてだった。前回と違って近距離で放たれた声は僕の足を縛り付ける。
その直後に悲鳴が聞こえる。
「キャアーーー」
子供の声だった。多分子供にはどうしようもないだろう。
そしてその後こっちに来てあの蜂のように僕をもてあそぶようにし、捕食していくのだろう。
そんな想像を押し付ける絶望に満ちた声だった。
その声を聞いたイデアルは
「行ってくる」
と一言残して駆けていった。僕はまだ足ががくがく震えてまともに動かないのに。
どうやら事件が起きたのは30メートルくらい先の交差点を曲がったところのようだった。
イデアルを警戒する対象として判断したのだろうか、そこから獣が飛び出してきた。
そいつは狼のような見た目だったが蜂と同じでサイズがおかしかった。
その頭の位置は彼女の頭の位置より高く、その体高相応に身体が筋肉に覆われていることが毛皮越しに分かった。
全身が灰色の毛でおおわれているが、汚れによって固まっていてフワフワしているように見えなかった。
顔は見た瞬間に後悔した。目を見るとそこは殺意で満ちており、射殺すような目つきでイデアルを見つめていた。
イデアルは速度に乗ったままそいつに突っ込んでいった。
それに狼は合わせるように右前足を上げ、爪をふるった。
彼女が死んでしまう!!そう思って近づこうとすると彼女はいつの間にか剣を握っていてそれを何回か振るった?
速すぎて見えなかったがおそらく剣をふるったのだろう。
なぜなら狼の右前足は肘から先がなく、頭がボドリ、と落ちたからだ。
僕は啞然とした。
蜂の時にはどのように切られたかわからなかったが、それは朦朧として以下からだと思っていた。
けれど違った。彼女はただ単に早く動いて早く切っただけだったのだ。
あまりに人間ばなりした動きに僕はついていくことができなかった。
それに狼が死んだという実感がわかない。あんな恐怖をまき散らすような存在が本当に一瞬で死ぬのか?
もしそうだとすると彼女は一体何なのだ?人間を蹂躙することができる化け物を瞬殺するとかあり得ない。
ふとある言葉がよぎった。
「この町の人たちは人種などで差別された人たちのよりどころなの。
人間と比べて数も少ないし、モンスターの特徴をもっているから私たちは差別の対象になりやすかった。」
あの動きはモンスターだからできるのだろうか?なら恐れられても仕方がない。
だってあんなものどうしようもない。対処する方法などあるわけがない。
そんな存在がモンスターのようである?つまりあの野性の塊のような存在そっくりということだ。
そうなると彼女は爆弾とほぼ同じだ。いつ豹変するかわからない。
そんなもの近くにいてほしくない、追い出すに決まっている。
彼女が子供に近づいて何かを離し、指をさし、何かを言っている姿を兵器を見る目で僕は見ていた。
その後彼女はこちらに近づいてきた。
ひどい仮説を思いついた僕はこう聞かざるを得なかった。
「どうしてイデアルはそんなに強いの?」




